ライバル
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
このたび、物語の進行とテーマの明確化に伴い、次話更新日である1/28(水)をもちまして、作品タイトルを変更することにしました。
新タイトル:『最初の魔法使いだった僕が幸せになるまで。』(旧題:魔法使い戦線)
当初は「戦争」や「魔法社会」を主軸とした構想でしたが、物語を重ねていく中で、この作品の本質は「戦い」ではなく、
人の選択
人との関係
失うものと残るもの
それでも“幸せ”を選び取る過程
を描く物語であると、明確になってきました。私自身としまして、物語の内容とタイトルにギャップを感じていたところであり、誠に勝手ながらタイトルを変更する運びとなりました。
新しいタイトルは、私の考える物語の核心と、主人公の物語の本質をより正確に表現するためのものです。なお、次章完結までは旧題を併記します。
例:最初の魔法使いだった僕が幸せになるまで。〈旧題:魔法使い戦線〉
これからも物語の内容そのものは変わりません。引き続き、物語を見届けていただけたら幸いです。
シズクが一年生に魔法を教えるようになって、数日が経った。その噂は瞬く間に広まり、ついには特待クラスにまで届いていた。
「ねぇ、レオは行かないの?シズク先輩が魔法を見てくれるって話だよ。」
自習用のノートを広げて黙々と筆を走らせていたレオニスに、サンドラが何気なく声をかける。
「俺は行かない。俺は俺の力だけであの人を超えるつもりだ。誰かの手を借りるつもりはない。」
「へぇ~、そう。じゃあ私は遠慮なく教わっちゃおうかな。そしたら、あんたとの差がぐんぐん広がっちゃうかもね?」
挑発めいた笑みに、レオニスはピクリと眉を動かす。
「なんだと?お前があの人に教わって力を伸ばすのは確かに看過できない。屈辱だが…俺も行くとしよう。」
「ふふん。素直じゃないな~、全く。」
サンドラはにやにやと笑い、レオニスは苛立ちを隠しきれないまま立ち上がる。そして二人は連れ立って、シズクが待つ訓練場へと足を運んだ。
「わぁ…すごい人数。やっぱりシズク先輩って人気あるのね。」
感嘆の声をあげるサンドラに、レオニスは視線を逸らしながら低く言う。
「当然だ。今の基礎課程で、あの人を超えられる者などいない。」
不満をにじませるレオニスの言葉には、同時にシズクへの深い敬意も滲んでいた。そんな二人の姿を、シズクは横目で捉え、ふっと口元を緩める。
「意外だな。レオニス、お前も来たか。」
「屈辱ですがね。でも、こいつだけが貴方の教えで強くなるのは我慢できませんから。」
その率直な言葉に、シズクはニヤリと笑う。
「やる気があるのはいいことだ。だが、レオニス、サンドラ。お前たちはここじゃない。別の場所に行ってもらう。」
「え?別の場所?」
サンドラが小首をかしげ、レオニスは目を細めて様子をうかがう。
「ララ。」
「なに?」
呼び声に応じて、ララが人混みの合間からひょいと姿を現す。
「この二人を、特別訓練場に連れて行ってくれ。」
「合格ってこと?」
「ああ。サンドラは別として…レオニスについては、ここに来るかどうかで決めるつもりだった。」
そう告げるシズクの声はどこか誇らしげで、ララは嬉しそうに微笑んで頷いた。
「なるほどね。わかった。じゃあ二人とも、ついてきて。」
「喜んで!」
サンドラは軽快に返事をし、レオニスは無言のまま歩み出した。その横顔には、わずかな戸惑いが滲んでいる。
「どこに向かってるんですか?」
サンドラが素直に問いかけると、ララは落ち着いた声で答える。
「特別訓練場だよ。魔法の才能を認められた、ごく一部の人だけが招かれる場所。」
「へぇ~、そんな場所があるんですね。」
サンドラは感心したように頷き、さらに問いを重ねた。
「普通の訓練場と、どう違うんですか?」
「的までの距離も長いし、その強度も桁違い。魔素暴走を抑える装置だって、普通の訓練場の倍は埋め込まれてる。」
「すごいですね!」
サンドラが純粋に喜ぶ一方で、レオニスは細めた目で冷静に言葉を挟む。
「それだけですか?てっきり、誰かすごい指導者に会えるのかと思いましたよ。これなら、シズク先輩に教わる方がまだ…いや、まさかララ先輩が指導してくれるんですか?それなら確かに魅力的ですが。」
挑発めいた言葉にも、ララは余裕の笑みを崩さなかった。
「ふふ。私でもシズクでもない。ここではね、もっとすごい人が教えてくれるの。」
「もっとすごい…?」
レオニスの視線が鋭さを増す。
「ライト先生か、メリンダ先生。それとも…まさかエリオドール先生ですか?前線は退かれましたが、今でも一流の魔法使いです。」
「ううん。違う。」
ララはあっさりと否定する。
「なら…学長のフォックス先生か、あるいはトリス先生?あとは...いや、さすがに――」
自分で言いかけて、レオニスは苦笑混じりに首を振った。そんな彼を横目に、ララは足を止めて振り返り、にやりと笑う。
「ほら、まだ一人忘れてない?」
その一言で、レオニスの瞳が大きく見開かれる。
「まさか…本当に、あの人が?史上最強の魔法使い――」
「そう。ここでは、スイ先生が直接指導してくれるんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、レオニスの表情から普段の不愛想さは消え去り、驚きと期待に満ちた笑みが浮かんだ。
特別訓練場の重厚な扉を開けると、手入れの行き届いた広大な場が視界に広がる。整然と並ぶ標的の奥では魔法の火花が散っていた。
「わぁ…!」
壮観な光景に、サンドラが思わず声を漏らす。
その声に反応するように、訓練中の実戦課程の生徒たちを見守っていたスイが振り向いた。
「やっと来たんだね。」
「は、初めまして…!」
レオニスは緊張を隠せず、硬い声で挨拶する。
「初めまして!」
対照的に、サンドラは元気いっぱいに頭を下げた。
「初めまして。レオニス、サンドラ。」
「え…!?」
「どうして私たちの名前を?」
思わず声を揃える二人に、スイは穏やかな笑みを浮かべる。そして、かつてシズク達にも語った入学試験の仕組みについて説明した。
「なるほど…だから、私たちのこともご存じだったんですね。」
レオニスが納得したように呟く。
「そういうこと。」
スイは軽く頷き、二人をまっすぐに見据えた。
「じゃあ、さっそく君たちの魔法を見せてもらおうか。一般魔法でいい。そうだな、レオニスは風を出す魔法を。サンドラは光を出す魔法を使ってほしい。」
「光を出す魔法!?」
ララとレオニスが同時に声を上げた。そんな二人にサンドラはきょとんとした顔で首を傾げる。
「あれ?言ってませんでしたっけ。私、光を出す魔法が使えるんですよ!」
――光属性の魔素を取り込める者は、大きく二種類に分けられる。
治癒魔法しか扱えない者と、治癒に加えて光を出す魔法も扱える者。
サンドラは後者、ごく稀にしか現れない才能の持ち主だった。
早速、定位置に立った彼女は、迷いなく魔法陣を展開する。まだ粗さは残るが、十分に洗練された動きにララは思わず息を呑んだ。放たれた魔法は一瞬の閃光となって走り、的の端に小さな痕跡を刻む。
威力こそ乏しい。だが、その速度はララの目を見張るほどだった。
「うん。一年生にしては上出来だね。練習を怠ってないのが伝わるよ。」
「えへへっ。」
スイの言葉に、サンドラは頬を染めて嬉しそうに笑った。
「じゃあ次は、レオニス。君の番だ。」
「はい!わかりました!」
いつもの尊大な態度は影もなく、スイに対しては驚くほど素直だ。彼もまた定位置に立ち、魔法陣を展開する。洗練された構築から放たれたのは、風の奔流、だが、的に届く前に霧散してしまった。
「なるほど。レオニスは少し背伸びをしすぎだね。一般魔法はすべての基礎。まずは土台を固めるところから始めよう。」
「わかりました。頑張ります。」
プライドを傷つけるはずの言葉を、レオニスは驚くほど素直に受け入れた。
――誰、この人…?
その姿に、サンドラは心の中で思わず首を傾げる。
「ララ。サンドラは君に任せるよ。同じ資質を持っているから、君が積み上げてきたものをそのまま伝えればいい。」
「えっ!?ララ先輩が教えてくださるんですか!」
サンドラの顔がぱっと輝く。ララは微笑み、軽く頷いた。
「うん。少し場所を移動しよっか。私の魔法を見せてあげる。」
「やったぁ!」
サンドラはスキップしながらララの後ろに続く。その姿はまるで親ガモの後を追う子ガモのようだった。
「レオニスは、私が見よう。まずは――」
こうして、二人の特別な訓練が始まった。
――それから数か月後。ついに迎えた最初の定期試験。
「これがララ先輩の指導の賜物だ~!」
サンドラが叫びながら放った魔法は、そのふざけた調子とは裏腹に、圧倒的な成長を証明していた。結果、彼女は僅差でレオニスを抑えて主席の座に輝く。
総合評価でその差、わずか一点。レオニスがどれほど悔しがったかは、語るまでもない。
学年対抗戦まで、定期試験はあと二度。そこで主席を取らなければ、シズクと魔法を交えることすら叶わない。
レオニスの胸に燃えていた小さな炎は、その瞬間、確かな業火へと姿を変えた。




