表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみの隣で、今日も考えてる  作者: マリセリソウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

第8話 告白一発、教室大炎上

 朝の教室。いつもなら静かに始まるはずの一日だったが、今日はちょっとだけにぎやかだ。俺は夏樹、萌、直美という、どう考えても場違いな美少女トリオに囲まれながら、ひとり読書に集中しようと試みていた。

 ……が、やっぱり無理がある。教室のあちこちから視線を感じるし、妙にざわざわしている。まあ、そりゃそうか。広瀬夏樹と山本萌に芝田直美が並んで笑ってる横に、地味に本読んでる男子ひとり。


 違和感しかない。


 というか、目立ちたくないっていつも思ってる俺からすると、すでに事故だ。

 そんな中、さらにとどめの一撃が来た。


「おはよう。夏樹さん、山本さん、芝田さん」


 朗らかな声。そう、クラスの顔面偏差値トップ枠のひとり――川村幸弘がやってきた。

爽やかスマイルを顔面に貼りつけ、なぜか上から光が当たってるようなオーラで近づいてくる。後ろには、ちょっとだけ陰ってる西海博之。チビで愛想もないくせに、どこか上から目線の視線を投げてくるのが地味に気になる。いつも川村の真横にぴったりいるその感じ、もはや川村の影かってレベルだ。


「おはよう。川村君、西海君」


 夏樹はいつもの調子で微笑みながら挨拶。


「おはよう! 川村君! 今日もかっこいいね!」

「おはよう」


 萌は明るくパッと笑って、ちょっとキラキラしてる。直美は短く、でも丁寧に挨拶を返す。さすが落ち着いてる。

 俺?

 当然、挨拶はスルーされたので、静かに読書を続行。うん、平常運転だ。


「めずらしいメンバーで、何を話していたんだい?」


 川村が笑顔を保ったまま問いかける。笑ってるけど、視線がめちゃくちゃ探ってくる感じなのは気のせいじゃない。西海が同意する。言い方も表情も、全体的にねちっこい。

 夏樹が返答に困ったような顔をする。バイトの話だとすると萌のプライベートな部分の話もしなければならない。夏樹が躊躇った様子を見せていると、直美がさっと口を開いた。


「球技大会の話よ」


 おぉ…。まったくそんな話はしてなかったのに、それっぽく聞こえる。


「球技大会?」

「そう。川村君はサッカー部だから、当然出るんでしょ?」

「もちろん。優勝は僕たちのチームで決まりだね」


 さらっと言い切るあたり、やっぱり自信満々だ。それに様になるねぇ。主人公みたいだな。


「そう言えば、川村君って、プロからスカウトが来てるってほんと?」

「よく知ってるね。本当だよ。今、代理人を通して交渉中さ」


 萌が目を輝かせて聞く。反応が完全にファンのそれだ。答える川村のドヤ顔がすごい。なんか光ってる。

「2チームからだったよな?」

「それが、3チームになってるらしいよ」


 西海の質問に平然と答える川村。プロからのスカウトってすげぇな。しかも3チームとは。ユースでもないのによほど印象に残る結果を出しているらしい。


「ほえぇ〜。すご〜い……!」


 萌のテンションも急上昇。川村は満足げに微笑み、ふいに夏樹へ向き直った。


「そうだ、夏樹さん。僕がこの球技大会でMVPになったら――僕の恋人になってくれない?」

 ん?


 次の瞬間、教室の空気が炸裂した。


 「うおおおおおお!?」「出た!告白ターーーイム!!」「朝から爆弾落ちた!!」「川村まじかよ!公開でやるか!?」告白、というにはあまりにも唐突な川村の言葉に、教室中がざわついていた。その中心で固まっているのは、もちろん夏樹。


「え?……えぇ?私っ??」


 俺はというと、本を開いたまま動けずにいた。巻き込まれたくない、という意思とは裏腹に、空気がこっちに流れてくる。まるで誰かにスポットライトを当てられたみたいだ。

 視界の端に、夏樹が動いた気配がした。俺は顔を上げた。

 目が合う。すごく、真剣な目だった。

 ――こっち見んなよ。

 じっと、何かを訴えてくる。無言で、でもめちゃくちゃはっきりとした“助けて”の圧がこっちに向けられている。

 俺はほんのわずかに眉を下げた。目だけで返す。“なんで俺?”って言いたい。

 夏樹の目が細くなった。言葉にはならないけど、「他に誰がいるのよ」って声が聞こえた気がする。

 こっちにパス出されても困る。俺はサイドにでもいるモブであって、攻めに参加するつもりなんて毛頭ない。目線をすっと下に落とし、読んでいた文庫本に視線を戻す。そういう役割じゃないんだ、俺は。

 ……なのに、また視線を感じた。諦めて顔を上げると、夏樹の顔がこっちに向いたまま固定されていた。無言の、でもとてもわかりやすい圧力付きで。

 俺は肩をすくめて小さく首を傾げた。ほんの少し、口の端が引きつったかもしれない。「自分で何とかしろよ」っていう、声にならない意志表示だ。

 夏樹は一度だけ目を見開いた。そのまま、口が「は?」って形になって、それを飲み込んでいた。どうやら、俺にムカついているらしい。なんでだ。理不尽すぎる。

 俺はわざとらしく本の背を立ててみせた。これは読書中の人間ですよという、無言の自己アピール。夏樹はじとーっと俺を見たあと、息を大きく吸い込んでから、前を向いた。

 肩がちょっと震えてる。怒ってるのか、緊張してるのか、よくわからない。

 ただひとつ言えるのは――。


 これ、たぶんあとで怒られる。


「美男美女カップルが誕生するんですね!すごい!すごい!」


 萌が、まっすぐな瞳で歓喜していた。テンション爆上がり。軽く拍手までしてる。マジで純粋に感動してるっぽい。


「ちょっと!萌!そんなんじゃ……っ」


 夏樹はその横で、耳まで真っ赤にしながらあわあわしてる。声のトーンは焦りと困惑のミックス。それでも川村は、涼しい顔のまま苦笑を浮かべた。


「ごめんごめん。みんなの前で返事するのも、恥ずかしいよね?」


 爽やかさ100%、自信120%。この人ほんとに心臓強い。


「山神君は、幼馴染としてどう思います?」


 萌が急にこっちを見た。え? ちょっと待て。なぜそこで俺に振る?しかも、きらきらした目で聞いてくるな。期待を込めないでくれ。

 ……せっかく、夏樹からの無言の圧力から身を引いたのに。こっちに話を振らないでください山本さん。お願いだから。俺は、ただの一般市民なんですよ。


「特になんt──」


ぎんっ!!


 隣から飛んできたのは、氷のように冷たい視線。夏樹が、口は動かさずに、顔面で全力の「なにか言え」を送ってきた。

 こえぇよ!!それ、ホラー映画の中盤のヒロインの目だから!!


「い、いや……」


 思わず声が裏返る。俺はただ静かに読書して、平穏無事に高校生活を送りたかっただけなんだ。斜め向かいにいた直美は、ひとり冷静に腕を組んで事態を観察している。なんなら、内心「どこまでこの騒動が続くか測定中」みたいな顔してる。感情の温度が完全に常温。クールすぎる。

 教室のざわめきはまだ収まらない。川村が微笑んだまま、夏樹を見ている。萌はテンション高く、誰よりも眩しく。夏樹は顔を赤くしながら、しかし俺に対する圧は全開。そして俺は、ただただ、無実の読書家であることを主張したい。

 このままだと、俺が何か言わされる流れだ。そう確信した瞬間、背中に突き刺さる夏樹の無言の圧力が一段階強くなった。視線だけで人を殴れるタイプのやつだ。間違いない。


「……えっとだな」


 口を開いた瞬間だった。


「夏樹の価値も、ずいぶん安く見積もられたものね」


 静かな声だったが、教室のざわめきを一刀両断するには十分だった。芝田直美だ。腕を組み、冷ややかな視線を川村に向けている。


「どういうことだい?」


 川村は余裕の笑みを崩さない。だが、その目の奥がわずかに細くなったのを、俺は見逃さなかった。


「夏樹は学校一の美少女よ?プロからスカウトが来てるサッカー選手が、球技大会のMVPを条件にして“達成できたら付き合ってくれ”ですって?」


 その言葉に、夏樹が「何言い出すの?」という顔で直美を見た。完全に想定外らしい。


「それがなんだよ!」


 横から西海が噛みつくように叫ぶ。


「ハードル低すぎない?って思っただけよ」


 教室の空気が、じわっと変わった。川村の笑顔が、ほんの少しだけ固まる。


「……そうかもしれないね」


 その一言が、火種だった。


「ほほぅ……」


 教室の後ろの方から、やけに通る声がした。立ち上がったのは高原だ。うちのクラスの体育会系エースその一人。


「うちのクラスには、俺と広田と三浦がいるの、忘れてねぇよな?」

「高原……」

「俺と三浦もお前と同じようにU-18日本代表候補だ。広田だって、いつ代表に選ばれてもおかしくない。そのメンバーがいる俺たちのクラス相手に、ハードルが低いだと? 川村。その喧嘩、買ったぞ」


 高原は笑っていた。だがその笑顔は、完全に戦闘モードだ。


「全力で、お前のチーム潰しに行くからな」

「やってみろよ」


 ……なんだこれ。完全に少年漫画の大会前イベントじゃないか。教室中がざわつき、火花が見える錯覚すらする。俺はその様子を眺めながら、ふと一つ思いついた。


 どうせなら、もう一押ししておくか。


 ポケットからメモを取り出し、そっと萌に差し出す。


「……これ、読んで」

「へ? え? 読めって?」


 小声で聞き返してくる萌に、無言でうなずく。


「え、えっと……み、みんな! 聞いてください!」


 その一声で、教室の視線が一斉に萌へ集まった。火花を散らしていたサッカー部連中も、渦中の夏樹も、全員が注目する。


「このクラスから、球技大会のMVPに選ばれた選手には――」


 萌は一度息を吸い、


「森岡高校三大美少女から! ケーキを“あ〜ん”してもらえる券を贈呈します!!」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。

「うぉぉおおおおおおおおおお!!」


 地響きのような雄叫びが教室を揺らした。主に男子。なぜか一部の女子まで混じっている。机がガタガタ鳴り、誰かが「絶対勝つ!」と叫んでいた。教室のやる気ゲージが、目に見えて振り切れた。


「……え、えっと」


 萌が少し困ったように続ける。


「森岡高校三大美少女って……誰です?」


 俺は肩をすくめた。正直、俺もよく知らん。


「山神君からもらったメモに書いてありましたよ?」


……書いたのは俺だけどな。


「あ、あの……高原君」


 突然名前を呼ばれ、高原がびくっとする。


「この“三大美少女”って、誰ですか?」


 一瞬、教室の熱気に呆然としていた高原は、我に返ると、さも当然のように言った。


「え? それは――」


 指を折りながら、


「広瀬さんと、山本さんと、柴田さんに決まってるじゃん」


 その瞬間。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 夏樹、萌、直美の声が、見事に重なった。

 教室は、さらに一段階、騒がしくなった。川村の顔は、完全に面白くなさそうだったが――まあ、もう遅い。


 このクラス、完全に本気だ。


「ちょっと待って! 萌と直美はともかく、私はその三大美少女には入ってない!」


 夏樹が突然叫ぶ。いや、叫びというより、悲鳴に近い。その横で、萌が手をブンブン振って抗議してきた。


「それはこっちのセリフです! 夏樹ちゃんと直美ちゃんは背も高くて、スタイルもよくって、ちゃんと美少女です! 私こそ入ってないです!」

「何言ってるのよ!私だってそんな大層なものじゃないわよ? ていうか、夏樹は学校一の美人だって噂になってるんだからね? 萌は小動物系美少女って、めちゃくちゃ人気なんだから」


 三人でお互いを否定し合いながら、同時に褒め合ってるという、よくわからない美少女論争が勃発している。

 そこに、高原が腕を組んで割って入った。


「いや、それは君たちが決めるものではないから。我々の創意による選出だぞ」

「そうだそうだ! 異論は認めん!」


 クラスメイト男子、そして一部の女子までが、満場一致で頷いていた。


「えぇ〜……そんなぁ〜……」


 夏樹、萌、直美の三人が、同時にうなだれる。


「というわけで、このクラスからMVPが出た暁には、三人ともよろしくな!」

「それって私たちにもしてもらえる権利があるってことよね? “あ〜ん”」


 高原が意気揚々と宣言すると、今度は女子の一人が手を上げて聞いてきた。質問の内容の方向性に少し戸惑ったが、こっちはこっちで真剣だった。


「そりゃそうだろ。男女差別はよくないと思うぞ」


と、俺が口を挟んだ瞬間。


「やったぁー!! めっちゃ頑張る!!」


 女子のテンションが男子並に上がった。

 一体どんな一体感なんだこのクラス。MVP争奪戦というより、もはやイベント合戦だ。


「何で創ちゃんが返事するのよ!」

「そうですよ! 山神君!」

「俺は個人の意見を述べただけだよ。否定したいならすればいいんじゃない?」


 夏樹と萌が同時に詰め寄ってくる。教室の全員が目を輝かせて盛り上がってる中で、もし否定できるならの話だけどな。


「……何てことをしてくれたのかしら」


 直美がぽつりと呟いて顔を覆った。


「そもそも、川村を煽り始めたのは柴田さんじゃん?」


 俺が振ると、夏樹が即座に乗ってくる。


「そうだ! 直美ぃ〜!」

「だって! 川村君があまりにも夏樹に失礼なことを言うもんだから、つい……!」

「そうだったの! 直美ぃ〜!!」


 笑顔で抱きつく夏樹。


「わっ! ちょっ、夏樹!」

「ずるいです! 萌も混ぜてです〜!」


 萌も飛び込んで、三人でわちゃわちゃと抱き合い始めた。クラス中から笑い声と、「いいぞ!」「三大美少女の団結!」みたいな声援まで飛んでくる。教室の空気が一気に和んだ。

 高原が再び前に出て、声を張る。


「そういうわけだ! 川村! こっちには大層なご褒美ができたんで、簡単にMVPは譲れないぞー!な?みんな!」

「おうっ!!」


 男子たちの声が教室に響き渡る。一部女子まで拳を上げてるのは見なかったことにしておこう。

……なんか、想像以上に燃え上がってしまったな。

 川村の告白がなんだかうやむやになってしまった。ちょっと申し訳ない気もするけど、必要ならまた告白してもらったらいいか。後は当人で何とかしてくれぃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ