商業国家クエンティード
更新を一ヶ月以上も怠ってすみません。だからこそ次回は早めに、と言いたいところなんですが、更に忙しくなってきたのでまた更新するのが遅くなりそうです。こんな駄文を読んでくださっている皆様には本当に申し訳ないです。
「あー、だりぃ。ったく、ロベリアめ。少しは加減しろってんだ……」
朝、若干イラつきながら廊下を歩く。
全くあの変態は……。ほぼ初対面の奴相手に、いきなりベッドインに持ち込むか?普通……。
ちなみに、その変態の名前はロベリア・リーデヴァインというそうだ。あの様子じゃ本当かどうかわかんねぇけどな。
「――さて、リーネにどう説明するかな……」
直接的に頼まれたからとは言えないし、だからといってまた嘘をつくのもなぁ……。
ホント、嫌になっちまう。
……おっと、そんなこと考えている間にもう部屋に辿り着いちまったか。
仕方ない、取り敢えず彼女を起こすか……。
「おーい、リーネ。朝だぞー、起きろー」
ドアを開けながらやる気のない声で起こそうとする。
まぁ、この程度で起きるんだったら昨日の苦労は要らないな。
「へっ……!?」
「うおっ!?」
部屋の中には、寝汗でもかいたのか、身体を拭いているリーネの姿があった。当然、修道服は脱いでいるので……
「す!すまん!」
大慌てで扉を閉める。二度目だぞ、これ……。
…それにしても綺麗な肌だったな……って!俺はなに考えてんだ馬鹿!
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結局、あの後裸を見られたリーネがグズリだし、宥めるのに一時間ぐらい費やした。その最中に、『もうお嫁にいけません』だの、『責任とってください』だのとテンプレなことを泣きながら言われ、結果として俺は彼女のいいなりになった。これから先、彼女の言うことには逆らえない、逆らわないと誓わされた。御丁寧に誓約書まで書かされたよこんちくしょう。
そして、それによって気付いたことがある。それは――
「ヒアス、踏ませてください。前から一度してみたかったんです」
――意外にもSだったということだ。
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~ク・ネルラ港~
「じゃあリーネ。ついさっきも話したが、俺もついてって構わないんだな?」
今俺達は港にある宿泊所の一室にいる。
何故かというと、夕方に港に着いたので出発は明日ということとなり、取り敢えず今日は宿泊所に泊まることにしたからだ。
ちなみにリーネの希望で今回も同室である。理由は宿代が浮くからだそうだ。
…意外と庶民的思考だね、神子さん……。
「はい、勿論です。…というより、あなたが先に仰らなかったら、私が頼んでいましたから」
「へぇ、俺は神子さんであるリーネのお眼鏡にかなう程の人間なのか。こりゃ僥倖だね」
神子さん、あんたは少し人を疑うことを知った方がいいぜ?嘘を散々ついている俺が言うのもなんだがな。
まぁ、とにかくこれで依頼の第一段階は完了だな。とはいっても、ここからが本番なんだけど。
「…あぁそうだ。これ、明日から身に付けて行動してくれないか?」
そう言って、傍らに畳んであったフード付きのマントを手渡す。
「これは……?」
「ここ、ウェッチ大陸は全体的に乾燥しているからな。これで多少はマシになるだろう」
本当の意味は全く違うけど、これも強ち間違っちゃいない。この大陸の北部にあるスーア砂漠では特にな。まぁ、あんな所を好んで歩く馬鹿はいないけどな。
ちなみに、本当の意味とはリーネを神子さんだと知っている連中に遭った時に気付かれないようにするためだ。
…それなら対策が遅いんじゃないかって?
いやいや、実はそうでもないんだな。前にも言ったと思うが、メルレントは重度の情報規制国家(恐らく造語)だ。だから、ほとんどの一般市民は神子の存在は知っていてもその顔は誰も知らない。つまり気付かれようがないんだ。あの騒ぎを観ていた奴等以外にはな。しかし、ここは連合国クエンティード。お偉いさんは山のようにいる。そのお偉いさん方は国家間の交流の際にリーネの顔を見ている可能性がある。流石に隠しておきたいから交流会に参加させないってわけにもいかないだろうしな。だからこそ、そのお偉いさん方に気付かれるわけにはいかない。人のいい奴ならいいが、恐らくほとんどの奴は良からぬことを企てるに違いない。そうなると俺の手には負えない。俺より腕の立つ奴なんてごまんといるからな。
「ヒアス?先程から黙ってどうかしたんですか?」
「ん?あぁ悪い。考え事をしていた。で、何か用か?」
しまったな。少々考え事に耽りすぎたか。
「いえ、そういうわけではないのですが。……よろしかったら相談に乗りますよ?」
「…いや、大丈夫だ。それに、考えてたのはくだらないことだしな」
そう、本当にくだらないこと。これならリーネのサディスティックな行為をどうやったら止めさせられるか考えた方がよっぽどマシだ。
ついさっきも人がうつ伏せになってベッドに寝っ転がっていたら背中に座られたしな。しかもわざわざジャンプして座りやがって……。思わず海老反りになってしまった……。
そして何て言うかと思ったら『あら、いたんですか?気付きませんでした』だとよ。白々しい。
というか、リーネのキャラがどんどんおかしな方向に進んでいる気がするんだが……。このまま放置しても大丈夫なのか?
ちなみに、俺はMではない。こんなことを言うと、私はMですと断言しているみたいだが、本当に違う。
まぁ、だからといってSでもないんだが。というか、未だに自分の性癖が分からない。いや、もう性癖は分からないの方が正しいか。だってもう散々色々な性行為をしてきたからな。今更どうこうということはない。
ちなみに勘違いしないでほしいが、無理矢理はしていない。ただ職業柄、女性からの情報収集に一役買っているだけだ。最低男だというのは否定しないが。
だから本来、俺が神子さんのような人間と一緒にいる方がおかしいのだ。
穢れを知らない――先程からそうと断言できなくなってきたが――人間と 穢れまくった人間。どう考えてもかかわり合うべきではない。両者共不利益しか得られないのだから。
「とにかく今日はもう寝よう。明日は早いんだし」
「…そうですね」
部屋の明かりを消し、ベッドに潜った。
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「そういや気になってたんだけど、リーネのその術って誰に習ったんだ?」
港から出発した俺達は、取り敢えず一番近い街ハ・ロイ向かうことにした。まぁ、ハ・ロイは首都だしな。街というより都市の方が正しいか。
今はその道中。途中魔物に絡まれたりしたが特に大事は起きなかった。
そしてその時に気になったこと――リーネの術について質問した。回復術や支援術は結構使える奴が多いが、敵の動きを縛る術なんてのは俺が知ってるなかでも数人しかいない。しかもリーネのそれは今までに見たことのない術式だ。
そして、極めつけはあの攻撃術。あんな高火力の術見たことねぇよ。見た目的に光属性っぽかったが、俺が知っている術にあんな術はない。
「私の術ですか?いえ、特には……。物心ついた時ぐらいにはもう使えてましたし……」
「ちょ、ちょっと待て!…今何つった?物心ついた時にはもう?」
馬鹿な……。魔法ってのは、体内の魔力を詠唱によって変成・整形して放つものだぞ!適当にやって放てるものではない。
だからこそ、この前の二人組に助けられた時に詠唱破棄したことに驚いたのだ。詠唱とはいわば鋳型。それなしで術を生成するのは鋳型なしで同じ形を作るのと同じこと。まぁ、非常に簡単にいうと、すごく難しいってことだ。
って、ちょっと待てよ……。
「そういや詠唱してたろ?その詠唱は?」
「あっ、それは私が考えました。意外と難しいですよね、術に合った詠唱を考えるのって」
「なっ……!?」
おいおいマジかよ……。
過去の賢人達が数十数百年と時間をかけて漸く形にしたそれを、目の前のこいつは意外と難しいの一言で済ませやがった……。
これはメルレントもリーネを神子とするわけだ。こんな逸材、捜しても数百年に一人いるかいないかのレベルだぞ……。
「じゃあ今も新しく作ろうとすれば作れるのか?」
「はい、すぐには無理ですけど、半年ぐらいあればどうにか」
マジか………。
だとすると、俺は物凄い爆弾を抱えている状態ってわけだ。通りで依頼料がとてつもないわけだ。
これは少し確認しておいた方がいいな。
「…いきなり話を変えるけどさ、ついさっき魔物を木っ端微塵にしていた術。あれもリーネが?」
「はい、私が作り出した術の一つです。私の術を知っている人達はこれらの術を神聖術と呼んでいます」
神聖術ね……。たしかに神の名に恥じぬ威力だしな。だけれど……
「リーネ、その神聖術とやらを使うのしんどくないか?」
あれだけの破壊力だ。魔力の消費は激しいだろう。
「…たしかに普通の術よりは魔力の消費は多いですけど、私は大丈夫ですよ?」
にっこりと笑って自分のことは心配するなと言うリーネ。
だけどな、リーネ。嘘は俺の専売特許だ。そんな見え透いた嘘に気付かないわけないだろ。
「そうか、ならいいんだ。……でもやっぱり、これからの戦闘では、できるだけその神聖術とやらは使わないでくれ。変な連中に目をつけられたくないしさ」
それに嘘ってのはこうやってつくもんだぜ?
「え?あっ、はい。分かりました……」
フゥ、これでリーネの神聖術の使用は防げるな。あんなの連発していたらすぐに魔力が底をついてしまうからな。
「――そういえばリーネの使える属性ってなんだ?さっき見た神聖術は光っぽかったけど」
属性――言わずもがなだろうが、それはいわば魔力の色だ。その色によって当然使える術式も変わってくる。
一般的に、属性は六種類あって、地水火風、それと光と闇だな。
人はその六種の色の内のどれかを持っている。全種類持っている奴もいれば一つしか持っていない奴もいるという感じに差はあるけどな。
ちなみに、持っている属性が多いほど優れているというわけではない。クレアなんかはいい例だな。彼女は地属性しか使えないが、あの若さで将クラスの地位にいるのが何よりの証拠だ。
「私の属性ですか?…光と水ですね。水属性の方はあまり使いませんけど」
「へぇ、二種類しかないのか。意外だな」
これは本心。リーネだったら全属性を使えても不思議じゃないんだけどな。やっぱりリーネも人間ってことか。
「…そ、そういうヒアスはどうなんですか?」
おっと、軽く馬鹿にしたと思われてしまったか。言葉の勉強ももっと精進しないとな。
「ん?俺?…それは教えられません。いくら私があなた様の下僕だからといって、私の個人情報を知らせる義務はありませんよ?」
わざと仰々しい敬語で咎める。
「…す、すみませんでした……」
素直に謝られる。流石は神子さん。他人の嫌がることはしないんだな。
…え?じゃあなんであんなにS振りを発揮していたかだって?
そんなの決まってるじゃねぇか。俺が拒否しなかったからだよ。リーネだって神子として縛られた人生を歩んできたんだ。ストレスは人一倍溜まっていった筈だ。だから、こういうくだらないことでもさせて発散をさせていった方がいいんだ。…溜めすぎるといつか許容量を超えて爆発してしまうからな。
「そこまで気にすんな。俺は別に怒っちゃねぇからよ」
このままでは泣き出してしまいそうな雰囲気を纏うリーネに気負うなと声をかけ、ポンポンとリーネの頭に手をやる。ホントに怒ってないしな。
「それに、悪いのは俺の方だ。リーネにした質問を返されて答えなかったからな。本来ならば俺の方が謝るべきだろ」
まぁ、本来ならば教えても良かったんだが、自分にとって不利になる情報の開示は極力避けたかったから言わなかった。何処で誰が何を聴いているか分からないからな。用心に超したことはない。
「とにかく、この話は終わりだ。ほら、見えてきただろ。クエンティードの首都、ハ・ロイがさ」
先の方に見えた大きな防壁を指差して、話を濁らせた。
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「――いらっしゃいませ。本日は何用でございますか?」
宿屋で部屋を予約した次に俺達が向かったのは、世界最大規模の銀行、シウス銀行だ。
「俺は預けに来た。そして彼女は新規登録と同じく預けに」
来た理由は勿論晶貨を預けることだ。あんなのそこら辺の店じゃ取り扱えないからな。正直持っていても意味がない。
そして、この銀行は顧客を番号で呼び、個人情報を教えなくても利用できる。つまり、俺みたいな汚れ物でも利用できるってわけだ。
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
そう言って受付の人は電話を手に取る。もう一人人を呼ぶのだろう。ここではできるだけ人に知られないように番号で管理する人を決めているようだしな。
「そちらのお嬢様は担当の者が今こちらへ向かっているので少々お待ちください。…では、お客様。あなた様の番号をお教えください」
「3421番」
「でしたら…あちらのBG-aの部屋にお進みください。担当の者が応対しますので」
受付の人が手を向ける。まぁ、何回か来てるからもう既に何処の部屋かは分かってるんだけどね。
「じゃ、リーネ。多分俺の方が先に終わると思うけど、先に終わったらこの辺で待っててくれ」
「はい、分かりました」
返事を聞き、俺はリーネに背を向けて部屋に向かった。
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「――おっ、来たな」
ロビーに戻って来たリーネの姿を捉えた俺は、彼女に歩み寄った。
「すみません、待たせてしまいましたか?」
「いいや、そうでもないさ。それよりも、ついさっきそこで面白い話を聞いたんだ」
「面白い、ですか?」
「ああ。なんでも近い内にここで国会が開かれるそうだ。それで、今日の夕方辺りに議長がここに到着するらしい」
クエンティードの議長と言えば当然彼女だ。この国の議長にして国際裁判所の裁判長。クエンティード内で最も権力を持ち合わせている女――ソフィ・ルーカス。
七十を越えた婆なのに外見は二十代前半にしか見えないというのでも有名だな。
「?…なんでそんなことが面白いのです?」
首を傾げるリーネ。まぁ、事情を知らなければ当たり前か。
「それは見てからのお楽しみだ」
まぁ、リーネが面白いと感じるとは思わないけどな。
キャラ紹介3
クレア・シュバイン
性別:女
年齢:27
身長:165前後
容姿:黒髪で後ろで1つ縛りにしている。黒目。
出身地:メルレント
職業:メルレント騎士団第三師団師団長
武器:大盾
スペック:
体力:C
魔力:S
攻撃:D
防御:B
術攻:A
術防:A
敏捷:E
命中:C
回避:E
致命:C
備考
幼い頃より騎士団内で鍛えられた女性。色恋沙汰が全くない環境で育ったため、そういったものには全く耐性がない。
使える属性は地。
ヒアスに対して恋心らしきものを抱いていると思われるが、もしかしたら恋に恋しているだけかもしれない。