第20話 待ちわびた再会
「はい」
松実が返事をすると、ドアが開いて妖伐局員三人が入室した。
最初に入室したのは雪魄氷姿の美青年。さらに赤髪赤瞳の麗人と、軍服の上から白衣を羽織った小柄な少女も彼の後に続いた。
一際異彩を放つ縁の美しさ、そしてどこか見覚えのある顔立ちに松実は息を呑む。縁もまた松実が目を覚まし、こちらを見据えていたことに目を瞠った。
「松実、目が覚めたのか」
「え?」
どうして、自身のことを下の名前で呼ぶのか。
松実が目を丸くする最中、縁はハッとして少し気恥ずかしげに視線を逸らした。そんな部下の様相に思わず笑みを零して、光はベッドに歩み寄る。
「彼女の見立てではまだ熱があって二、三日は静養が必要とのことですので、ゆっくり休んでください」
光は隣にいた白衣の女性を見やりながら言う。
上背がある光に対し、亜麻色の髪をもつおかっぱ頭の少女は小柄で低身長だ。百五十センチあるかないかの彼女は、まだ十代前半くらいだろう。
――私よりも年下の子も、妖伐局にいるなんて。
松実が感嘆するなか、「自己紹介がまだでしたね」と光が松実に視線を戻した。
「私は妖伐局局長、鷹丹光と申します。以後お見知りおきを」
「医局長の荻野胡桃だ。君の治療を担当した。よろしく」
光に続き、少女も勝気な笑みをたたえて幼い声色で名乗った。
――か、かわいい……!
天使のような愛らしい面立ちと声色が一瞬で松実を虜にしてしまう。
「ほほう、その顔だと他の奴らと同じようにあたしが十歳かそれより少し上くらいだと思っているな?」
「え、違うんですか?」
「聞いて驚け。あたしはいま二十四歳だ。そこのイケメンの一コ先輩」
縁を堂々と呼び指す胡桃に対し、後輩である縁は眉根を寄せながら「人を指ささないでください」と呆れ顔で言う。
松実は胡桃と縁を交互に見やった後、数秒おいて素っ頓狂な声をあげた。
「二十四⁉」
「あはは! 良い反応だ。合格!」
「医局長、松実をからかわないでください」
まさか、縁よりも年上でかつ医局長だったとは。
――見た目だけじゃこの場にいる誰よりも幼いのに……。
童顔にしても限度というものがあるだろう、と松実は唖然とする。
「目覚めて早々、困惑させてしまって申し訳ない。改めて藤浪縁だ。妖伐局一番隊隊長を務めている」
最後に縁が胸に手を添えて、淑やかに一礼した。
その典雅な立ち居振る舞いは公爵家の頂点に君臨する名家に相応しく。整い過ぎている相貌も相まって、女性であれば誰もが魅了されるだろう。品位ある洗練された仕草に松実も思わず見とれてしまった。
――妖伐局、一番隊隊長……。
ということはやはり、彼は自身と同じ人ならざるものが見える立場にある。松乃のこともあって妖伐局のことは小さい時から知っており、なおかつ馴染み深い単語ではあったが、一般人にとってはそうでもない。そもそも妖という存在そのものが世間に浸透しておらず、見えぬがゆえに幻想だと思い込んでいる一般人がほとんどだ。それに伴って妖伐局の認知度も著しく低い。ましてや、皇家の次に位が高いとされる藤浪家の者がその一員であると誰も思わないだろう。
だがしかし、これほどの傑人がなぜ自身を花嫁に望むのか。平凡な女学生では分不相応だと思いつつも、松実も慌てて首を垂れる。
「上村松実です。この度は助けていただき、ありがとうございました」
「いや、もう少し早く来ていたら君をこのような目に遭わさずに済んだ。こちらの対応が遅れ、結果、君自身の心身を深く傷つけてしまったこと深くお詫びする。……それに、縁談のことも」
無理やり押し通そうとして、申し訳なかった。
縁は再度、松実に向かって頭を下げる。
まさか、公爵子息にして妖伐局の幹部を務めるほどの高貴な人物が自分に謝罪するとは思ってもみず、松実は狼狽した。
「頭を上げてください。縁様のせいではありませんから」
「だが……」
目線が合わさってなお、〈六花の貴公子〉は双眸をわずかに伏せて悔恨の念を端整な面立ちに滲ませている。
こうして改めて彼を見ると、やはり彼と会うのが初めてではないように思えた。
「あの、縁様」
呼ばれて、縁は目線を持ち上げる。
「失礼を承知で申し上げますが、前に一度、どこかでお会いしましたか?」




