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圧倒的

「は~!面白い試合だったのよ~。」


フロリーナは満足げに笑みを浮かべた。その様子を見て、ヴァイオレットが問いかける。


「それでも、彼女を弟子に迎える気はないのか?」


「ないのよ~。あんなに優秀な子、私には勿体ないのよ~。それに…もう、代わりは決まってるのよ~。」


そう言って、フロリーナは軽く肩をすくめる。彼女はすでにスイへ連絡を入れ、自身の代役を立てる提案をしていた。そして、その提案は受け入れられている。


「きっと、ミラー将軍も気に入ると思うのよ~。」


ランダ軍将軍ミラー。スイの育ての親でありながら、彼女に忌み嫌われている人物だ。


ではなぜ、嫌いな彼女をスイはミアの師匠候補として認めたのか。


理由は単純だった。彼女ならば断るだろうと、そう踏んでいたからだ。そして何より、ミアの師として、余りにも適任だったから。


ミラーは偶然や棚ぼたで将軍の座に就いたわけではない。確かな実力と、狡猾とも言える知略。その両方をもって地位を掴み取った人物である。


そんな彼女には、得意魔法がない。正確に言えば、すべての魔法を高水準で使いこなす。


不得手が存在せず、均等に恐ろしいほど完成された魔法使い。多彩な魔法を学ぶミアにとって、これ以上ない相性だった。その性格にさえ、目を瞑れば。


「全く。フロリーナも面倒ごとを押し付けてくれる…。」


そんな悪態を吐きながらも、彼女は会場に足を運びミアの雄姿を見届けていた。


「彼女はどうですか?ミラー将軍。」


隣に立つモウアにそう問いかけられると、彼女はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。


「実力は十分。でも、いかにも優等生って感じの雰囲気が鼻につくのよね~。」


真面目な表情で子供じみた言葉を並べるミラーに、モウアは呆れ顔で続ける。


「では、スイさんに断りの連絡を?」


「いや…。受け入れるわ。だって、その方がスイが嫌がりそうだもの。」


「そうですか。」


性格の悪いミラーの言葉に、モウアは呆れた表情で返答すると、二枚の封筒の内、一枚を魔法で燃やし尽くす。


「では、スイさんにこちらの手紙を渡してきますね。」


「ええ。よろしく頼むわ。私はもう少しだけ見ていくから。」


「かしこまりました。」


ヒラヒラと軽く手を振ってモウアを見送ると、ミラーはすぐに会場へと目を移した。その視線の先に立つのは黒髪の少女。


「気になるのよね…。あの子とあの子。」


ミラーはそう呟きながら、その少女と少女を見つめる観客席の青髪の少年を交互に見やった。勿論それは、ララとシズクだ。実力者の彼女はどうやら二人に感じる者があるらしい。


――ランダ魔法学校にとんでもない子が二人いると噂には聞いているけれど…もしかして…。


彼女は師匠候補としてではなく、この領地の治安を維持する長として二人を見定めようとしていた。これから担う若者がどれだけの実力を身に着けているのか。


そんな視線を受けながら、ララは早撃ち戦の会場でウォルフと並んで立っていた。すると、トコトコと小さな足音と共にサンドラが近寄って来た。


「やはり、お二人も早撃ち戦ですか。」


「そういうサンドラもね。弟子だからって手加減しないから。」


「勿論です!私も本気で行かせていただきます。」


この早撃ち戦に参加する生徒の内、雷を操る魔法が使えるのはウォルフのみ、そして光を操る魔法を使えるのはサンドラのみとなっている。当然、二人とも一位候補だ。


しかし、観客席の誰も彼らに注目していない。その注目は偏にララへと集まっていた。それもそのはず、昨年の圧倒的なパフォーマンスは記憶に新しい。この一年でどれだけの成長を果たしているのか、皆が気になっているはずである。


参加者たちが皆、定位置につき準備を始める。そして全員の内包する魔素が十分に高まったと同時に、開始の合図が鳴り響く。それと同時に一つの的が粉々に砕け散り、二つの的が撃ち抜かれた。


常人から見ればほぼ同時、しかし掲示板にはコンマ七秒の差でララが一位を飾っていた。二位はウォルフ、そして更にコンマ三秒の差でサンドラが三位となった。余りにもハイレベルな試合内容に観客席の生徒たちは息を呑んだが、シズクやマロンを含め、ある程度の実力を身に着けている者には、それが僅差ではないと理解していた。


「なんて威力…。」


マロンの呟きにシズクは同意するように深々と頷いた。


「うん。とんでもない威力だ。ウォルフやサンドラも確かに尋常ではない速さの魔法を披露した。しかし、彼らの魔法はその分、威力が弱くなってしまっている。一方でララの魔法は、速さもさることながら十分な威力も持っている。速さと威力の両立…全く、知らない間にとんでもない物を仕込んできたな…。」


そう語ってシズクは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「あんなの見せられたら、僕も張り切るしかないな。」


そして、早撃ち戦に続く威力戦に向かおうと、シズクはおもむろに立ち上がった。


「行ってらっしゃい。」


「うん。行ってくるよ。」


観客席に残るマロンとシードに見送られて、シズクは楽し気に歩いていく。そんな彼の背中が見えなくなった頃、シードはマロンに問いかけた。


「ほんとに威力戦に出なくて良かったの?」


「ん?まぁ、自分的には威力戦に出たかったけど...でも、トリスちゃんが連携戦に出ないと弟子にしないっていうから...。」


マロンの手紙にはトリスフェルミアと書かれていた。他の面々が外部の師匠を紹介される中で、自分だけ何故、担任の名前が書かれているのだろうと最初こそ疑問に思った。しかし、よくよく考えると最高の状況なのではないかとマロンは考える。


なにせ、夏休みの間、あのスイに次ぐ実力者の指導を独り占めできるのだから、これ程幸運なことはない。


「何で連携戦に出ろって言ったのかはよくわからないけど、やるからには絶対に勝つ。」


「うん。そうだね。」


そんな会話をしていると、いつの間にかバニラやララ達が戻ってきており、会場ではシズクが準備を始めていた。その頃には既に会場は落ち着いており、次の威力戦を心待ちにしている様子である。そんな中で、まばらに先ほどの早撃ち戦を語る声があった。


「あの子がララか。実に素晴らしい魔法の腕だ。」


「そうですね。既に我が軍の一般兵となら張り合えそうな実力です。」


「そうだろうな。まぁ、あれと比較されるのは、うちの兵たちが若干可哀想ではあるがな…。まぁそんなことはどうでもいい。クラリッサ、スイに彼女を弟子に迎え入れると伝えておけ。また、あれ程の逸材を紹介してくれた感謝を必ず伝えるように。」


そう口にするのは、他でもないララのこれからの師匠、帝国軍第四軍将軍ノエルだった。


「しかし、彼女のあの実力で次席とはな。」


「はい。あの子よりも高い実力を持つ生徒がいるとは想像がつきません。」


そう語る二人の目線の先には図らずもシズクの姿があった。副将軍のクラリッサは確かな実力を持っているが、この段階では彼の異質さを理解してはいなかった。一方でノエルや会場に訪れていた超一流の魔法使いたちは、一目で彼の本質を見抜いていた。


「彼だ。」


ノエルがそう呟くと同時、シズクは魔法陣を展開した。その燦然とした輝きは会場の誰もを驚愕させた。去年の彼は連携戦と決闘戦の二つに出場した。この試合形式では彼は落ち着いて魔法を放つことはなく、速度と威力を両立して魔法陣を展開していた。


しかし今の彼は威力を重視して、丁寧に、そして落ち着いて魔法陣を展開している。だからこそ、彼を見ている全ての生徒が理解しているだろう。彼は自分達とは別次元のレベルで魔法を使っているのだと。


そしてノエルを始めとした超一流の魔法使いたちも理解したことだろう。彼は既に魔法使いとして中堅程度の力をつけていると。


そんな期待の眼差しを一身に受けながら、シズクはため込んだ魔素を水弾に変換して、勢いよく解き放った。それは凄まじい速度で回転しながら空気を切り裂いて、一瞬で的ごと周囲を粉砕した。その風圧は観客席にまで及び、空気を切り裂く音も同時に会場を包んだ。


掲示板に表示された数値は百九十八。昨年の一位であるアルベリオの記録を遥かに上回る数字に、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


しかし、当の本人は納得のいっていない様子で、「タイミングがずれたな」と悔しげな表情を浮かべている。その姿にノエルはニヤリと笑みを浮かべた。


「凄いですね。既にあれだけの実力を持っていながら、余念がない。素晴らしい精神性です。」


感心するクラリッサに嬉し気な表情のままノエルは答える。


「ああ。ララといいシズクといい、どちらも手を抜く気が全くない。あれは未来の師匠が見ているからという訳ではなく、素の性格。実に魔法使い向きの性格だ。全く、帝国の未来は明るいな。」


二人の素晴らしいパフォーマンスを目の当たりにし、会場はこれまでにない熱狂に包まれていた。その熱気が収まらぬまま、次の競技、連携戦の準備が始まる。


「あっ!来た来た。次が私の弟子候補の試合だよ☆」


連携戦が始まろうという所で、トリスのテンションが目に見えて高くなる。その様子にアイラは少し微笑して「どの子?」と問いかけた。


「あの栗色の髪の子だよ☆マロンっていうんだ。」


「マロン…。」


準備をするマロンの姿をアイラは見定めるように眺める。


――なんかめっちゃ見られてる。


その視線にマロンも気づいていた。いや、アイラの視線だけじゃない。凄まじい存在感を放つ魔法使いたち、そんな人達の実力を値踏みするかのような、そんな視線に気づいていた。


「マロン、緊張してるの?」


「当然よ。これだけ凄い人たちから見られてるんだから。」


緊張していながらも笑みを浮かべて見せるマロン。この状況を必ず物にしてやるという心意気が見て取れる。その姿に鼓舞されたのかシードも笑みを浮かべる。


「そうだね。僕も頑張らないと。」


シードはスイに師匠を紹介されていない。彼は彼女の教え子ではないから。しかし、この学校唯一の魔道具使いである彼を気にかけていない訳ではなく、さりげなくローゼ経由でシードはとある事実を聞いていた。


――この会場に世界一の魔道具使いが訪れていると。


彼は帝国軍第四軍の所属で、ノエルの直属の部下の一人。今日も彼とその副官と行動を共にしている。しかし、本当にただ彼はノエルに同行しただけで、スイからシードの話を聞いているとかそういこともない。だからシードは示さなければならない。


確かな実力とその才能を。彼が自ら、師匠になりたいと思う程の物を。


「えっ!?あの少年、魔筒持ってますよ!将軍!」


「ん?ほんとだな。」


「本当ですね。」


その彼が今、シードを見つけた。後はその力を証明するだけだ。

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