表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみの隣で、今日も考えてる  作者: マリセリソウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/29

第27話 球技大会 準決勝

 準決勝が終わったあと、創ちゃんたちはほんの少しだけその場で息を整えると、すぐに次のコートへ向かって歩き出した。インターバルはたったの10分。さっきまであれだけ走り回っていた人たちに対して、その休憩時間はどう考えても優しくない。


 というか、見た目がもう限界だ。


 創ちゃんも含めて、全員どこかしらおかしい。足取りは重いし、背中は丸まっているし、顔色も若干青い。例えるなら――そう、ゾンビだ。しかもわりと出来のいいやつ。今にも「うぅ……」って言いながらボールを追いかけそうな雰囲気がある。

 それでもちゃんとコートに向かっていくあたり、気合いだけで動いているんだと思う。

 その中で、創ちゃんと高原くんだけは少し前を歩いていて、何やら話をしている。距離があって内容までは聞こえないけど、きっと次の試合に向けた作戦とか、ポジションの確認とか、そういう真面目な話なんだろう。


 一方で、クラスメイトたちはというと、相変わらず元気だった。


「次も勝てええええ!!」

「ご褒美かかってるんだからなあああ!!」

「ここまで来たら優勝以外許さないからな!!」


 応援というより、ほぼ圧だ。むしろ脅しに近い。

 その声を浴びながら、試合に出るメンバーたちはちらっと振り返って、全員そろって苦笑いを浮かべていた。



 試合開始の笛が鳴った瞬間、さっきまでゾンビみたいだった創ちゃんたちが、ちゃんと人間に戻って動き出したのがちょっと面白かった。面白がってる場合じゃないんだけど、回復の仕方が独特だなぁって思うと少しだけ笑ってしまった。


 ポジションを見ていると、さっきと少し違う。

 後藤くんが、最初は創ちゃんの左後ろにいたはずなのに、今はちょうど真後ろにいる。ぴったり背後。守護霊みたいな位置だ。

 たぶん意味はあるんだと思う。絶対ある。高原くんとさっき話してたし。でも、私はサッカーに詳しくないから、「へぇ、後ろにいるなぁ」くらいの理解しかできない。解説がほしい。


 その間にも試合はどんどん進んでいく。

 そして、ふと周りの音に気付く。


 もう一つのコートでも、同時に試合が始まっていた。


「うおおおおお!!」

「ナイス!!」


 そっちは、いわゆる“ちゃんとした歓声”が上がっている。プレーに対して盛り上がっている感じ。スポーツ観戦ってこういうものだよね、っていう理想的な空気。


 ……一方で、こっち。


「危ない!!」

「守れええええ!!」

「あああああああ!!」

「ちょっとあんたたち!!負けたら承知しないわよ!!」


 もはや応援なのかどうかすら怪しい。

 指示なのか悲鳴なのか脅しなのか、全部混ざってる。


 私は思わずぽつりと呟いた。


「これ……応援、だよね?」

「たぶん、応援です」


 隣で萌が真顔で頷く。


「……やっぱり、サッカーはよくわからないわね」


 しばらく試合を見ていた直美が、ふっと小さくため息をついた。

 その言葉に、私は思わず頷く。いや、わかる部分もあるけど、細かい駆け引きとかポジションの意味とかは、正直ほとんど雰囲気で見ている。

 すると、萌がぱっと顔を上げた。


「じゃあ、詳しい人に解説してもらいましょうか?」

「それはいいわね」


 即答だった。

 直美はすぐに周りを見回し始める。キョロキョロとターゲットを探すその様子が、ちょっとしたハンターみたいで面白い。


 そして、ロックオン。


 少し離れたところでスマホを見ていた男子生徒に、すっと近づいて声をかけた。

 話しかけられた男子は、明らかにびくっとしていた。そりゃそうだと思う。いきなり直美に話しかけられて驚いていたみたい。

 でも、2、3言葉を交わしたあと、なぜかその男子はこくこくと頷き、そのままもう一人を連れて戻ってきた。たぶんサッカー詳しい人を呼んでくれたんだと思う。

 連れてこられた二人は、明らかに緊張している。背筋が伸びすぎているし、目も泳いでいる。

 そんな二人に、直美はにっこりと笑って言った。


「私たちが楽しめるように、解説してくれる?」


 直美。それじゃ無茶ぶりだよ。完全に無茶ぶりだよ。

 私はすかさずフォローを入れる。


「無理しなくていいからね?普通にで大丈夫だから」

「気楽にで大丈夫です!」


 萌も横でこくこく頷く。

 二人は顔を真っ赤にしながら、でも小さく「は、はい……」と答えた。

 ……がんばれ、解説係。



 連れてこられた解説係の男子たちは、最初こそガチガチに緊張していたけど、いざ試合が動き出して説明を求められると、だんだんスイッチが入ってきたらしい。好きな分野に入ると人は強い。


「あ、えっと……今の配置なんだけど、山神の後ろに後藤を置いてるの、“偽センターバック”みたいな形だと思う」


 ひとりが指をさして、少し早口になる。


「にせ……?」


 直美が首をかしげる。

 私と萌も同じ顔になっていた。


 男子は一瞬言葉を選ぶようにしてから、もう一人と目を合わせて頷き、説明を続ける。


「えっと、まず山神が前で相手の進路をちょっとずらすんだよ。で、わざと後藤のいる方に行かせる感じで……」

「誘導、ってこと?」

「そうです!誘導です!」


 ちょっと嬉しそうに返事をされた。


「で、大前提、後藤はサッカー経験そんなにないから、たぶん一回は抜かれる」

「前提なんですか?抜かれちゃったら危ないですよ?」

「はい、その瞬間に山神と高原と広田で囲んで取りに行くんです。サッカー未経験の後藤を抜くにも少しは時間かかるから」

「……なるほどね」


 直美が腕を組んで、少し納得したように頷く。

 私はコートを見る。言われてみれば、そんな動きになっている気がする。

 そして解説はさらに続く。


「これができるの、たぶん山神だからなんだよ」

「え?」


 思わず聞き返すと、男子は真剣な顔で続けた。


「運動量、全然落ちてない。伊谷とか加藤のカバーにまず行って、そこから一番最初にボール持ってる相手に当たって、もし取り切れなかったらすぐ後藤のフォローに回って……」


 言いながら、もう一人が補足する。


「で、ボール取ったらすぐ前行く。三浦へのパスコースになるか、自分で作るか」

「……それ、ずっとやってるの?」

「ずっとです」


 即答だった。

 私はもう一度、創ちゃんを見る。


 ……うん、走ってる。


 めちゃくちゃ走ってる。さっきまでゾンビだったのに。


「人間って、あそこまで動けるんだね……」


 思わず呟くと、萌が小さく頷いた。


「たぶん、山神君だからじゃないですか?」



 解説もだんだん熱を帯びてきて、最初は緊張で固まっていた男子も、今では普通に早口で語るようになっていた。


「いやこれ、マジであの感じ……イングランドのクラブにいる日本人選手みたいな……」


 その一言に、萌と直美が同時に反応する。


「え、それって――ちょっと前にニュースでやってたあのチームですか?」

「たぶんそうよね、快挙ってニュースをしてたくらいだから、有名なところなんでしょ?私でも知っているわ」


 二人とも普通に知っているらしい。すごいな。私はなんとなく聞いたことある気がする、くらいの認識だ。

 だから、つい口に出してしまった。


「あれ? そこって創ちゃんが中学生の時に所属してたチームだよ?」


 一瞬、空気が止まった。



「「……は?」」



 萌と直美が同時にこっちを見る。

 解説していた男子も、ゆっくりと私の方を向いた。


「……そんなまさか」


 信じてない顔だ。間違いないと思うんだけどな。

 私は「えー?」と思いながらスマホを取り出して、写真フォルダをスクロールする。ちょっと懐かしいやつを見つけて、それをそのまま見せた。


「これ」


 画面を覗き込んだ瞬間――



「「「「えっっっっっっっっっ!?」」」」



 絶叫だった。

 周りの何人かがびくっとするくらいの音量だった。


「いやいやいやいやいや!!これガチのやつじゃないですか!?」「え、え、待って、このエンブレム……え!?」「嘘でしょ!?」


 さっきまで解説してた人とは思えないくらい取り乱している。もう一人もスマホに顔を近づけて、完全にパニックだ。


「そこ、世界トップクラスのクラブのユースですよ!?」

「そうなの?」

「そうなの!?じゃない!!」


 すごい勢いでツッコまれた。

 私は少しだけ画面を見つめる。

 あの頃の創ちゃん。今よりちょっとだけ幼くて、それでも同じ顔で写ってる。自然と、少しだけ声が柔らかくなる。


「このときね、創ちゃん海外行っちゃって、しばらく会えなくてさ。寂しくて、けっこう落ち込んでたんだよね」


 萌と直美が、静かにこっちを見る。


「そしたら創ちゃんのご両親が、何回か呼んでくれてさ。一緒に向こう行ったりしてたから、たぶん間違いないと思う」


 そう言って笑うと、男子たちはまだスマホと私を交互に見ていた。

 さっきまでの解説モードは完全に消えてしまった。

 


 スマホの画面を見せてひとしきり騒ぎになったあと、直美が腕を組んだまま、じっとコートの方を見てからぽつりと言った。


「……なんでそんなチームにいて、今日本で根暗な読書家やってんのよ」


 言い方。

 ちょっとどころじゃなく失礼だと思う。

 でも、その疑問は――さっき創ちゃんがスカウトの人に聞かれていたものと、まったく同じだった。

 私は少しだけ考えてから、視線をコートに戻す。

 ちょうどそのとき、相手が中央から仕掛けてきていた。


「来る! 中央締めろ!」


 創ちゃんの声が飛ぶ。

 相手の進路を少しだけずらして、後藤くんのいる方へ誘導する。さっき解説してもらった通りの形だ。後藤くんが体をぶつけて止めにいくけど、完全には止めきれない。


 その瞬間――


 創ちゃんが一気に詰める。

 横から高原くん、後ろから広田くんも寄せて、三人でボールを囲む。


 ボールを奪った!

 そのまま間髪入れずに前へ。


「三浦!」


 低く鋭いパスが通る。

 ……ほんと、凄い。ボールがそこで取れちゃうのが当然のように見える。私でもそう見えるんだから、解説の子が言っていた作戦の通りなんだろう。

 私は小さく息を吐いてから、直美の方を見る。


「創ちゃん、ちゃんと自分で考えて決めてるから……たぶん、それでいいんだと思う」


 少しだけ曖昧な言い方になったけど、それ以上は踏み込めなかった。直美は「ふーん」とだけ言って、またコートに視線を戻す。

 萌はというと、きらきらした目で頷いていた。


「どうりでサッカー上手なわけですね……」


 納得した顔だ。

 一方で、解説係の男子はまだどこか現実に追いついていない様子で、コートと私を交互に見ている。


「……だからあんなに判断早いんだ……迷いがないっていうか……」


 感心しているのか、衝撃を受けているのか、自分でもよくわかってなさそうな声だった。

 その間にも、創ちゃんはまた走っている。

 ボールを追って、味方に指示を出して、奪って、前に出て。


 

 試合は最後の数分に入っていた。

 お互いに足は止まりかけているのに、なぜかボールだけは止まらない。奪って、奪われて、また奪って。創ちゃんは相変わらず走っていて、もう何本目かわからないカバーに入っていた。


「下がれ! ライン上げるな!」


 声も少し枯れてる。それでも指示は止まらない。相手の攻撃をなんとかしのいで、ボールがこぼれる。

 その瞬間、創ちゃんが一歩早く反応して足を出す。

 カット。

 すぐに前を見る。

 サッカーの時だけ見せるあの顔をする。


「三浦!」


 縦に鋭く通す。

 三浦くんがそれを受けて、ワンタッチで前に運ぶ。相手が寄せる。でも止まらない。

 一人、かわす。

 もう一人、無理やり体をねじ込んで前に出る。

 そして――

 振り抜いた。


 シュート。


 ボールがゴールネットを揺らした瞬間、



 ――ピィィィィィィッ!!



 試合終了の笛が重なった。

 一瞬の静寂のあと、爆発みたいに歓声が上がる。


「うおおおおおおおお!!」

「決まったあああああ!!」


 でも、その歓声の中で、一番印象的だったのは――

 ばたばたと倒れていく音だった。

 創ちゃんがその場に崩れ落ちる。高原くんも、広田くんも、そのまま地面に倒れ込む。他のメンバーも次々とダウン。



 ……全滅だった。



「よくやったああああ!!」

「ご褒美リーチきたああああ!!」


 クラスメイトたちが一斉にコートに流れ込む。もはや救護班なのか応援団なのかわからないテンションで、水やタオルを持って駆け寄っていく。

 その中で、私はまっすぐ創ちゃんのところへ向かった。

 創ちゃんは仰向けに倒れていて、肩で大きく息をしている。胸が上下するたびに、本当に限界だったんだなってわかる。

 私はその横にしゃがみこんだ。


「お疲れ様」


 声をかけると、創ちゃんが少しだけ顔を動かして、こっちを見た。


「おぅ……何とか勝ったぞ」


 かすれた声だったけど、ちゃんといつもの調子だった。私は思わず小さく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ