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魔道具作り

シズクは自分のお小遣いを持って、ダンと一緒に魔道具の材料を集めに町へ出かけた。


既に材料は決めているので、なるべく安く買える店を書いたメモを頼りに、町を探索する。


「ここだ!」


そこは町にある魔道具部品販売店の一つだ。


「よく調べてあるな。」


メモを覗き込んでダンは感心する。部品一つ一つの値段を店ごとにまとめてあり、最安値の店に目印をつけている。それを見るに、どうやらここでは歯車を買うようだ。


歯車は魔道具において血管の様なもので、歯車の回転を通じて魔素が魔道具全体に行き渡るようになっている。


「次に行こう。」


次に行った先は、ダンが務める鍛冶屋の仕入先だった。そこで最も有名なのは、魔素を吸収する装置であり、恐らくはシズクもそれを買いに来たのだろう。


「ダンじゃないか!なんか足りないものでもあったか?」


「違う違う!今日は仕事じゃなくて、可愛い息子の付き添いだ。」


店員のカントは、ダンと手を繋いで来店したシズクに目を向ける。その姿を見てか、パーと明るい笑顔を浮かべると、シズクに目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「そうかお前がダンの息子か。いつもダンから話は聞いてるぜ。すげぇ賢い子だってな。欲しいものがあるんだったら、何でも言ってくれ。ダンの息子だったらまけてやるぜ。」


「ほんとですか!小型の魔素吸収装置が欲しいんですが。」


「魔素吸収装置?なーんだ。それだったらタダでやるよ。何個必要なんだ?」


「一個です!」


それを聞いてから奥に入っていったカントは、奥から10個入りの魔素吸収装置を持ってきた。


「ほら、やるよ。」


「え?こんなには…」


「良いんだよ。それが欲しいってことは、魔道具作りに興味を持ってくれたんだろ?だったら、それを手伝ってやるのが、大人の矜持ってもんだ。それにここは俺の店だしな、店の商品をどうしようが俺の勝手だ。なっ?」


「それじゃあ貰っておきます。ありがとうございます!」


「おう!魔道具作り頑張れよ。」


カントの応援を受けてより一層やる気になったシズクは、足早に最後の店へと向かった。そこでは魔道具の外装となる材料を買うつもりだ。しかし、実際に入って材料を手に取ってみると、思っていた質感と少し違った。


普通の魔道具と違って、小型の警報ベルは肌身離さず持つもの。その為、肌触りや材質まで考えないといけない。色々な材料を触っている中で、一つだけピンとくるものがあった。しかし、その値段は想定を上回っており、今の手持ちでは予算オーバーとなってしまう。どうした物かと悩んでいると、突然、ダンがその材料を手に取って、会計に向かった。


「お父さん。それだと予算が…」


「安心しろ。これは俺が買ってやる。」


「えっ。良いの!?」


元々ダンは、買い物に関しては手を出さないつもりでいた。シズクが一生懸命考えた買い物リストを無駄にしたくなかったからだ。しかし、その予定が狂ったなら別だ。それに子供が困っていたら買ってあげたくなるのが、父親という物だ。


「ああ。カントも言ってただろ?子供の夢を助けてやるのが大人の矜持ってな。」


カントの言葉なんかちっとも覚えていなかったが、シズクの手前格好つけたくて、何となくその言葉を口にした。


「ちょっと違う気もするけど…ありがとう!」


そんなダンの心の内は知る由もなく、シズクは嬉しそうにダンに抱き着いた。


「おうよ。」


――うちの子可愛すぎー!


表面上では格好つけつつも、内心で息子への愛が爆発するダンであった。


「よし!材料もそろったことだし、早速作ろう。」


帰宅した2人は、早速材料を持って自宅の工房に向かった。ここはアメの仕事場で、普段はここで依頼された魔道具の修理を行っている。夫婦揃って魔道具職人という訳だ。


「ここには修理用の道具しかないが、これくらいの魔道具だったら問題なく作れるはずだ。」


そう言ってダンは、主にシズクに手を動かさせながら、魔道具作りに取り掛かった。


ダンの教えが上手いのか、シズクの手先が器用なのか。あるいはどちらもなのか、魔道具作りは驚くほど順調に進んだ。苦戦したのは外装くらいなもので、結局、次の日の昼過ぎに魔道具は完成した。


「できた!」


仕事に行ったダンの代わりに、教えてくれていたアメとハイタッチし、シズクは魔道具の完成を喜んだ。


「シズク。正確にはまだ完成じゃないわよ。魔法を付与しないと。」


「あっ。そうだった…」


そうだ。魔道具の仕掛け作りに没頭して忘れていたが、魔道具は魔法を付与してこそ完成だ。


「私は付与できないから、お父さんを待たないといけないわね。」


「じゃあこれが完成するのは夜か。よし、楽しみに待ってよう!」


「ふふ。良い子ね。」


魔道具を大切に保管して工房を去ろうとしたその時だった。


「シズク!魔道具完成したか?」


絶賛仕事中のはずのダンがなんと帰って来たのだ。


「あなた!お仕事はどうしたの!?」


「半休を貰ってきた。任された仕事は午前中に全部終わらせてきたから、文句は言われないはずだ。それに、今日は仕事よりも家族優先だ。」


急いで帰って来たのか汗だくのダンは、深呼吸をすると魔法を付与するぞ。と笑みを浮かべた。


「やったー!」


喜ぶシズクとは裏腹にアメの表情は暗い。


「あなた…」


「ん?どうした?」


「まずは汗を乾かしなさい。シズクが作った魔道具が壊れたらどうするのよ!」


魔法の付与は非常に繊細な作業で、完璧な環境下での作業が求められる。そんな作業を汗だくの状態でやろうとしたダンが、アメに叱られるのは当然のことである。


「ごめんなさい。その通りです。今すぐ服を着替えてきます。」


怒るアメに気圧されて、たじたじのダンは足早に着替えを取りに自室へと向かった。その様子を見て、母は強しとはこのことかとシズクは心の中で呟く。


「もう!ほんとにせっかちなんだから。」


口ではそういいつつもアメの表情はにこやかだ。当然だろう。息子の為に急いで仕事を済ませて、半休を勝ち取ってきたのだから。


数分後、作業服を着て戻ってきたダンは、工房の入り口で自分に埃を払う魔法をかけると、俺が声をかけるまで工房の外で待ってて。と告げて、作業に取り掛かった。


先程も述べたが、魔法の付与は非常に繊細な作業のため、作業中の工房内には作業者以外、基本的に入ってはならない。


「この間にお昼ご飯を食べましょうか。」


魔道具作りに没頭して食べ忘れていた昼食を食べながら待つこと1時間。やっとダンは工房から出てきた。その手には小型の警報ベルが握られている。


「完成したぞ。シズク。」


手渡しされた小型の警報ベルからは、微かにだが魔法の力が感じられる。これを自分で作ったのかと思うと、嬉しくて思わず涙が溢れてしまう。


「作ったんだ。僕の手で…魔道具を…!」


あえて、アメもダンも声をかけなかった。今はその喜びを嚙み締めて欲しかったから。

魔素吸収装置は現実でいう所、電池の様なものです。違う点があるとすれば、空気中に魔素がある限りは半永久的に充電してくれるところです。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


次回は4月26日(土)0時0分に投稿いたします。

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