船旅
作者の呟き
・遅れてすみませんでした。これから更に忙しくなる予定なので今以上に遅くなってしまうと思いますが、一生懸命頑張っていきたいと思います。
・こんなくだらない小説をお気に入り登録してくださってありがとうございます。これからも精進していきたいと思います。
・誤字脱字等がございましたら遠慮せずに仰ってください。大急ぎで訂正しますので。
「ん……もう朝か………」
船室につけられたはめ殺しの小窓から差し込んだ光に刺激を受け、目が覚める。
……あークソ、椅子(背もたれ付き)に座って寝たのが不味かったな……。腰が痛い………。
それで、神子さんはというと――
「スゥー……スゥー……」
まだ寝ていた。意外とお寝坊さんなのか?
…仕方ないまだ寝せといてやるか。無理矢理起こす理由なんてないしな。
「――んじゃまっ、俺も朝の散歩と洒落こもうかな?」
別に部屋にいたってやることないし。腰痛も立ってた方が楽だしな。
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風が冷たいな……。
甲板に出て、初めに思ったことがこれである。
若干ここに来ないで廊下をぐるりと回って戻れば良かったと後悔。寒いのは苦手だ。
「ん?あれは……」
甲板の縁にある手すりに手をおいて海を眺める女性が一人。昨日酒場にいた女性だ。
少し立ち止まって見ていると、彼女は風に揺らめく髪の毛を手で押さえて、こちらの方へ身体を向けた。
「そんな所に立ってないでこちらに来てお話しでもしませんか?」
透き通った美声が俺の耳に届く。並の男なら簡単に近寄っていくだろうが、俺は少々躊躇った。何故かというと、彼女からはなんかこう…胡散臭さが滲み出ていたからだ。
初めて見た時からそんな風に感じていたが、どうやらそれは間違いではなかったようだ。
「「いえ、自分はまだ散歩の途中なのでご遠慮させていただきます」…って、え?」
俺の言おうとした言葉をそっくりそのまま同時に言っただと?何者なんだ彼女は……?
「そうですか。ならば、致し方ありません。またの機会にということで」
軽い会釈をして、彼女は甲板から去っていった。俺が来た廊下とは逆の廊下の方に。
「なんだったんだ、彼女は……?」
心が読めるのか?いやそれにしては一言一句更には抑揚まで同じだったのはおかしいだろう。
「取り敢えず、警戒はしておくか……」
果たして俺程度の奴の警戒が何処まで通用するのか、甚だ疑問だが……。
まあ、ないよりはましだろう。
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あの後、散歩の続きをやる気力が失せ、自室に戻ってきたが………
「まだ寝てるのか……?」
初めに目にした光景は部屋から出ていった光景と同じだった。多少は船の揺れでずれたりはしているが、それは許容範囲だ。
しかしまぁ、良く寝るもんだ。今の正確な時間は分からんが、少なくとも昼前と言ったところか。
あっ、朝飯食いっぱぐれた。
「――ん?これは……手紙?」
足下に落ちていた白い紙を手に取り、そこに書かれていた内容を読む。
『ヒアス・ルード様へ
月明かりが夜を照らす頃、101号室であなたをお待ちしておりますわ』
「こ、これは……!」
読んだ瞬間に戦慄が走った。この手紙の送り主は恐らくついさっきの女性!しかも朝ここを出る時にはなかったことから、おかれたのは俺が散歩に行っている最中!俺が散歩している間は誰ともすれ違わなかったし、俺の足音以外はあの時していなかった。しかも俺が散歩していた道は部屋から甲板を最短で結ぶ道。歩いていたとはいえ、寄り道せずに帰ってきた俺に見つからずにドアと床の隙間から手紙を入れるなんて行為、彼女にできる筈がない!
…いや、待てよ。手紙を持ってきたのが彼女じゃなければ不可能じゃない。しかし彼女に協力者がいるのか?昨日の様子では他の客をぞんざいに扱ってたようだし、101号室は一人部屋。とても協力してくれる人がいるとは思えない。金で雇ったとするならば、そもそも何故こんな回りくどいやり方をするのか全く分からない。
本当にどういうことだ……?
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昼飯は神子さんが起きたら一緒に行こうと思い、彼女の起床を待っていたら、いつの間にか外が暗くなり始めていた。今日は昼頃から曇り始めていたため、時間の感覚が余計に掴めてなかったようだ。つまり、俺は昼飯も逃したということになる。いやぁ、腹へったなぁ……。
と、いうか――
「いい加減起きんか!この寝坊助神子ーーー!!」
ベッドの掛け布団を勢い良くひんむく。対象が女性でもお構い無しである。
「んんっ……スゥー……」
まだ起きないのか………?
寝坊助もここまで来たら逆に素晴らしく感じられる。
……仕方ない。あまり気が進まないのだが、揺すって起こそう。勿論肩だ。他の場所は色々と不味い。
「ほらリーネ。いい加減起きようぜ。もうそろそろ夕飯の時間だから、な」
自分が出来うる限りの優男イケメンボイスで呼び掛けながら揺する。
「…………………」
「…………………」
どうやら効果なしのようだ。やっぱり同じ寝坊助であるあの人から言われた起こし方では駄目のようだ。あの人はその後にキスまでしないといけないだの、それが乙女の夢だのと馬鹿げたことを延々と話していたが。
……しかし、どうしたら神子さんは起きるんだ……?
揺さぶりをもっと強くしてみるか?それとも鼻でも摘まんでみるか?
……『でも』と言ったのはただ勢いで言っただけだからな!他意はないからな!
……はっ!そうだ!あの人に教えてもらった起こし方がもう一つあったじゃないか!しかも有効的なのが!少々準備が必要だけど……。
「――起きてリーネ。もうとっくに起きる時間だよ」
部屋にコーヒーの匂いを散漫させ、彼女の顔に光を当てながら身体を揺する。ちゃんと声をかけながらな。
何故こんなことをするのかというと、人間は朝(=起床時)だと感じる物事を感覚で捉えると起きやすくなるらしい。それも多ければ多い程効果が高まるみたいだ。つまり、今の状況は五感全てで感じてもらうようにセッティングした(聴覚は微妙だが)。
これでいい加減起きてくれるだろう。
「んんっ……」
今まで閉じられていた瞼が漸くあげられる。
やっと起きたようだな。
「おはよう、リーネ」
目覚めたばかりの彼女に声をかけて、意識の覚醒を促す。
「むーーー………」
それでもまだ寝ぼけているのか、やる気のない声を発す。
「ほら、目覚めの一杯だ」
先程のコーヒーを手渡す。淹れたばかりなので当然暖かい。
彼女は眠そうな表情をしながらもそれを受け取り、口へと運ぶ。
「………!…にぎゃい!」
あっ、しまった。ついいつもの癖でブラックのまんまだった。
でも、結果的に眠気は吹っ飛んだようだから別にいいか。
「おっとすまん。つい癖でブラックのままだった。改めて淹れ直すよ。砂糖はどれくらいがいいんだ?」
魔導式コーヒーメーカーで淹れ直すために、ベッドの側から離れようとする。
「……あっ、待ってください。淹れ直さなくても大丈夫ですから」
そう言って手に持ったカップの中に入っているコーヒーを口に含み、また苦悶の表情を浮かべている。
苦いのが嫌いなら無理しなくていいのに……。
「じゃ、それ飲み終わったら身支度してメシ食いに行こうか」
彼女を軽くいじめたくなり、そんな言葉を口にする。
「は、はい。そうですね……」
嫌そうな顔をしながらもそれを健気に実行する姿を見て、若干酷いことをしたなと反省した。
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「――それでリーネ。今まで聞きそびれていたけど、君の目的地はウェッチ大陸の何処なんだ?…あぁ、答えたくなかったら答えなくていいよ」
夕食を食べた後、また自分達の部屋に戻り、色々あって聞けなかったことを尋ねる。当然、そのことに関しては俺が知る必要はないので一応答えないという選択肢も準備しておく。神子さんの場合はなんでもかんでも気にせず言ってしまいそうだし。
というか、恐らく準備するしないに関わらず言ってしまうんだろうなぁ………。
「私の目的地ですか?…えっと、たしかカイナーツ洞窟の先にあるヨハネス遺跡という所です」
「ヨハネス遺跡!?」
ヨハネス遺跡。そこは二年前に障気と呼ばれる人体に強い影響を及ぼす猛毒性のガスが発生した場所で、今は障気と、それによって凶暴化した魔物の巣窟になっている場所である。たしか今ではカイナーツ洞窟を含めた一帯を立ち入り禁止区域として封鎖している筈だ。
何故そんな所にメルレントの神子である神子さん(二度手間)が行く必要があるんだ?
「――リーネ。悪いことは言わない。止めておけ。死ぬことになるぞ」
普段は敵を威圧する時に使う口調と声色で諭す。
「いえ、これは絶対に譲れません。何があってもです」
そんな俺の威圧に全く怯えることなく――むしろ噛みつくような態度で――言い放った。
どうやらどうしても譲れない理由がありそうだな。
「……そうか。なら俺はもう何も言わない。好きにしなよ」
どうせ、彼女とは港でお別れなんだ。これ以上俺が彼女の意思決定に関与してはいけない。
「……さて、もう遅いし、そろそろ寝ようぜ」
なんとなくギスギスした雰囲気を脱却するために話をそのことからできるだけ反らす。
そして、その時に何気なく窓を見やると、ついさっきの曇り空から一変し、月が姿を現していた。
月、か………月!?
不意に今朝の手紙の内容が頭の中を過る。まさか……いや、これは偶然だ。偶然そうなっただけだ。変に勘繰るな。余計に掻き乱して正常な判断ができなくなる。これからあの女と会うんだ(会わないという選択肢を選ぶのはあまりにも危険だ)。心を平静に保っていないとすぐに付け込まれる。あいつは恐らくそういうタイプだ。
「…あっ、そういえば昨日仲良くなった人との約束があったんだ。ちょっくら行ってくる。リーネは先に寝ててくれて構わないよ」
そう言い残して部屋を早々に立ち去る。
また罪悪感が………。
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よし。着いたぞ、101号室。ここからは気合い入れないとな。何せ相手はあの胡散臭い女だからな。寸分の油断も命取りと身構えて損はないだろう。
「…………よし」
コンコンとドアをノックする。ただのノック音なのに非常に重々しく感じたのは、俺の気構えによるものか……。随分と緊張しているらしい。
「どうぞ、開いていますわ」
扉の向こう側から入室の許可が下りる。
じゃあご対面といこうじゃねぇの。
意を決して扉を開けると――
「いらっしゃい」
「ブッ!?」
彼女は下着姿の状態で優雅に紅茶を飲んでいた。
そして俺は条件反射で扉を勢い良く閉め、その時の音が廊下に大きく響いた。他の客に迷惑なことをしてしまったな。
――っていうか彼女は何してんの!?なんで下着姿のまま優雅にティータイムに洒落こんでるんだよ!?しかも客人(俺)を招いてまで!……いや待て。落ち着け、落ち着くんだ俺。あれは彼女の作戦なのかもしれない。俺の平静を乱して判断力を鈍らせるというような感じで。
とにかく、気にするな!気にしたら負けだ!
「……すいません、いきなり扉を閉めてしまって。少々驚いたもので………」
心を落ち着け、笑顔を作って再度入室する。相手の姿なんて気にするな。
「いえ、私は別段気にしておりませんわ。それよりも、あなたも一杯いかがかしら?」
そう言いながら新しいカップに紅茶を注いでいる。断らせる気ゼロかよ。
「…じゃあ、折角なんでいただきます」
そう言って受け取ったカップを手に取り、飲むフリをする。何が入ってるかわかんねぇからな。用心に越したことはない。
「それで、一体何のご用ですか?わざわざあんな手紙まで用意してまで………」
口頭で言えることならば、今朝の甲板――いや、昨日の酒場でも十分事足りたであろう。
でも実際はこのように呼び出しているわけだ。と、いうことはつまり、誰が聞いているか分からない公共の場で話すことは躊躇われる込み入った話を、今からするってわけだ。
こりゃ厄介なのに巻き込まれたね。
「……ああ、聴く前に一つだけ。あなたが今から話すことを知ったら、私はその後どういう選択肢が与えられますか?」
選択肢、つまりは権利。俺等みたいな小悪党との商談の席では欠かせないもの。これの有無を知っているのと知らないのとでは大きく違う。素人なんかは、これを知らないまま話を受けて酷い目にあうことが多い。最悪、死に至る。
とにかく、これを提示してもらわなければ俺は絶対に話を聞かない。
「…フフ、心配はご無用ですわ。私が今から話すのは、あなたへの依頼ですもの。更に内容を聞いて嫌だったら請けてくださらなくて結構ですし……」
ふぅん、随分と緩いな。…いや、これは俺が必ず請けるという確信からか?
「なお、断った場合はあなたのお連れ様が危険な目に遭うかもしれませんわ」
「――ッ!?」
こいつ、神子さんを人質に…!
「「……分かりました。その依頼引き受けましょう。して、依頼内容は一体どのようなもので?」」
ニヤニヤしながら俺と同じ言葉を同じタイミングで言われる。
こいつ、完全に俺で楽しんでやがる…!
しかし、俺の行動によって関係のない神子さんを危険に晒すわけにはいかないので、ここは意地でも我慢する。
「別にそれほど大したことではありませんわ。私の依頼はあなたのお連れ様――リーネ・シャスハを護り抜いていただく、ただそれだけですわ」
「………え?」
予想の遥か上を超えた内容に思わず声が漏れる。
神子さんを護る?なんでそんなことを彼女が……?
「…ああ、そういえば依頼料がまだでしたわね。……これが依頼料ですわ」
彼女は自分のパンツの中に手を差し込み、小さい袋を取り出す。
何処にしまってんだよ!?
「こ、これは…!」
受け取った小袋――若干湿っているのが何気に嫌だ――を開けて中身を確認する。するとそこには、青みがかった、透明で円盤状のものが十枚。
「晶貨十枚ですわ」
晶貨――それはこの世界で最も価値がある硬貨で、その価値は金貨百枚分というとてつもない高価な代物。……別に掛けたわけじゃないから失笑はするなよ。
ちなみに、最も価値が低いのが銅貨で、次が銀貨、そして金貨、晶貨というようになっている。それぞれ百枚で次の位の硬貨一枚と換算される。
「……随分と奮発した依頼料ですね………」
実際は奮発なんてもんじゃない。これだけあれば一生遊んで暮らせる。というか、消費しきれずに一生を終えるだろう。
「どうです?やる気が出てきたでしょう?」
「ええ、俄然やる気が湧いてきましたね!」
仕方ない。ここまで積まれたんじゃ引き受けないわけにはいかないからな。いっちょやってやるぜ!
「――ブッ!?」
意気込みを入れるために晶貨に向けていた視線を前に向けて、思わず吹き出す。何故ならばついさっきまで下着姿だった商談相手がいつの間にか全裸になっていたからだ。
これは完全に虚をつかれた。というか、こいつただの露出狂じゃねぇか?露出狂だよね!?
「そうですか。ならばこちらへ」
そう言って彼女は全裸のまま俺の左腕を掴み、ベッドの方へ導こうとする。
「ちょっ!何してんですか!?」
振り払おうとするが、彼女の腕は微動だにせず俺の腕を離さなかった。
「何って、勿論ナニに決まってますわ。あなたの凸を私の凹に挿入しますの」
うわこの人口調に似合わず盛大に下ネタ言いやがった。っていうかこれただの下だよね!?
「ま、待ってください!待って!待てって言ってアッーーーー!!」
その後、彼の行方を知る者は誰もいなかった………。
Game over
「いやちゃんと生きてるからね!」
リーネ・シャスハ
性別:女
年齢:16
身長:155前後
容姿:桜髪のショートで碧眼
出身地:メルレント
職業:メルレントの神子
武器:杖
スペック:
体力:D
魔力:S
攻撃:D
防御:C
術攻:B
術防:A
敏捷:C
命中:C
回避:D
致命:C
備考
メルレントの神子に選ばれた少女。箱入り娘でおっとりしているが、芯はしっかりとしている。意外と足が速い。
使える術は回復術・補助術・妨害術・神聖術。
ヒアスに対しては好意を抱いているが、それがlikeなのかloveなのかは不明。