エーラス大聖堂にて
この小説は、元々クソ真面目なファンタジーであったものをなんとなく気分で歪めたものです。また、歪めた際に、男性キャラのほとんどが女性に性転換していますので、登場人物が女性過多になっていることをご容赦ください。
「ここがエーラス大聖堂の中か。…意外と簡単に潜入できたのはいいが、目的のブツは一体何処にあるんだ?」
物陰に隠れ、密かに呟きながら思案する。
それにしても、馬鹿みたいに広い聖堂だな。うっかりしていると迷子になっちまう。流石は神聖国メルレントの大聖堂といったところだな。無駄に気合いが入ってやがる。
まっ、おかげで警備が笊になってくれてこっちにとってはやり易いんだけどな。
「とにかく、さっさと「何してるんですか?」――ッ!?」
しまった!完全に油断してた!
急いで顔を振り向かせると、そこには桜色ショートヘアの一人の少女が。格好からしてどうみても警備兵ではなさそうだが。
しかしこれはラッキーか?上手く聞き出せば例のブツの在処が分かるかもしれない。
「いやぁ、ここに頼まれた品物を届けに来た商人なんだけど、ちょっと迷っちゃってね。今何処にいるか分からなくて困っていたんだ」
自分のことながらよくもまぁ白々しいことを考えもせずにポンポンと吐き出せるなぁ。
まぁ、そういう生き方をしてきたから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
「まぁ、そうでしたの。それは大変でしたね。よろしかったら、私がお連れしましょうか?」
……この子、いい子だ!
なんか騙すのに罪悪感を覚えるが、背に腹はかえられない。利用させてもらうとしよう。
「そうかい?…それじゃあお願いできるかな?祭事の時に使用する物が保管されている場所なんだけど……」
「あっ、それらなら宝物庫においてあります。…こちらです」
俺の手をとってクソ長い廊下を歩み始める。
この調子なら今回の依頼も問題なくクリアできそうだな。
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「こちらが、宝物庫です」
道中誰ともすれ違うことなく(忍び込んでいる俺が言うのもなんだが、ユルすぎないか、警備)、辿り着く。
ここが宝物庫か。随分とでかい扉だな。
「ありがとう。これ、いらないかもしれないけどお礼ね」
ポケットの中に何故か入っていた包みにくるまれたクッキーを取り出し、少女に渡す。
「あっ、礼などいりませんのに……」
……この子、本当にいい子だ!
そんないい子を良いように利用している誰かさんにこの子の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
……まぁ、俺なんだけど。
「いいのいいの。これは俺が勝手に決めて、君にに無理矢理押し付けた物だから。気に入らなかったら捨てるなりなんなりしていいよ」
そう言って、言葉通りに押し付ける。彼女は若干困った表情を浮かべていたが、こちらとしても譲れない。というか、受け取ってくれないと俺がいたたまれなくなる。
「それじゃ、本当にありがとね」
騙されたと未だに気付いていない少女にお礼の言葉を口にして、漸く辿り着いた目的地への扉を開けようとすると――
「神子様!こちらにおられましたか!捜しましたぞ!」
遠くから兵士四名がこちらに向かって走ってくる。
不味い!隠れる場所が一切ない!
「む……そこにいる奴、何者だ?」
とうとう気付かれてしまった。クソ!目的のブツは目の前だってのに!
「あっ、この方はこの大聖堂に荷物を届けに来た商人さんですよ。道に迷ってらしたからお連れしたんです」
神子さんが説明するがそれは通用しないだろう。警備兵がそのことについて知らない筈がないからな。
くっ、かくなる上は――
「あっ、そうでしたか。それは大変なご無礼を。失礼しました」
ってウソ!?まさか通じちゃった!?この国どんだけ平和ボケしてんだよ!?
――しかし、これは紛れもない好機。この隙にさっさと盗み出してしまおう。
「それよりも神子様。あなた様にお話しがあります。どうして脱走なぞしたのです?わざわざ影武者を用意しなさってまで………」
「それは……言えません。しかしそれでも、私は行かなければならないのです」
おい、今度はなんか話始めたぞ。しかも俺みたいな一市民が聞いてはいけないようなことを。
まぁしかし、ここは首を突っ込まない方が身のためだな。折角のチャンスが無駄になってしまう。
「そうですか。ならば仕方ありません。力ずくでもあなた様を連れ戻します!」
喋っていた兵士――恐らく小隊長か何か――の言葉を契機に、兵士達が武器をかまえる。
おいおい、頼むからそういうのは他所でやってくれよ。ここには善良な市民(俺)がいるんだぞ。
「キャッ!」
神子さんが自らを捕らえようとしてくる兵士達を見て、軽く悲鳴を上げる。
――あぁもう仕方ねぇな!
「扇刃ァ!」
羽織っていたマントの裏側に仕込んでおいたナイフを扇状に放つ。
「くっ…何をする!」
投げたナイフは二人に命中(鎧の上からだったので余り効果はないが)、小隊長は持っていた槍で弾いた。
だが、これで注意を反らすことに成功した。
「しっかり掴まってろよ!」
近くで呆けていた神子さんを両手で抱え込み――いわゆるお姫様だっこってやつ――この場を離れるため全力で走り出す。
……つーか何やってんだよ俺!折角の窃盗のチャンスを逃してまで人助けするなんて!
まぁとやかく言ってる場合じゃねぇな。こうなってしまった以上、逃げ切るしか救いの術はねぇんだ。やってやろうじゃねぇか!
「くっ、逃すか!追え!」
後ろの方から兵士達が追いかけてくるが、今は確認する余裕がない。それに、気にする必要はないだろう。いくら俺が人一人分のハンデがあっても、あいつらは鎧なんだ。端から勝負は決まってる。
しかし、油断はできない。俺の目が正しければ、一人抜きん出てる奴がいるからな。ついさっきの俺の攻撃――そう呼べるものとは到底思えないが――を最小限の動きでかわしやがったあの兵士……。本当に一般兵かよ。あの身のこなしは少なくとも中尉以上の階級だろ、普通。
まぁでも、俺が思っているレベルの人間だったらとっくに捕らえているだろうしな。何を企んでいるのか、それとも単なる俺の見間違いかは分からんが、取り敢えずは問題なしだな。
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「――さて、と。取り敢えずは外に出られたが。…あんた、何処に行くつもりだったんだ?」
神子さんを降ろして話しかける。本当は何時でも逃げられるように抱えた状態のままがいいんだが、正直言って腕が限界だ。いくら対象者が軽いといっても人間だぜ?長時間は堪えられない。
「あの…商人さんがどうしてこのようなことまで……?」
「……………」
この子……まだ俺のこと商人だと思ってるーーッ!?
どんだけ天然なのこの子!?いやいやいやいや!普通気付くでしょ!ただの商人が不意をついたとはいえ訓練されている兵士から逃げられるわけないだろ!しかも人一人背負ってる分尚更に!
「…あ、あー、ごめん。その、俺が商人ってのは嘘。本当はこの大聖堂にあるお宝を盗みに来た盗賊なんだ」
って、何要らんことまで話してるんだよ俺は!
また適当に嘘を並べればいいだろうに!
「へぇー、そうなんですか」
……あれ?意外と淡白な反応?上流階級である筈の彼女ならば、普通盗賊と聞いただけで忌み嫌うぞ、普通は。
「…え、嫌がらないの?」
「? どうしてですか?」
俺の言葉に小首を傾げる神子さん。なんか頭の上に疑問符が浮かんでいるが見えるぞ。
「いやだって!盗賊だぜ、盗賊!普通なら怖がる筈だろ」
今までだって、俺が盗賊だと分かると皆手のひらを反して敵として見なしてこられたのに……。
「え?何故怖がる必要があるのです?だってあなた様はお優しいお人ですから」
ほら、このような菓子もいただけたことですし――と俺が渡したクッキーの包みを持って微笑む。
この子は……本当に穢れを知らないんだな………。
まぁ、ただの箱入り娘なんだろうけれど。
…思わず悪態をついてしまったが、それでも心の中に渦巻く感情は全く消えなかった。
「――さて、もうお喋りはおしまいか?」
「「!?」」
先程までのほんわかした空気が一瞬にしてピンと張りつめる。
俺等が顔を向けた先に立っていたのは、真っ黒な長髪を後ろで一つに纏めた凛とした顔立ちの女性であった。そして、その彼女の右手には彼女の身の丈程もある大きな盾が。
――クソッ!厄介なのに出くわした!あの巨大な盾を軽々しく持つ姿は紛れもなく、メルレント騎士団の第三師団師団長を務めるクレア・シュバイン少将そのものじゃねぇか!
おいおい、流石にこれはシャレになんねぇぞ!完全に瞬殺コースじゃねぇかよ!
「神子様。今すぐそやつから離れてください。穢れてしまいます」
淡々と言葉を発すシュバイン。
なるほど、まずは神子の脱走の件よりも、盗賊であり、かつ脱走を手伝った俺への対処の方が先か。流石騎士様らしい判断だな。
だとすると、ここで俺が神子さんを捨てて逃げたとしても確実に殺られるな。だったら――
「神子さん、あんた行きたい所があんだろ。今すぐそこに向かえ」
「え?でも………」
「いいから早く!」
「は、はい!」
彼女が走っていくのを見送る。その間でも、シュバインからは目を離さないが。
「いいのかい?神子さんを追わなくて?」
「フン、下らんな。貴様は分かりきっている筈だ」
「……まぁね」
簡単なことだ。相手側は多人数で、しかも神子さんの顔は恐らく全員に知れ渡っている。ここで大聖堂に侵入した盗賊を逃してまで追いかける意味はないだろう。
「時間稼ぎはもう終いか?」
「別に時間稼ぎなんてしていたつもりはないんだけどな。ただどうせ死ぬんだ。最期ぐらい美人さんとの会話を楽しみたいんだ」
会話内容は死ぬ程つまらないし短いけどな。
「びじっ……!」
あれ?顔を赤くしてる?
…ああなるほど。こういうのに耐性がないのか。まぁ噂じゃ子供の頃からずっと鍛練の日々だったっていう話だからな。周りの男共も彼女のことは女してじゃなく、騎士として見てただろうし。
もしかしたら、この辺りを重点的に攻めたら俺でも勝てるんじゃねぇか?
だったら――
「ああ。君は美人だと思うよ。顔もスタイルもどれをとってもね。なんで周りの男共が放っておくのか分からないよ。俺だったら逢った瞬間に口説いてるね」
「な、なな………」
よし!物凄い効いている!この調子でいけば墜とすのも時間の問題だ。
……なんか当初の目的と違ってきている気がするが、関係ない!このまま突っ切るぜ!
「ホント、見れば見る程綺麗だよな。騎士として戦ってきた筈なのに、未だに君自身の姿はお姫様のように凛々しく美しい。たしかに、俺みたいなクズ野郎にはお近づきになるどころか視界にさえ入る資格はないな」
段々言い回しが胡散臭くなってきちまった。流石にもう限界が近いな。頼む!墜ちてくれ!
「う…」
「…う?」
「うにゃーーーーーーーー!!!!」
シュバインは突然奇声を上げて大盾を地面に叩き付ける。
すると、その部分から俺に向かって隆起した鋭石が飛び出してくる。
「うわっ!?」
咄嗟に避けるが、半拍遅れてしまい、頬を鋭石が掠める。
だが、それだけでは終わらず、第二、第三と飛んでくる。
シュバインはどうやら我を忘れてガンガンと地面を叩き続けているようだ。
しまったな。調子に乗りすぎてしまった。
しかし、我を忘れても攻撃の手は止めないか。しかし、よくあんな状態で俺の位置を正確に捉えられるな。どうみても追尾型の攻撃じゃないのに。
「お、落ち着けシュバイン。いくら森の中とはいえ、ここは教会の所有地だろ?あまり荒らすのは良くないんじゃないか?」
ちなみに、ここは大聖堂横の森で、結構な広さを誇るらしい。魔物等は結界によって入ってこれないらしいが。
「……クレア」
「…え?」
急に動きが止まったかと思えば、いきなり自分の名前を言ったことに対して、思わず疑問の声が漏れる。
「クレアって呼んで」
あれー?なんかシュバインさん口調変わってませんか?
「あ、ああ。分かったよ、クレア」
「うきゅー」
「え、あっ、ちょっと!」
俺がクレアと発した瞬間に目を回して倒れる。
様子をみると、どうやら気絶しているだけのようだ。
うーむ、まさかここまで効果覿面だったとは……。ちょっと、いやかなり予想外だったな。
まぁいいか。それよりも神子さんの後を追おう。俺は奇跡的に無事だったが。彼女はそうとは限らない。どうせ指名手配されるんだ。乗り掛かった船と思って最後までつきやってやろうじゃねぇか!
あっ、ちなみにクレアには俺が羽織っていたマント(ナイフは抜いといた)をかけておいた。
まさかの主人公とメインヒロインの名前が出ずに、他キャラの名前が先に出るとは………。
ちなみに、クレアは元々男性キャラ『クレス・シュバイン』でした。クレスの性格は堅物だったので、クレアもそれに寄せようとしたのに何故こうなった?