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勇者:????(仮)  作者: ちきん
第一章
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議長と師匠3

「よし、見えてきたな。あれがバ・オルだ」


歩くこと数日、漸く中継点であるバ・オルの姿を捉えることができた。

かなり特徴的な外観をしているので、遠くからでも簡単に見つけることができる。


「あれが、バ・オルですか……。ヒアスの話で聞いていた通りですね。あちらこちらに大きな石筍がそびえ立ってます」


そう、バ・オルは自然によって形成された巨大な石筍(筍というより篠に近いが)群の中にある村だ。

何故あんなのができたのかはよく覚えてない(たしか地属性の魔力が云々とか言ってたな)が、この地一帯で採れる鉱石は質が良いため、村が存在している。

以前は、この鉱石を求めて小国、組織が小競り合いをしていたようだが、AT(アーベント・トラウム)がここを拠点にしてからそれらの争いはなくなった。

そして何故ATが拠点にしたかというと、どうも議会からのお達しらしい。恐らく採れた鉱石でギルドで使う武器を作っていいから治安を良くしろ云々の取引があったのだろうが、元々議長さんとギルドの頭領の仲が良かったのも一因であろう。


「リーネ、景観に感動するのは構わないが、そろそろ足を動かそうぜ。なんか雲行きも怪しくなってきた」


このまま少し休憩しても良かったのだが、空を見ると、雲が厚くなってきていた。これは一雨来そうだな。


「あっ、はい。そうですね。…ごめんなさい」


「これぐらいで謝らないでくれ。別に咎めているつもりもないし、あんまり謝ってると謝罪の価値が下がるぞ」


「は、はい。ごめんなさい…あっ」


………ダメだこりゃ。



「フゥー、大丈夫か、リーネ?」


結局あの後、バ・オルに辿り着く前に雨に降られてしまい、大急ぎでバ・オルに到着し、宿屋で部屋を借りて、今服を乾かしているところだ。


「はい、なんとか………」


神子さんはベッドの上で毛布にくるまっている。着ていた服は下着も含めて絶賛乾かし中であるので、毛布の下は全裸だろう。まぁ、それは俺も同じことだが。


「………………」

「………………」

「「………………」」


……き、気不味い!

互いに何かしようという疚しい気持ちはないけど、狭い部屋で毛布で裸を隠している年頃の男女二人というだけで非常に気不味い!

誰か!この状況を打破してくれ!


「………ヒアス」


「…ん?なんだ?」


永久に続くのではと思える程の長い沈黙を経て、神子さんが口を開く。


「なんであの時、私を助けてくれたんですか?」


助けた?……あぁ、脱走の時の話か。


「さぁな。俺もその時の俺に訊ねたいもんだ。なんであんなことに首を突っ込んだのか、ってね」


ここで『人を助けるのに、何か理由がいるのか』なんて高尚なことが言えないあたり、俺はやはり汚れているのだろう。


「ですけど、自ら罪を被るようなことを………」


身体を更に小さく見せるように身体を丸める神子さん。


「何言ってんだ。リーネを助けようが助けまいがどちらにせよ、俺は犯罪者になってたんだぜ?」


そう、俺はあの時どちらを選んでも罪を犯すのは確定していた。

あの選択によって変わったのは、罪の重さと、盗む対象ぐらいだ。

だったら、自分に正直に選んだ方が幾分マシだろ。窃盗の依頼人には、失敗の賠償として金を上乗せして返せばいいし。


「そうかもしれませんが……やっぱ「ヒーーアーースーーーーーッ!!!」


「――ぐはっ!?」


神子さんが何か反論しようとした次の瞬間、力強い女性の声と、扉が叩き付けられる音と、物凄い勢いでぶつかられ、思わず口に出てしまった俺が声が同時に部屋内に響き渡った。

……この声は!


「逢いたかったわ~!んもぅ、独立してから全く顔を出さないんだもん!でも、こうしてこの村に来てくれたってことは、もう反抗期は終わったのね!…あっ!ヒアスったら、あたしが待ちきれなくてもう裸になってるのね!そういうことならお姉さんに任せなさい!ちゃんと気持ち良くしてあげるからね!」


俺に覆い被さってきた緑色の短い髪の毛――前髪は少し長く、ヘアピンで止めている――を持つスラッとした体型(だからといって、胸がないわけではない)女性は、マシンガントークで何か色々間違ったことを口にしている。早口すぎて、大半は何て言っているのか分からないが。


「や、やめてください師匠。俺にはその気は全くありませんから……」


押し倒されてベッドの上に横になっている俺の真上に乗り、太股と胸板を撫で回している女性に話し掛ける。

というか、手を出すの早(速)すぎないか?遭ってものの十数秒でこれだぜ?


「照れなくていいのよ。お姉さんに任せておけば問題ないから」


問題大有りだ馬鹿!少しは周りの状況を確かめろ!


「いやほら、そこに人もいますし……」


先程まで俺の身体を撫で回していた(自分でいうのも恥ずかしい)両手は、それぞれ、いつの間にか股間と首に回されており、流石に身に危険を感じた俺は、神子さんをダシに止めさせるように呼び掛ける。

すまんな神子さん。こんなことに使ってしまって。

ちなみにそのご本人は、顔を真っ赤にしてこちらの様子を窺っている。可愛いなぁ、神子さんは。


「………!」


神子さんの存在に漸く気付いたのか、さっきまでの俊敏さが嘘のようにピタッと止まる。

そして、首だけを動かして神子さんの方を見て、今度は完全に静止してしまった。身体のどの部位も微塵に動かない。

その後、暫くした後――


「――か……」


「か?」


「可愛いーーーーーー!!!」


神子さんの容姿が余程好みだったのか、さっきまでの行動を止め、今度は神子さんに飛び掛かる。


「――へ?」


あまりにも突然のことだったのか、神子さんはポカンと呆けている。

そしてそのまま押し倒されて………


「何この子!すっごい可愛いんだけど!もうお姉さん我慢できない!ペロペロしちゃおう!」


そう言うと、神子さんの身体をまさぐりながら首筋辺りを舐め始めるド阿呆。

って、ボーッと見てる場合じゃねぇ!早く助けないと!


「――爆華・亜種(バッカ・アシュ)!」


「――ふぎゅ!」


神子さんに覆い被さっている変態を背中から抱え込み、そのまま身体を反らせて後方に投げ、俺はその勢いで床に手を付き、逆立ちの要領で足を上げ、身体を180度捻り、踵落としをド変態に決める。

ちなみに、爆華とは空中からの落下による加速で威力を上げた踵落としのことである。俺は使えない(本当は使えないこともないが、俺の場合軽装が基本なので踵落としに威力が乗らないので使わない)が、ここにいる阿呆の得意技の一つである。


「いったーい!よくもやってくれたわね!もう許さないからね!」


「うるせぇよ!あんたが年甲斐もなくはしゃぐのが悪いんだろうが!」


もう敬語なんて必要ない。敬う気持ちなんてこれっぽっちもないからな!


「ひっどーい!まるであたしが歳を取ってるみたいじゃない!」


「実際取ってるだろ!もうすぐ三十路が何言ってんだよ!」


「あたしは永遠の17歳よ!この間だって仕事先での酒場で、そこで知り合った二十歳ぐらいの女の子と一緒に混じってお酒飲んでたらナンパされたんだから!」


「そいつはあんたじゃなくて一緒に飲んでたっていう女の人をナンパしたんだろ」


「違うわよ!その人あたしへのボディタッチが多かったもの!」


こうした神子さんをおいてけぼりにした不毛のやり取りが以下数十分続くので、ばっさりカット。



「――二人共きちんと仕事している大人ですよね?!なんでこんな子供みたいなことしているんですか?!」


「「はい、返す言葉もございません………」」

あの後、俺等の永久に続くと思われる罵り合いにいい加減堪忍袋の緒が切れたのか、二人して神子さんに怒られ、今もその最中です。

なお、正座をさせられているので、今現在足が悲惨なことになっています。

……しかしまぁ、この構図は奇妙だよなぁ。一人は普通に服を着ているからいいとして、他二人は裸に毛布一枚だもんな。全く、これじゃ俺達の方が変態みたいだぜ。


「……ヒアス。ちゃんと聞いていますか?」


「はい!きちんと一言一句逃さず聞いております!」


こ、こえぇぇぇぇぇ!


「……嘘ですね。…まぁ、今はいいでしょう。サーシャさんをいつまでも引き留めておくわけにはいきませんから。……けれど、後できちんと罰を与えますから、覚悟していてくださいね♪」


にこり、と微笑みながら優しく諭すように話す神子さん。

でも神子さん。目が全然笑ってないんですが……。


「は、はい………」


あ、これは終わったなと、諦め精神全開で了承の言葉を口にしたのだった………。

なお、俺と一緒にお叱りを受けているのはサーシャ・ヴィンド。俺の師匠兼討伐ギルドATの首領だ。



「――えっ?じゃあサーシャさんでヒアスのお師匠さんなんですか?」


翌日、雨はすっかり上がり、雲一つない青空が広がる街中を、二人並んで歩く。

こうして村の風景を見ると、一二年来なかっただけで結構変わるもんだなと思う。


「ああ、俺の戦い方はあの人の教えが元になってるからなぁ…」


もっとも、あの人の戦い方と俺の戦い方とでは根本的な所が違うがな。


「ということは、私失礼なことしちゃいましたか……?」


恐る恐るこちらの反応を窺う神子さん。


「そんなことはないさ。むしろどんどん言った方があの人のためになるんじゃないか?」


若作りに躍起になっているせいで、何処かしらのネジが緩んでいるから。

何が永遠の17歳だよ。確かに若く見えるけど。


「――あたしがどうかしたのかしら?」


「うわっと!」


急に背中に衝撃と重さを感じる。


「……師匠、降りてください」


当然、俺の背中にへばりついたのは昨日あれだけ散々貶し合った女性――サーシャ・ヴィンドであった。

リーネじゃなく俺に抱き付いたところをみると、やはり昨日のが効いてるなと思う。


「何!その面倒なのに見つかったっていう感じの反応は!」


「自分でそう分かっているんだったらもう少し考えてから行動してください」


あなたのテンションについていくのは大変なんです。


「冷たい!冷たすぎるわ!」


「冷たくて結構」


大体、あんたのせい(俺のせいでもあるが)で結構疲れてんだ。面倒臭いことはご勘弁願いたい。


「ま、まぁヒアス。サーシャさんもお忙しい中こうやって会いに来てくださったのだから、そうやって無下にしないで……」


「そうよそうよ。あたしがあんたのために仕事の手を止めてまで会いに来たんだから、少しは歓迎しなさいよ」


神子さんのフォローが入った瞬間に水を得た魚のように強気になるド変態。わっかりやすいな~。


「何が会いに来ただよ。大方机仕事をするのが嫌になって逃げたしてきたところに、丁度俺達を発見したってところだろ」


「うっ、それは……」


言い淀む師匠。図星かよ……。


「あぁ、そうだ。あなた達はなんでこんな辺鄙な所にある村に来たの?ここには国が抱える鉱石しかないわよ」


「師匠、これは彼女からの依頼ですから、口外することはできませんよ」


この人のことだ。知ったら『あたしも行く』とか言って絶対ついてくる。

あなたにはあなたの仕事があるんだから、それを全うしてほしい。


「そんなこと知ってるわよ。あたしが聞いているのは、リーネちゃんの方。依頼主本人が話すのは問題ないからね」


ぐっ………。

こいつ神子さんが絶対に話すだろうって確信してやがる。


「私達はここから更に西のヨハネス遺跡を目指しているんです」


って、もう話してやがる!


「ヨハネス遺跡って、障気が発生したっていうあの?」


「はい、そうです。立ち入るための許可証はヒアスが取ってきてくれたんですよ」


流石にその名前を聞くとは思っていなかったのか、軽く驚いている師匠。

そして、それとは対に許可証のことを嬉々として話す神子さん。

それを見て、師匠がこちらに近付き、


「あんた何キツイ依頼受けてるのよ。まさか依頼人の顔に釣られたんじゃないでしょうね?」


小声で神子さんには聞こえないように話し掛けてくる。

まぁ、普通はそう思うよな。


「俺だって最初からこんな依頼受けるつもりはなかったですよ。ですけど、成り行き上仕方なく………」


俺も小声で返す。


「二人共、どうしたんです?」


流石に自分の話を聞かないで何やらこそこそ話しているのを不審に思われたのか、軽いジト目でこちらを見つめている。

可愛いと思ったら負けなのだろうか?


「ん?いや、何でもないよ。ただ道を訊ねていただけだ。ほら、この辺の地理は俺なんかより師匠の方がよく知ってるだろ」


まっ、実際はそんなこと訊いてないし、聞く必要もないけどな。道知ってるし。


「そうそう。それで、あの辺りは道が入り組んでいるから、あたしが案内してあげるって話してたの」


「ちょっ………」


思わず出かかった言葉を急いで飲み込む。

咄嗟についた嘘に乗っかってきやがった!

チッ、是非お断り願いたいところだが、この話から断るのは不自然だな。


「えっ!本当ですか?」


「……あぁ、そうだな。話を聞いただけじゃ分からない場合もあるからな。無駄な時間を割かないためにもそうしてもらおう。………付いてくるのは構いませんが、立ち入り禁止区域手前までにしてくださいよね」


師匠の同行を認める言葉を口にした後、小声で師匠に釘を刺しておく。


「分かってるわよ」


にこりと微笑み返される。

あっ、絶対分かってないな。何がなんでも付いてくるつもりだ。

どうするべきか……。


「――じゃあ、準備も色々とあるだろうし、今日はここで解散しましょ。出発は明日の朝ってことで。…それでは、解散!」


しかもいつの間にかに仕切ってるし………。

キャラ紹介


・サーシャ・ヴィンド

性別:女

年齢:29

身長:160cm強

容姿:緑髪のショートで前髪をヘアピンで止めている。青目。

出身地:ボルネス

職業:討伐ギルド『アーベント・トラウム』頭領

武器:拳・脚

スペック:

体力:B

魔力:D

攻撃:B

防御:S

術攻:E

術防:D

敏捷:C

命中:B

回避:C

致命:B

備考

討伐ギルド『アーベント・トラウム』の頭領。

ヒアスの師匠で、変態淑女。ヒアスがサーシャの付き人だった時は常にセクハラをされていた。

普段こそあれだが、いざという時はカリスマ性を遺憾なく発揮し、様々な死線を潜り抜けてきた。


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