第6話 秘匿された蔵
「蔵の場所を?」
黎の言う蔵とは、今昔の妖絵が保管されている秘密の古蔵のことだ。その妖絵はすべて、仁墨と契約を交わした絵師たちの手によって封魔された代物である。
「妖絵が盗みの対象になっているということは、当然その蔵も犯人に狙われる可能性がある。蔵の場所が秘匿されていても、存在自体は界隈で周知されているからね」
封魔絵師たちが創出した妖絵はすべて、各々が所有する蔵で厳重に管理される。それぞれの蔵の在り処は使役する付喪神やその契約者たちしか知らず、他言無用が徹底されていた。
「万が一に備えて、僕も蔵の保護に協力させてほしい。無理なお願いをしていることはわかってる。でも、松乃さんや歴代の契約者の人たちが命がけで封じてきた妖たちを、みすみす渡してしまうことだけは絶対に避けなきゃいけないから」
お願いします、と黎は律儀に頭を下げる。
「黎……」
黎の申し出は大変ありがたいが、いくら信頼している人間とはいえ契約者としての規則を破るわけにはいかない。
「頭を上げて。黎」
黎と視線が合わさると、松実は苦笑しながら答えた。
「ごめん。黎の気持ちはすごくありがたいけど、こればかりは教えるわけにはいかないの。他の人には教えちゃいけない決まりだから」
「……うん、そうだよね。ごめん」
黎の謝罪に松実は首を横に振ってから言う。
「その代わり、私にもっと封魔の術とか教えてくれないかな? 管理者として蔵を守らなきゃいけない以上、私も早くおばあちゃんみたいな辟邪絵師になって、何かあった時に対処できるようになりたいから」
「それなら喜んで」
黎の快諾に、松実は「ありがとう」と頬を緩める。
「じゃあ、早速ご指導よろしくお願いします」
「え、今からやるの?」
「うん」
「はぁ? ふざけんなよ。おれはやらねえぞ」
「あんたは今までぐうたらしてたんだから、これくらいは付き合いなさい」
相棒を強引にひっ捕まえると、「何すんだ離せっ!」と手中で絵筆が暴れだす。握力を加えてやると苦悶の声をあげたが、終いには「けっ、やればいいんだろやれば」と抵抗を諦めて大人しく従った。
「あ、もしかして黎、用事あった?」
「いや、そうじゃないけど。もうすぐ美竹さんにお呼ばれするんじゃない?」
「それまでの間だけでいいから。黎のおかげで、私も管理者としての責任を再認識したし、ちょっとでも早く技を上達させていずれは辟邪を召喚できるようにしたいの。今は五柱だけが関の山だから」
「それだけでも十分上達していると思うけどね」
黎は肩を竦めつつも、美竹が呼びにくるまで松実の修行に付き合うことにした。
「お嬢様」
が、今から術の練習を始めようとした矢先、美竹の呼声がした。
「よし、飯だ飯!」
「あんたは食べないでしょ」
修行がなくなってわかりやすく喜ぶ仁墨に、松実は軸の部分を指先で強く弾く。
「いって! 何すんだっ」
「残念、明日に持ち越しか。黎、行こう」
「うん」
「無視すんな!」
松実が黎とぶつくさ文句を言い続ける仁墨を連れて襖を開けると、なぜかおろおろとしている美竹の姿が飛び込んできた。
「美竹さん? どうしたの?」
「お嬢様、実は――」
先ほど旦那様からお電話があって、明日は話があるからそちらに向かう、と……。