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きみの隣で、今日も考えてる  作者: マリセリソウ


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第29話 球技大会 決勝(前半)

 笛が鳴った瞬間、グラウンドの空気が一気に張り詰めた。決勝戦開始。相手ボール。


 ――いきなり来るぞ。


 そう思ったのと同時に、俺は視線を前方ではなく、斜め前に置いた。


 川村。


 あいつが動くかどうか、それだけを見ていればいい。


「……来るぞ」


 小さく呟いた瞬間、川村がふっと力を抜くように立ち位置を変えた。

 次の瞬間、ぬるっと消える。


「はっ!?」


 いや、消えてはいない。視界の端から、ほんの一瞬外れただけだ。だが、それだけで十分“見失う”には足りる。


「いやいやいや、待て待て!」


 思わず声が出る。

 慌てて体の向きを変えて追いかけると、川村は何事もなかったかのように数メートル先でボールを呼び込もうとしていた。


「お前、動き方キモいって……!」


 率直な感想が口から漏れる。すると、ちらっとだけこちらを見て、川村が軽く笑った。


「褒め言葉として受け取っておくよ」

「褒めてねえよ!」


 言い返しながらも、距離を詰める。とにかく離れたら終わりだ。体を寄せて、パスコースに体を入れる。


「おい、近い近い!」

「離れたら終わりだからな」

「そこまでされるとさすがにやりづらいんだけど」

「知るか!」


 軽口を叩きながらも、内心はまったく余裕がない。細かいフェイント、緩急、立ち位置のずらし方、全部がいちいち洗練されている。ほんの一瞬でも意識を逸らしたら、その瞬間に置き去りにされる。


 ――やっぱり、普通にバケモンだな。


 ボールが相手のディフェンスラインから中盤へ回る。その流れに合わせて、川村がまたすっとポジションを変える。今度は背後に回り込むような動き。


「ちょ、また消えるな!」

「消えてないよ」

「いや消えてるんだよ体感的に!」


 振り返りながら必死に追う。足を止めたら、その瞬間に終わる。並走する形でなんとか体を寄せると、川村は少しだけ感心したような顔をした。


「へえ、ちゃんとついてくるんだね」

「そりゃどうも!」

「普通はもうちょっと離されるんだけど」

「普通じゃないんでな!」


 半分ヤケだ。だが、離れていないだけで上出来だと思うしかない。

 そのとき、味方の誰かがボールを奪った。


「ナイス!!」


 思わず声が出る。だが、その瞬間。


「――っ」


 川村が一気に加速した。攻守が切り替わった瞬間のスピードが、さっきまでとまるで違う。


「おいおいおい、切り替え早すぎだろ!」


 慌ててついていく。ほんの一瞬でも遅れたら、完全に前に出られる。必死に足を動かしながら、横に並び直す。


「……ちゃんと見てるね」

「そりゃどうも!」

「ちょっと楽しいかも」

「こっちは全然楽しくねえよ!」


 息が上がる。まだ始まったばかりなのに、すでに全力疾走を何本も繰り返している感覚だ。だが、目の前のこいつから目を離すわけにはいかない。


 ――目を離すと一瞬で終わる。


 その確信だけが、頭の中で鳴り続けている。


「……はぁ……」

「もうバテた?」

「まだ始まったばっかだろ!」


 軽く笑う川村に、思わず言い返しながら、俺はさらに距離を詰める。とにかく、離さない。どんなに動かれても、どんなに振り回されても。


「絶対、好きにさせねえからな」


 小さく呟くと、川村はほんの少しだけ目を細めた。


「いいね、その顔。いつまでできるかな?」

「うるせえ」


 ボールがまた動く。


 何とか食らいつき、川村に前を向かせないように追いかけまわし続けている。俺にとってはとんでもなく長い時間に感じていた。しかし、集中を切らすことなくミッションを遂行する。体もだが、頭も疲れてきていた。

 ただ、そのせいもあってかボールは相手陣内からじわじわと運ばれてくるが、さっきまでの勢いと違って、どこか詰まり気味だ。


 理由は単純。


 前が向けない。


「……っ、やりにくいな」


 川村が小さく呟くのが聞こえた。

 少しずつ効いてきたな。

 とにかく前を向かせない。体の向きを制限して、受けた瞬間にプレッシャーをかける。後ろか横にしか逃げ場を作らせない。

 それだけを、ひたすら繰り返す。


「ちょっと、近すぎない?」

「ソーシャルディスタンスは諦めろ」

「それサッカーで使う言葉じゃないよね」


 軽口を叩きながら、ボールが入る瞬間に体を寄せる。川村はトラップで少しでも前に向こうとするが、その一歩目に体を当てて潰す。


「おっと」


 くるりと体を回して後ろに逃がす川村。


「はいバックパスー」

「言わなくていいから」

「実況してやってるんだよ」

「余計なお世話だなあ」


 もう1回川村に入るが結局、前を向けずにボールは後方へ戻される。


 ――よし。


 その間に、ちらっと周囲を確認する。相手は前には運べているが、中央の川村が今までのような動きができておらず、パスコースが詰まっている。

 その先にいるのは。


「ナイス伊谷!」

「広田、寄せろ!」


 サイドでしっかり構えている二人が、きっちり蓋をしている。簡単には通さない。ここにきていい連携が出てくるようになってきている。


「……前、開かないね」


 川村がぼそっと言う。


「そりゃそうだろ」

「うちとしては、もうちょっとスムーズにいく予定だったんだけど」

「知らんがな」


 そのとき、相手の中盤から縦パスが入る。


 来る。


 俺が一歩前に出ると同時に、川村も一瞬で体を反転させようとする。


「させるかっての!」


 肩をぶつけてコースを潰す。ボールは少しずれて、川村の足元に収まるが、完全に体勢は後ろ向きだ。


「くっ……」

「はい前向けませーん」

「いちいちうるさいな!」


 その瞬間。


「山神、抜かれたら俺行くぞ!」


 横から池上の声が飛んでくる。視界の端に、すぐに飛び出せる位置で構えているのが見える。俺は川村から目を離さないようにして、親指を立てて池上にハンドサインを返す。そのやり取りを聞いた川村が、少しだけ苦笑する。


「二段構えか……」

「贅沢仕様だろ」

「厄介だね」


 言いながらも、なんとか前を向こうと細かく足を動かしてくる。だが、その動きに合わせて、俺も体をずらす。完全に前は向かせない。


「……ほんとにやりにくいな」

「褒めてる?」

「半分くらいは」

「じゃあもう半分は?」

「面倒くさい」

「正直でよろしい」


 思わず笑いそうになるが、気は抜けない。ほんの一瞬で、この均衡は崩れる。川村はボールをキープしたまま、少しだけ後ろに下げた。

 無理をしない判断。

 さすがだ。


「……無理に来ないのか」

「無理しても取られるだけだからね」

「賢いな」

「そっちがしつこいんだよ」

「仕事だからな」


 ボールは再び横に展開される。相手は攻めあぐねている。だが、それでも圧はある。一瞬でも気を抜けば、こじ開けられる。俺は小さく息を吐きながら、もう一度距離を詰める。


「……まだまだ、仕事終わってねえぞ」

「わかってるよ」


 川村が小さく笑う。


「こっちも、まだ本気出してないから」

「それフラグだからやめろ」


 そんな軽口を叩きながらも、互いに一歩も譲らないまま、試合はじりじりと続いていく。じりじりとした展開が続く中、川村がふっと間合いを変えた。


 来る。


 そう思った瞬間、体を寄せるが――


「っ!」


 無理やりだった。体勢を崩しながら、それでも足を振り抜く。


「強引すぎだろ!」


 思わず声が出る。ボールはゴール方向へ飛ぶが、軌道はわずかに外れて、そのまま枠の外へ。


「ナイス外し!」

「うるさいな!」


 川村が苦笑しながら振り返る。


「いや、ちょっと厳しかったかな」

「じゃあ撃つなよ」

「撃たないと何も起きないでしょ?」

「それはそう」


 結局、相手のシュートは外れ、こちらのボールで再開。ゴールキックからつないで、ボールが俺のところに回ってくる。


 ――ここから。


 高原の言葉を思い出す。


 『前で時間を作れ』


 ボールを受けて、すぐに前を向く。

 その瞬間。


「止めろ!」

「潰せ!」


 西海ともう一人が、ほぼ同時に突っ込んできた。


「うわ、早い!」


 反射的に体を入れてボールを隠す。ドン、と横から当たられる。


「痛っ!今の普通に当たり強くない!?」

「ボール取るだけだろ!」

「いやそれタックルの強さじゃねえ!」


 足も出てくる。しかも結構しっかり削りに来ている。


「ちょ、足!足来てるって!」

「クリーンプレーだよ!」

「どこがだ!」


 ちらっと審判を見る。体育教師、腕組んで見てるだけ。

 ――あ、これダメなやつだ。


「……笛鳴らす気ゼロだな!?」

「流してるんだろ!」

「雑すぎるだろ流し方が!」


 文句を言いながらも、足は止めない。ボールを足元で細かく動かして、体で隠して、とにかく奪われないようにする。

 後ろからも圧が来る。


「囲め囲め!」

「うわ三方向から来た!」


 完全に包囲されている。


 だが――


 顔を上げる。その瞬間、視界の端に動きが見えた。


 前。伊谷と加藤が、しっかりと高い位置を取っている。


「……よし」


 ほんの一瞬だけ間を作る。その隙に、足元に引きつけたボールを――ワンタッチ。そのまま、相手のラインの裏へ、スッと流す。


 スルーパス。


「行け!」


 声が出る。ボールはちょうど、伊谷が走り込んできた位置に通る。


「ナイスパス!」


 スルーパスに反応した伊谷が、そのまま勢いよく右足を振り抜いた。


 ――いい形。


 そう思った次の瞬間、ボールはゴールのわずか外をかすめて、そのままラインを割った。


「あああああああああ!!」


 伊谷がその場で天を仰ぐ。


「今の入ったと思ったって!!」

「惜しい惜しい!」


 後ろから加藤が声をかけているが、本人は両手で頭を抱えてしゃがみ込んでいる。


「いや今のは決めたかったぁ……!」

「まあ落ち着け」


 軽く声をかけながらも、正直かなりいい形だった。その空気をぶち壊すように、なぜかハイテンションな声が横から飛んできた。


「すんげぇぇぇぇぇ!!」


 うるさい。振り返ると、案の定三浦だった。目がキラッキラしている。


「今の何!?あの状況でキープして、最後あんな優しいスルーパス出せるの!?え、どうやったの!?」

「普通に出しただけだが」

「いやいやいや普通じゃないから!」


 ぐいぐい来る。距離が近い。


「3人に囲まれてたよな!?見えてた!?あれ見えてたの!?」

「見えてたから出してるんだろ」

「すげぇぇぇぇぇ!!」


 うるさい(二回目)。


「俺にも出してくれよ今の!絶対決めるから!」

「じゃあマーク外せ」


 即答する。当たり前の話だ。

 すると三浦は一瞬だけ真顔になってから、すぐに不満げな顔になる。


「いや無理だって!」

「なんでだよ」

「だってしつこいんだよあいつら!」


 びしっと相手のディフェンスを指差す。


「あれレギュラーだぞ!?しかも二人でずっと見てくるんだぞ!?いくら俺でも無理なもんは無理!」

「代表候補が何言ってんだ」

「代表候補にも限界はあるんだよ!」


 堂々と開き直るな。


「お前のとこ行ったら即潰されるんだって!パスもらう前に終わる!」

「じゃあ動け」

「動いてるわ!」

「もっと動け」

「これ以上動いたら死ぬわ!」

「知らん」


 完全に押し付け合いである。三浦はぶーぶー文句を言いながらも、ちらちらと相手DFの位置を気にしている。


「くそぉ……でも今のはマジで欲しかった……」

「次は自分でなんとかしろ」

「えー、パスくれよぉ」

「だからマーク外せって言ってんだろ」

「簡単に言うなよ!」


 そのやり取りを少し離れたところで聞いていた伊谷が、まだ天を仰いだまま叫ぶ。


「お前らいいから決めさせろよ次はぁぁぁ!!」

「次は絶対決めろよ!?あんなパス何回も出せねーからな!!」

「それでも信じて走る!!陸上部はそれが本業だ!!」


 違うだろ!

 なんだこのやかましいチーム。俺は小さくため息を吐きながら、もう一度グラウンド全体に視線を向ける。


 ――チャンスは作れてる。あとは決めるだけだ。


「……次だな」

「おう!次こそ決める!」


 三浦が力強く言う。

 ……まあ、あいつに関しては、言ってることは信用していい。

 うるさいけど。

 相手のゴールキックの準備が進む中、息を整えようと一歩下がったところで、すっと横に人影が寄ってきた。


「山神」

「ん?」


 見ると高原だった。顔は落ち着いているが、額にはしっかり汗が浮かんでいる。


「今のところ、作戦はうまくいってる」

「そうだな」


 短く返しながらも、視線は前に向けたままにする。相手の配置、川村の位置、全部確認し続ける。


「川村、顔には出してないけどな」

「焦ってるか?」

「間違いなくな」


 高原が小さく笑う。


「プレーが雑になり始めてる」

「さっきの強引なシュートか」

「それだ」


 確かに、あいつならもう少し崩してから打つタイプだ。それを無理に打ってきた。つまり、余裕がない。


「いい流れだ」

「だな」


 そのとき、相手がボールを蹴り出す。高く上がったボールが中盤へ。


「来るぞ!」


 高原がすぐにポジションへ戻りながら声を飛ばす。俺も同時に体を入れ替えて、川村の位置を確認する。さっきより、ほんの少しだけ動きが荒い。

 それでも速い。


「……っと」


 ボールが落ちる瞬間に競り合いが発生し、こぼれ球が前に転がる。川村がそれを拾いに行く。


「させるか!」


 すぐに距離を詰めて体を寄せる。


「ちっ……」

「ほら前向けない」

「ほんとしつこいな」

「仕事だからな」


 軽くぶつかりながら、また後ろに戻させる。その流れで、高原がもう一度横に並ぶ。


「あと一個だけ」

「なんだ」

「西海、気をつけろ」

「……ああ」


 言われなくても感じてはいる。さっきから当たり方が妙に荒い。


「足、削ってくる可能性ある」

「さっきもう来てたぞ」

「だろうな」


 高原が苦笑する。


「審判もあの感じだしな」

「期待するだけ無駄だな」

「だから、自分で守れ」

「了解」


 短くやり取りして、それぞれのポジションへ戻る。

 試合は再び動き出す。

 相手はサイドに展開しようとするが、広田がしっかり寄せてコースを限定し、無理に入れた縦パスは高原が読み切ってカットする。


「ナイス!」


 そのままボールが俺の方へ転がる。


「来た!」


 トラップして前を向こうとした瞬間、横からドンと当たられる。


「ぐっ……!」


 西海。


「はい潰しますー!」

「正直すぎんだろ!もっとオブラートに包んで隠せよ!!」


 足も出てくる。


「だから足に来てるって!!いってぇな!」

「ボール行ってるだろ!」

「ついでに俺にもいってるだろ!貫通してる!!」


 なんとかバランスを保ってボールをキープしながら、すぐに横へ逃がす。


「無理してでも何とかキープ!」


 高原の声。


「お前鬼だろ!!」


 だがここで倒れたら流される未来しか見えない。試合はそのまま激しく入れ替わる。

 相手のクロスを山田がしっかりキャッチし、「ナイスキーパー!」と誰かが叫び、こちらのカウンターは三浦が粘るが二人に潰され、「だから無理だって!」と叫んでいる。

 全体的にうるさい。

 だが、流れは悪くない。


 そして――



 ピィィィィィィィィィッ!!



 長めの笛が鳴る。


 前半終了。


 その瞬間、何人かがその場にしゃがみ込んだ。


「はぁ……っ、やっとか……」

「まだ半分だぞ!」

「もう無理だろこれ!」


 あちこちからそんな声が上がる中、スコアボードは変わらない。


 0-0。


 俺は息を整えながら、ゆっくりと空を見上げた。


「……とりあえず、予定通りだな」


 横で高原が頷く。


「ああ、このまま抑え切るぞ」

「了解」


 この後、後半戦。まだ終わりじゃない。

 前半終了の笛と同時にベンチへ戻ると、なぜか出迎えのテンションが文化祭の出し物成功後みたいになっていた。


「すげぇじゃねぇかお前ら!!」

「0点に抑えてる!!奇跡か!?」

「奇跡じゃねえよ努力だろ!」

「伊谷のシュート惜しかったぞ!」

「加藤マジで速い!俺じゃなきゃ見逃しちゃうぜ!」

「それたぶん全員見えてる」


 口々に好き勝手言われながら、肩を叩かれたり水を押し付けられたりして、気付けばちょっとした英雄扱いになっている。


「はい水!」「タオルも!」「座れ座れ!」

「ありがたいけど距離近いな!」


 半ば押し込まれるように座らされて、強制的に休憩体勢に入らされる。横を見ると、伊谷と加藤がすでに女子たちに囲まれていた。


「すごかったよ伊谷くん!」

「あとちょっとだったね!」

「加藤くんめっちゃ走ってた!」

「いやぁ~まあな~!」

「まだいけるわ俺!」


 完全に調子に乗っている。しかも二人とも、やけに顔が緩んでいる。

 ……あれはもうダメだな。


「おい、まだ試合終わってねえぞ」


 ぼそっと声をかけると、伊谷がふわふわした顔のままこちらを見る。


「わかってるって……でも今、ちょっと天に近い……」

「帰ってこい」

「加藤、お前もだ」

「いや俺まだ生きてるけど半分くらい昇ってる」

「降りてこい」


 こいつら、このまま召されるんじゃないかと少し本気で心配になる。

 その横で、池上がぽつんと座っていた。


「……俺、なんか言われてなくない?」


 ぼそっと呟く。


「いや、ちゃんと守備してただろ」

「だよな?」

「だが地味だな」

「地味って言うな!」


 地味にショックを受けている。まあ、役割的に仕方ない。さらに視線を奥にやると、山田がベンチにどっしり座っていた。


 ――でかい。


 座っててもでかい。なんなら座ってる方が存在感あるまである。

 そこへ、山本さんがタオルを持って近づいていく。立っている山本さんより座っている山田の方がでかい。


「山田くん、お疲れ様です。タオルどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 いつも通りの穏やかな返答。そして、少し間を置いて。


「今日も、よく守ってくれてるな」

「え?」

「彼らが」


 さらっと言う。

 山本さんが一瞬固まる。


「……え?あの、誰がですか?」

「ん?ああ、妖精たちが――」

「え!?妖精が見えるんですか!?」


 食いついた。予想以上に食いついた。

 山田は少しだけ首を傾げてから、当たり前のように答える。


「え?君の肩に座って微笑んでるよ?」

「えぇぇぇぇ!?」


 山本さんが目を見開いている。

 ……あ、やっぱり見えるんだ。とりあえず、表情があるタイプの妖精らしい。

 そのやり取りを横目に見ていると、すっと隣に影が差した。


「創ちゃん」


 夏樹だった。手には水の入ったボトル。


「はい、水」

「サンキュ」


 受け取って一口飲むと、ようやく喉が落ち着く。そんな俺をじっと見ながら、夏樹が少し不安そうに言う。


「……足、大丈夫?さっき結構当たられてたけど」

「ああ、大丈夫だ」

「ほんとに?」

「ユースのときの方がもっとえぐかったぞ」


 軽く肩をすくめて言うと、夏樹は少しだけ眉を寄せる。


「それ安心材料になってない気がするんだけど」

「まあでも、この程度なら問題ない」

「……ほんと?」

「ほんとだって」


 なるべく軽く笑って見せる。それでも、完全には安心していない顔だ。

 仕方ない。


「大丈夫だって。クラスの宝は、ちゃんと俺が守るから」


 何気なくそう言った。

 その瞬間。


「……っ!?」


 夏樹の動きが止まる。

 顔が一気に赤くなる。


「な、な、なにいきなり……!」

「何が?」

「そ、そういうのは、その……いきなりは駄目だよ……!」


 なぜか視線を逸らして、顔を伏せる。

 耳まで赤い。

 俺は首を傾げる。


「……何が?」

「もういい!」


 ぷん、とそっぽを向かれる。

 意味がわからない。

 その様子を少し離れたところから見ていた柴田さんが、ゆっくりとこちらに歩いてきて、ため息を一つ。


「……ほんと、あんたって」

「なんだよ」

「朴念仁にもほどがあるわよ」

「は?」

「いいから、水ちゃんと飲んでなさい」


 呆れ顔でそう言って去っていく。

 理不尽だ。俺は釈然としないままもう一口水を飲む。その間にも、周囲では「後半もいけるぞ!」「守り切れ!」と騒がしい。


 そして――


 ピィィィィィィィィィッ!!


 再び笛が鳴る。


 ハーフタイム終了。


 俺はゆっくり立ち上がりながら、もう一度グラウンドを見た。


「……あと半分か」


 泣いても笑ってもこれで球技大会は終了。あとは読書の時間だ!

さすがに前半では終われないので、何とか今日中に後半をアップします。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

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