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第二章

第二章 第7話


『聖女裁判と正義の崩壊』


王都ロセリア。王国の中心であり、聖女と王太子が支配する“秩序の象徴”。

しかし、その空気は今、明らかに揺らいでいた。


──


「魔王の妃となった公爵令嬢リリアーヌ様が、王国の断罪は偽りだったと――」


「しかも、聖女様と王太子殿下が魔導審問機を改竄していたという話も……」


「でも、それって……本当なの?」


「知らない。でも、“映像”は確かに流れた。あれが嘘だとは思えない……」


市民たちは昼も夜も噂をささやき、誰もが“正しさ”に怯え始めていた。



---


その中心で揺れる者が、ただ一人。


聖女レーナ・マルティーナ。


「……この空気、嫌い」


美しい金髪を解き、侍女たちを下がらせたレーナは、窓の外を眺めながら吐き捨てた。


「誰も彼も、わたしのことを“疑ってる”目で見てる」


それは、ただの被害妄想ではなかった。

リリアーヌによって公開された断罪映像。

そこには、彼女が魔導魔眼に直接干渉している様子が記録されていた。


確かに魔力波形は一致していた――だが。


「……あれは、仕方なかったのよ」


王太子アレクシスが言う。「必要な処置だった」と。


「彼女は王宮にとって“危険すぎる”存在だった。貴族派も恐れていたし、民衆も……」


「でも、それを言ったら、今はわたしたちが危険視されてるんだよ?」


「レーナ……」


レーナはゆっくりと振り返った。


「ねえ、アレク。わたし、“正義”なのかな?」


「それは……もちろんだ」


「ほんとに?」


その一言に、アレクシスは言葉を詰まらせる。


(もう、わからない)


民の声は“聖女への失望”へと変わりつつある。

教会の権威は揺らぎ、王宮議会にも“調査派”が現れ始めた。


──


そして、事態を決定的に変える一手が、リリアーヌ側から投下される。


王都各地の魔導掲示板に、ある文書が貼り出された。


> 《王国民の皆様へ》


このたび、私リリアーヌ・エステル・グランゼルは、王都より不当な断罪を受け、王太子および聖女殿下による魔導改竄の被害者となりました。


本件の真実を記録した映像は、既に王国全土に配信済みです。


つきましては、王宮上層部に対し、公的な再審議を求めます。


“正義”とは、誰のためにあるのか。 “聖女”とは、何を守る者なのか。


私は問いたい。


……真実のために、もう一度、裁かれる覚悟はありますか?




王都は騒然となった。


市民たちのうち、数千名が再審要求の署名を提出。

ついには王国議会も黙っていられなくなり、**“聖女レーナに対する説明責任審問”**が正式に開かれることになる。



---


審問の日。

聖堂の上階に設けられた公開法廷には、千名近い傍聴人が集まっていた。


中央に立たされるレーナ。

その姿は、あまりに“浮いて”いた。


白銀の衣に包まれた彼女の前に、証人たちが次々と名乗り出る。


「……私が見た断罪魔眼の映像と、今見せられている記録は明らかに異なります」


「当時、魔法干渉を行っていた修道女はレーナ様の直属でした」


「魔力量が一致する、という鑑定も出ています。偽装の可能性は、極めて低いと……」


レーナは何も言えなかった。

何もかもが、自分の正義を否定していく。


(こんなの……わたしが悪いの? 違う……わたしは……!)


思わず手が震えた。

だがその時――


空間に、ゆっくりと魔力の渦が広がった。


魔力通信――リリアーヌからだった。


《レーナ。あなたには、まだ“選択”の余地がある》


《このまま罪を否定し続けるか。それとも、自らの正義を見つめ直すか》


《私は、あなたを憎んではいません。だけど、あなたが自分を偽るなら――》


《次にあなたを裁くのは、私自身です》


その声が止んだ時、聖堂には深い沈黙が流れた。


聖女の肩が、かすかに揺れる。


「……私は……正しいことを、したかっただけなのに……」


その声は、誰にも届かない。


もはや“聖女”は、信じられていなかった。



---


その夜、王太子とレーナは秘密裏に“城を出る”。


リリアーヌの狙い通り、“王都の正義”は崩壊した。


そして、次に始まるのは――“新たな秩序”の提示。


魔王妃リリアーヌは、“王国でも魔界でもない第三の場所”を設立しようとしていた。


その名は――《ノーブル・サンクチュアリ(貴き者の避難所)》。


物語は、いよいよ“革命”のフェーズへと突入する。


第二章 第8話


魔王妃の外交と“中立地帯”宣言


「この場所を“第三の国”と定義します。王国でも、魔界でもない――正義に拒まれた者たちのための避難所ですわ」


魔王城の謁見の間に、リリアーヌの声が響き渡った。

王国による断罪、聖女裁判の余波で、多くの“逸脱者”が行き場を失っていた。

貴族派の脱走者、捨てられた平民、魔族との混血、異端の学者、追放された聖職者。

リリアーヌは、彼らを一つに束ねる新たな領土を提示する。


「名を、《ノーブル・サンクチュアリ》。ここに、私の意志と、魔王陛下の許可により建国を宣言いたします」


だが、魔王軍の幹部たちは一様に眉をひそめた。


「妃殿下。人間を引き入れるとは、裏切りか?」


「いずれ牙をむく。所詮は人間」


「ならば、試させていただきましょう」


重々しく立ち上がったのは、戦王ヴァルハート。

その眼は、明確な敵意ではなく“見極め”の光を宿していた。


「貴女にその“国”を守る力があるのか。魔王の妃としての資格があるのか。我が剣で、確かめさせてもらいます」


リリアーヌは笑った。

挑発ではない、女王としての“受けて立つ”微笑。


「ええ、どうぞ。――その代わり、私が勝ったら、すべての文句は黙っていただきますわよ?」


試練の形式は、“魔族流の決闘儀式”。

互いの魔力と意志をぶつけ合う、戦士の言葉を交わす闘争だった。


リリアーヌは、剣も持たず、ただ指先に魔力の紋章を灯す。

彼女の“武器”は、言葉、意思、そして“構造そのものを変える力”。


「魔力は剣だけじゃない。体制を変える、それもまた力ですわ」


一瞬の閃光。

空間魔法と幻影操作、複数系統の複合魔術による“支配域”が展開され、戦王はその中に封じられた。


「これは……戦術魔法構造体!? 貴様、人間の分際で……」


「人間の“分際”で、ここまでできるのなら。――それはもう、“魔王妃”として十分ではなくて?」


沈黙。

そして、戦王は剣を収め、膝をついた。


「認めよう。“支配されることなく、支配する力”――その器、確かに見せてもらった」


魔王軍幹部たちの中で、反対派が次々と沈黙する。

リリアーヌは静かに一礼する。


「ありがとうございます。では、“私の国”の建設に、ご協力願えますか?」


その夜、魔王城の北東――中立地帯との境界に、黒曜石の塔が建てられた。


王国から逃れた者たちが、次々と集まってくる。

彼らは、かつて正義に捨てられた者たち。


リリアーヌは、その中心に立つ。


「ここからですわ。私たちの物語の本当の始まりは」


風が吹く。

その目は、もう王都だけを見ていなかった。


次は、“世界そのもの”を見据えていた。



---


第二章 第9話


魔王軍の試練と契約の代償


「貴女は確かに“魔王妃”かもしれません。しかし、魔王軍の“柱”ではない」


リリアーヌは、炎帝ガル=ドラゴの声を静かに聞いていた。


魔王軍内の強硬派はまだ納得していなかった。

戦王ヴァルハートとの決闘に勝ったこと、それ自体は評価されている。

だが、あくまで“統治者”としての器を示したに過ぎない。


「魔王軍幹部に与えられるのは“力”だけではない。“責任”と“代償”だ」


イリシオンは黙って聞いている。

これはあくまで、彼女自身の意思で乗り越えるべき儀式だった。


提示されたのは――《契約の間》。


魔王軍上層に立つ者が交わす、“魂の契約”。


魔力の根幹を露出させ、魔王城と“因果の糸”で繋がる。

拒絶すれば、魔王軍から追放される。

受け入れれば、魔王に忠誠する代わりに、力の一端が与えられる。


「言っておく。これは“愛”や“情”では済まない。お前は王国に生きていた人間。その魂が、この“魔王の塔”に耐えられるとは限らん」


リリアーヌは、魔力陣の中心へと歩く。


「構いません。私は、魔王様に仕えるわけではありません。“理不尽に抗う者たち”を守るためにこの力が必要です」


契約の陣が輝き、空間が歪む。


“魂の接続”――それは言葉で語るような優しさではない。

記憶、痛み、信念、罪業、そして願い。

すべてが暴かれ、すべてを晒し合う。

心が弱ければ、自己否定の呪いに飲まれて自壊する。


リリアーヌの視界が赤く染まる。

かつての断罪、家族の沈黙、側近の裏切り、王太子の嘲笑、レーナの慈悲。


全部が、脳に、心に、皮膚に突き刺さる。


(私は……間違って……いない……!)


誰にも望まれなかった“悪役”を演じて、王国を守り、秩序を支えた少女。

だが、その真実は誰にも届かなかった。


(私は、許されなくていい。けれど、私と同じように――“役割”を演じさせられた者がいるなら)


(今度は、私が守る)


陣が鳴り、魔力の波がはじけた。

魔王イリシオンの瞳がわずかに揺れる。


「……成功、か」


契約が完了した瞬間、リリアーヌの背に“黒の紋章”が浮かび上がる。

これは魔王軍において、“幹部”として認められた者だけが持つ紋章。


「貴女の意志、確かに刻まれました。もはや誰も、異議はない」


イリシオンは静かに近づき、そっと囁く。


「貴女は、我が“半身”だ。王都であれ、神であれ、誰も貴女を奪わせはしない」


彼の言葉に、リリアーヌは目を細める。


「ええ。でもこの戦いは、私自身の戦いです。陛下の“庇護”でなく、私自身の“意志”として立たせてください」


「ならば――支えよう。我が妃にして、我が革命」


その夜、リリアーヌの存在は魔王軍内で“真の幹部”として認められた。


だがその代償として、彼女の魔力と魂には“ある歪み”が刻まれていた。


彼女自身、まだ気づいていない。

この契約が、彼女の運命に深い“呪い”を孕んでいたことを――


次話、「王国議会襲撃と仮初めの和平」へ。



---


第二章 第10話


王国議会襲撃と仮初めの和平


「リリアーヌ・エステル・グランゼル――この国に再び現れたのなら、我々は“魔王の傀儡”と見なす」


王国議会、大広間。

聖女裁判の余波、そして“ノーブル・サンクチュアリ建国”によって、貴族たちの分裂は決定的となっていた。


保守派は口々に非難を叫び、改革派は沈黙し、中立派は疑念に揺れている。

もはや“正義”という共通言語は、この国には存在しなかった。


その空間に、リリアーヌは自らの足で入ってきた。


「ごきげんよう、諸卿。断罪された“亡霊”が戻ってきましたわ」


全員の顔が凍りついた。


黒と赤のドレス、背には魔王軍の幹部紋章。

彼女はもう、王国の“令嬢”ではない。

――魔界から戻った、“対等なる女王”だった。


「本日は、“戦争の回避”と“和平交渉の機会”をいただきたく参りました。武力ではなく、まず言葉を」


激昂した保守派議員が席を立つ。


「貴様が何を語ろうと、裏に“魔王”がついている時点で和平などありえん!」


「では、王都が焼かれることを望みますか? 私は、止めに来たのです」


「偽善を――!」


魔導兵器が起動する。だが――


ズンッ。


空間が揺れ、天井から漆黒の腕が伸びる。

イリシオンは姿を見せず、“影だけ”を送り込んだ。


「リリアーヌの身に指一本でも触れれば――王都の空は灰に染まるだろう」


その威圧に、議員たちは膝をついた。


リリアーヌは、冷たく静かな声で言う。


「これは脅しではありません。“選択肢”です」


「私は、争うために来たのではなく、“余地を残すため”に来たのです」


「今、王都は分裂の一歩手前。どちらに転んでも、もはや統一は不可能」


「ならば、もう一つ、道を加えるべきでしょう。“第三の国”――《中立領ノーブル・サンクチュアリ》という選択肢を」


会場がざわつく。


「聖女と王太子を信じられないなら、王国に残る必要はありません」


「魔界に怯えるなら、魔族の元へ行く必要もありません」


「私は、誰も傷つけない場所を用意しました。“正義のない者たち”の居場所を」


やがて、一人の中立派議員が立ち上がる。


「……その言葉、真実と見なそう。貴女を“和平の使者”として認める」


議会は、正式に「一時的和平交渉の開始」と「ノーブル・サンクチュアリの存在容認」を議決する。


だが、その裏で――


「……和平? 冗談じゃないわ」


聖女レーナが呟いた。


「わたしは、あの女に“裁かれた”のよ……」


その背後には、強烈な聖なる魔力の波動。

彼女の中で、“何か”が目覚めようとしていた。


次話、「聖女レーナの覚醒と崩壊」。

祈りは、もはや祝福ではない。すべてを焼き払う“浄化”へと変貌する――。



---


第二章 第11話


聖女レーナの覚醒と崩壊


「正義は……私だったはずなのに」


王都南部、聖堂深層。

かつて祈りと信仰の象徴であった空間に、誰も近づかなくなって久しい。


聖女レーナは、たった一人、祭壇の前で膝をついていた。

その肩にかけられていたはずの祝福の衣は、今は重く、痛みを伴っていた。


「みんなが疑う。私を。信じてくれない。どうして……?」


祭壇の奥――そこに封印されていた“聖痕”が、わずかに光を放つ。


「もう誰も、私を“聖女”だと言ってくれない。だったら……」


手が伸びる。

そして――封印は、破られた。


光が弾け、空間が捻じれる。

それは、古代より伝わる“真なる聖女の権能”――


神格同調セレスティアル・リンク》。


あらゆる不浄を“浄化”し、“白”に染め上げる。

だが、それは同時に「善悪の境界を自ら定義する」暴走権限でもあった。


「私が正しいの。私が裁くの。リリアーヌも、王太子も、魔王も、世界さえも――全部、浄化すればいい」


その瞬間、王都上空に巨大な“聖なる陣”が現れた。

太陽より眩しい、無垢な破壊。


それは――祝福という名の裁きだった。


──


魔王城。


「始まったな」


イリシオンが呟いた。

空間に波打つ“聖なる呪詛”。それはもはや神聖ではなく、世界の再構成命令に近い。


「これは……王都全体を、“罪なき者だけの世界”に変えようとしている?」


リリアーヌは息を呑んだ。


「ええ。罪の基準は、レーナ自身が決めている。“正義に従ったかどうか”。――つまり、私たちは真っ先に消される」


「止めに行く」


「危険だ。あれはもはや“人間”ではない。“器”として聖域そのものと融合している」


「それでも、あの聖女は、私が知っている“敵”なの。逃げたくない」


リリアーヌは、再びドレスを翻し、魔王軍の戦装を身にまとう。


「王都に行くわ。私自身の手で、彼女の目を覚まさせる」


──


王都。


すでに外縁部は“光”に包まれ、建物も人も、あらゆるものが無に還っていた。

中心に浮かぶ白き少女。

瞳は濁りなく、全身は光輪に包まれている。


リリアーヌは空を裂いて降り立つ。


「レーナ」


聖女は、ゆっくりと彼女を見た。


「来たのね、“嘘の悪役”さん」


「私たちの役割は、誰が決めたの?」


「神よ」


「神が決めた“正しさ”が、こんなにも人を傷つけていいの?」


「黙って。お前はもう“裁かれた者”。二度と戻ってこなければよかったのよ」


「ええ、でも戻ってきたわ。“私の意志”で」


二人の魔力が交差する。


光と闇ではない。

それは、“正義”と“意志”の戦いだった。


聖女レーナの叫びが、空に響く。


「わたしだけが、“聖女”でいられたらよかったのに!!」


次話、第二章 最終話:革命前夜、王都が燃える。

光に焼かれ、魔に揺らぎ、人々が選ぶ“本当の国”とは――。



---


第二章 第12話(最終話)


革命前夜、王都が燃える


「……もう戻れないのね、レーナ」


リリアーヌの声は、静かに王都の空に溶けていった。

眼前には、神域と同調した聖女レーナが浮かんでいた。

あれはもう、かつての少女ではない。

あの優しさも、弱さも、迷いも――全てが“正義”という名の光に焼かれていた。


「わたしは、正しさを守るだけ。貴女がそれを否定するのなら、全てを浄化するまで」


レーナの背後に浮かぶ魔法陣が、王都全域を包み込む。

聖なる炎が降り注ぎ、建物は溶け、人々は逃げ惑い、魔導防壁は瞬く間に崩れた。


《浄化の主命》――

それは、「正義に従わぬすべての存在を無に還す」、神より与えられし最終手段。


「これが“聖女”の本質……?」


リリアーヌは冷たく目を細めた。


「違う。“聖女”とは、“救う者”だったはずでしょう?」


彼女の魔力が暴風のように広がる。

黒と赤の魔力が混ざり合い、王都に新たな陣を描いた。


「私はここで、“光の暴走”を止めます」


だが、止めるために必要な代償は重すぎた。


イリシオンが姿を現す。


「リリアーヌ。それは……お前の命の燃焼を意味する」


「構いません。“理不尽な正義”に、最初に傷ついたのは私。ならば、それに終止符を打つのも、私の義務ですわ」


イリシオンは微かに目を伏せる。


「お前の選択は、我が誇りだ」


魔王と妃。

二人の力が混じり合い、巨大な封魔陣が完成する。


リリアーヌは天へと跳び上がり、レーナの光を正面から抱きしめた。


「……レーナ。あなたは、誰かの正義にならなくてもいいのよ」


「なにを……!」


「もう、“誰かの役”を演じなくていい。あなた自身として、泣いてもいいのよ」


光が、止まる。


聖女の瞳に、わずかに“少女”の色が戻る。


「……いや、わたし……間違って……たの……?」


封魔陣が炸裂し、王都の空を覆っていた光が散る。

巨大な浄化魔法は、リリアーヌの全魔力と引き換えに打ち消された。


──


王都は、半壊していた。

だが、人々は生きていた。


王太子は失脚。聖女は失語のまま、教会地下にて静養。

新たな政体が模索される中、“第三の国”ノーブル・サンクチュアリは正当な自治国家として認められる。


──リリアーヌは、力を失っていた。

魔力の核が燃え尽き、もはや魔術も、契約も使えない。


それでも。


彼女は、崩れた王都の塔の上に立ち、風を受けて笑う。


「これでようやく……“誰のためでもない私”として、生きられる気がしますわ」


イリシオンが、彼女の隣に立った。


「それでも、お前は“妃”だ。魔王にとって、何よりの力だ」


彼の手が、彼女の手を包む。


その時、世界は少しだけ優しくなった。


第二章――完。



---






【あとがき】―第二章完結に寄せて


ここまで第二章「革命の鐘と、燃える王都」をお読みいただき、ありがとうございました。


この章では、ただ“断罪された少女”だったリリアーヌが、

“世界の秩序に楔を打ち込む存在”へと進化する過程を描きました。


王国からの独立と、“第三の国家”ノーブル・サンクチュアリの建国


魔王軍との真なる契約と、“魔王妃”としての自覚


そして――

 かつての敵、“聖女レーナ”との再会と“浄化”の結末



正義とは何か。誰のための裁きだったのか。

この世界の“役割”は、誰が与えたものだったのか。


それを問い直すことで、リリアーヌは“物語の登場人物”から

“物語そのものを創る者”へと変わっていきます。


そして次章では、舞台はさらに拡大します。

――神の名を騙り、世界の構造そのものを支配していた“本当の黒幕”たちが動き出す中、

かつてすべてを失った少女は、“新たな力”と共に、真の選択を迫られることになるでしょう。


読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

感想、ブクマ、評価など、いただけますと大変励みになります!


それでは、また第三章でお会いしましょう。



---



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