議長と師匠2
作者の呟き
・今回は少し短め
・あれが再登場
・本当は1話分で『あの人』登場の筈だったのに何故こんなに延びてしまったのか
・結局『あの人』は未登場←ここ重要
「――くっ!流石にキツいなッ!」
迫りくる脚をかわし、ナイフを投げる。それは見事命中したものの、如何せんキズが浅く、大したダメージは与えられていない。
しかも思ったより俊敏で近寄ろうにも、飛んでくる攻撃によって邪魔をされてしまい、思うように近寄れない。
どうするべきか……。
「ひあす!なにをしている!このままではじりひんだぞ!」
「分かってる!」
分かってる。が、現段階じゃこれといった有効打が全くない。
だからといって、はいそうですかと大人しく喰われるつもりも毛頭ない。
……しゃあねぇ、一か八かだ!
「ほら、来いよ!」
わざと構えを解き、その場に静止する。
当然、大蜘蛛には俺が静止したことに対して何かを思案するような知能は持ち合わせていないので、何の躊躇いもなく脚を俺に向かって振り下ろす。
俺はそれをすんでのところで横に避け、目の前にある脚を斬る。いくら短剣であれど、零距離ならばそれは深く斬ることができる。それこそ、蜘蛛の細い脚などは切断可能だ。この蜘蛛は大きすぎて七割程度までしか斬れなかったが、それでも十分である。あとは自重で勝手に折れてくれるからな。
案の定、脚が一本折れた蜘蛛は奇声(異音といった方が正しいのであろうか?)を上げ、無理な体勢のまま二撃目を放ってくる。
流石に二回連続であんなことはしたくない(というか、できない)ので、今度は大きくかわす。
四本足の魔物ならば、ここでバランスを崩して倒れであろうが、蜘蛛は一般的に八本足。それはこの魔物にもいえることである。すなわち、こいつは残り六本の脚で、しっかりと立って(?)いる。
だが、これで相手に大きなダメージを与えられた。更に、一本失ったことで攻撃にムラが出るだろう。叩くならそこだ。
「ひあす!なにをぼさっとしておるのだ!」
議長さんの声にハッと意識を蜘蛛に向ける。
「――ッ!?しまっ――ぐぅッ!」
蜘蛛の口から勢い良く噴出した糸(極太)を胸に喰らい、盛大に吹き飛ばされて、地面に叩き付けられる。
しまった、完全に失念していた。さっきまで全く使用する素振りを見せなかったのと、普通の蜘蛛はこんな使い方をしないことから、糸の存在をすっかり忘れていた。
蜘蛛の糸は、普通獲物を捕らえるために張る罠に使うが、魔物の蜘蛛はその糸の太さからか、時折鞭のように使う。その威力は糸の太さにもよるが、今回のは例外的な巨大蜘蛛だ。当たり前だが、糸の太さもそれに比例している。つまり、とても範囲が広く、途轍もなく痛いわけで。
「つぎのがくるぞ!」
議長さん(幼女)の声が追撃を報せる。
その声に、避けなければとおもうのだが、身体が思うように動いてくれない。
どうやら俺は幼女の声援で身体的能力が飛躍的に上がる一部の猛者達とは違うようだ。
くっ、ここまでか?あれだけの啖呵を切っといて。全く、格好悪過ぎるだろ……。
それに、まだ神子さんを目的地にすら辿り着かせていないってのに……。
こんなことならあんな依頼、端から請けなかったってのに……。
「あら、こんなところで死なれては困りますわ。せめて料金分は働いてもらわないと」
突如中空に現れた光輝く剣の眩しさに、思わず目が眩む。
そして、その直後に何かを突いたような音と蜘蛛の断末魔らしき声が辺りに響く。
どうやら光剣が魔物を貫いたらしい。
そして――
「しっかりしてくださらないかしら?あなたにはしてもらわなければならないことが沢山ありますの」
何者かがこちらに近付く足音がし、身体が暖かいものに包まれる。これは、治癒術か?
「その声……あんた、ロベリアか?」
「ご明察♪」
漸く見えるようになってきた目で、辺りを見渡す。そこには、満面の笑みを浮かべたロベリアがしゃがみこんで、俺の顔を見つめていた。
……少し可愛いと思ったのは内緒だ。
「…そういえば、なんでロ「貴様、一体何者だ?」
ジャキ、とロベリアの首に刀が添えられる。
相変わらずだな人は。
あっ、声と背丈がもとに戻ってる。無事戻れたんだって……!?
「議長さん!服!服を着てくれ!」
彼女は全裸の状態でロベリアの首に愛刀を当てていた。
「あら、人に名前を訊ねる時はまず自分から、ではなかったかしら?」
そんなこと(刀と全裸)には意に介さず、訊ね返すロベリア。こちらも相変わらず肝が据わっていた。
まぁ、人の性格なんて一朝一夕に変わるものでもないしな。
「そうだな。それは失礼した。私はソフィ・ルーカス。この国で議長をやらせてもらっている」
手にしている剣を一切振れさせずに淡々と自己紹介を行う。
「ああ、あなたがかの有名な議長様でしたか。お会いできて光栄ですわ。私の名はロベリア・リーデヴァイン。しがない旅人ですわ」
対して、こちらは余裕たっぷりで行った。やはり胡散臭さは健在である。
「と、取り敢えず剣を収めてもらえないか?それと出来れば服も着てもらいたいんだが」
結構緊迫したシーンであるから、口出しせずに端から見ていたいのに、議長さんの姿のせいでついつい口を挟んでしまう。
だって見ようとしている対象が全裸なんだぜ?そういうのには多少慣れているつもりが、改めて見るとついそっちの方に集中してしまうだろ?
もしそれが気付かれた際にはもう恥ずかしくて目も当てられない。
恐らく気付くんだろうなぁ、この二人は。
「悪いが身分のはっきりしない者から剣を離すつもりはない。それにこんな婆の裸体を見られたところで、今更恥ずかしくなることはないのでな」
議長さんはそう言って微動だにしない。
いやいや、あんたの肉体年齢はあんたの実年齢よりも遥かに若いだろ!?今でもあんたのことをエロい目で見る奴だっているんだから!
「この人のことは俺が保証するからさ。だから、早く剣を収めて服を着てくれ」
内心を気取られないように、自身を落ち着かせるように話す。
正直に言うと、この二人にバレたところで心配が徒労に終わる反応が返ってくるであろうが、そこは俺のプライドにキズがつくから隠しているだけだ。
「ふむ……貴様がそこまで言うのなら剣を収めよう。ただし、この女が少しでも変な動きをしたら即座に斬らせてもらう」
刀を首筋から離し、一振りしてから鞘に収める。それを見て安堵の溜め息が漏れる。
このまま二人が戦い始めたらどうなったことか……。議長さんは言わずもがなの強さだし、ロベリアには先程俺がかなり苦戦していた魔物を一撃で仕留めるぐらいの実力がある(俺を基準として物事を考えていいのか甚だ疑問だが)。少なくとも両者が争ったらこの辺の地形が変わるだろう(地面に穴があく程度のことは絶対に起きる)。
「まあ、恐ろしいこと。これは借りてきた猫のように大人しくしてないといけませんわね」
……うわー、うぜー。
あまりの嘘臭さに軽く目眩を覚える。どうやらそれは議長さんも同じらしく、額に手を当て、軽い溜め息をついていた。
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もう夜が明ける頃、漸くハ・ロイについた俺達は一先ず大会議場の議長さんの私室に入り、軽く話し合った。その際に全裸祭だとか、ロベリアはドM(自称)だとか色々なことがあったが、疲れているのでそれらは割愛させてもらう。
とにもかくにも、宿屋に戻ってきた俺はリーネが泊まっている部屋に向かった。そしたら当然の如く鍵がかかっていたので、一旦フロントに戻ってスペアキーを貸してもらおうかと思ったが、それをするのも億劫に思えたので、ドアの前に座り、そのまま眠りについた。
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「…………んんっ?」
背中を押されるような感覚で、目が覚める。
「(あれ?どうしたんでしょう?扉が開かなくなってしまいました)」
後ろの方から聞こえた声と、未だに押され続ける背中について、漸く回り始めた頭がすぐに答えを弾き出す。
外開きのドアにもたれ掛かるようにして眠ったせいで、部屋の中にいるリーネが外に出られないのだと。
「――きゃ!?」
「うおっ!?」
急いで立ち上がり、ドアから離れると、今度は先程の数十倍の強さで背中を押され、そのまま、前方へ倒れる。その際、咄嗟に顔を両腕で覆って顔面強打を防いだが、痛いものは痛い。
「……おはようさん。朝から元気そうで何よりだ」
背中に感じる重みに対して挨拶をする。
「ヒ、ヒアス!何処行ってたんですか!小一時間程度で帰ってくると言っていたのに、夜になっても帰ってこないので心配したんですよ!本当は捜しに行こうかと思いましたが、この辺りの地理に詳しくない私が変に出歩いて、反ってヒアスに迷惑をかけてしまってはと思い………」
「それは本当に悪かった。だから降りてくれないか?起き上がれない」
上体を起こした神子さんが捲し立てる。
「嫌です!話してくれるまで退きません!」
神子さんがここまで言うなんて珍しいな。それだけ心配してくれたってことか?
「…これだよ。これをもらいに行ってた」
神子さんが起き上がってくれたおかげで多少自由がきくようになった上半身を背筋をするように軽く起こし、懐に入れておいた書状を取り出す。
「これは……?」
「西の立ち入り禁止区域の通行許可証だ。これを手に入れるのに少々手間取っていたせいで今朝早くまで時間を食ってしまっただけだよ」
嘘はついてない。
まぁ、本来この許可証を手にするのは非常に難しいから、夜の苦労もこれを手に入れるための代償だと思えばおかしい話はない。
「そんなの言ってくれれば「悪いな。一応俺達は雇われ人と雇い主の関係だ。雇い主にそんなこと頼めないだろ?」…ですけど……」
「それに、依頼主をこき遣いましたーって同業者に知られたら俺のメンツがなくなるだろ?今回の行動は俺のためでもあるんだ。許してくれないか?」
「……分かりました。でも、次からはちゃんと言ってくださいね?」
「ああ、分かったよ」
すまんな神子さん。俺は嘘つきなんだ。
・
・
・
~同刻~
「……………………」
ハ・ロイの中で最大の高さを誇る時計台の天辺に一つの黒いカゲが。
「――あなたがこんな場所にいるなんて珍しいこともありますのね」
そこに新たなカゲが一つ。
「……………………」
初めにいた方のカゲは問いかけを無視し、何処かへ消え去ってしまった。
「あら残念。フラれてしまいましたわ」
残されたカゲは、やれやれといったふうに肩を竦める。
「……私も退散させていただきましょう。それでは、あなたに最高で最悪な出逢いが在らんことを」
残されたカゲも立ち去り、その場には風が一つ、静かに吹いた。
・
・
・
「――忘れ物とかはないか?」
「はい、大丈夫です」
宿泊していた部屋の鍵を鍵穴に差し込み、一応最後の確認をし、その後鍵をかける。
「じゃ、先程も言った通り、一度バ・オルを挟んでから目的地に向かうぞ」
「はい」
道順も確認する。
ちなみに、バ・オルというのはハ・ロイから西南西の方角にある村のことである。
この村は討伐ギルド『アーベント・トラウム』が治めており、ギルドの人間も多い。
また、アーベント・トラウムは結構大きなギルドであるため、バ・オルの治安は意外といい。というか、ギルドが町村を持つことはほとんどない。まぁ、これもクエンティードの歴史を鑑みれば当たり前なのだが、説明すると長くなるので割愛。
「じゃ、さっさとバ・オルに向かうとするか」
……出来ればあの人には遭いたくないけれど。
改めて思ったんですけど、小説って書くの難しいですね。
やっぱり大まかな内容だけ決めてあとはぶっつけ本番で書くのがいけないのでしょうか?
しかし、面倒臭がりの作者にとって、ちゃんと筋道を立ててから書くというのは億劫です。
それに、キャラをその場面場面におけば勝手に動いてくれる(しまう?)ので、元々予想していたものとは別の展開になってたりすることが多いです。現に出る予定がなかった奴まで勝手に登場してるし……。
まぁ、結局は自己満足小説ですから、深く悩むつもりもありませんし。今まで通り行き当たりばったりでいいでしょう。
…………だめ?