日課
勉強をしている理由を、
改めて考えたことはなかった。
目が覚めれば机に向かい、
問題を解く。
それが当たり前だった。
期末テストが近づいてきたある日、
学年主任が、いつもと同じ調子で言った。
「前回のテストで、基準に届かなかった者は、
来週から補習を行う。
授業が終わったら、多目的室に来るように」
「基準に届かない」という状態を、
一瞬だけ考えた。
そこまで手が止まることが、
本当にあるのだろうか。
テスト期間に入っても、
自分の歩調は変わらなかった。
同じ時間に家を出て、
同じ席に座る。
授業を受け、
その日のうちに復習する。
それを繰り返すだけだった。
「白宮」
帰り際、声をかけられた。
「今日、塾ない日だよね?」
伊佐だった。
一瞬だけ予定を思い返してから、
頷く。
「うん、今日はないよ」
伊佐は、少し安心したようだった。
「悪いんだけど、この問題、もう一回聞いてもいい?」
差し出されたノートを見る。
数日前に解いたはずの問題だった。
途中で詰まっている箇所を指して、
順に説明する。
説明の途中で、
伊佐のペンが止まった。
「……ごめん。ここ、もう一回いい?」
一番最初の、
前提になる部分だった。
言葉が、喉元まで上がった。
飲み込む。
「あ、いや……僕の説明が悪かった」
そう言って、
さっきよりもゆっくり説明し直す。
不思議なことに、
そうしている間だけ、
肩の力が少し抜けていた。
説明が終わると、
伊佐は礼を言って席に戻った。
自分は、また一人になる。
机に向かい、
問題を解く。
考えなくていい時間に、
戻る。
だから今日も、
ペンを動かした。




