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連携戦

威力戦のルールは単純明快。威力を数値化する的を各々が任意の魔法で撃ち抜き、その数値を以て優劣を決めるという種目だ。


そんな簡単なルールだからこそ、残酷だった。


数値は一目で優劣がわかる。ごまかしは一切利かず、歴代の一年生は例外なく最下位争いに沈み、晒し上げのように笑われてきた。中には同情する教員や生徒が中止を提案したこともあったが、伝統を覆すには至らず、今もなお続けられている。


観客席の多くも「どうせ一年生は最下位だ」と思っていた。だからこそ「出場しただけで偉い」と励ましの声をかける。そこに悪意はない。だが、マロンにはその優しさが何よりも屈辱だった。


――今に見てなさい。


胸に闘志を燃やし、マロンは定位置に立つ。


真反対、一番右のレーンにはアルベリオがいる。学年主席、誰もが認める優勝候補だ。マロン自身も彼に勝てるとは思っていない。けれど、少なくとも背中に食らいついてやる。そう心に誓っていた。


開始の合図がマロンの耳をつんざく。それと同時、全員が一斉に魔素を取り込み、魔法陣を描き出す。


魔法の威力は溜め込んだ魔素の量、そして魔法陣の完成度によって決まる。当然、経験豊富な上級生が有利だ。だからこそ、差をつけられるのは魔法陣の質だった。


マロンは幾度もトリスやシズクに相談し、より優れた魔法陣を模索し続けた。その果てに辿り着いたのが、今の自身に最も適した新しい魔法陣。練度は通常のものより劣る。けれど、威力を引き出すためだけに特化した勝負の魔法陣だ。


「…行くわよ。」


自信を持って展開したその魔法陣は、観客席に驚きのざわめきを走らせた。一年生がオリジナルの魔法陣を編み出すなど、見たことがなかったからだ。


次々と放たれる上級生たちの魔法が的を砕いていく中、マロンはじっと集中を続ける。他の生徒の魔法の音も、アルベリオが叩き出した百三十二という圧倒的数値に揺れる歓声も、今の彼女には届いていない。


――カチリ。


全神経を研ぎ澄ませた彼女の内で、何かが嚙み合う音がした。


「今だ!」


直感に従い、迷わず魔法を放つ。地面が轟音を立てて盛り上がり、鋭利な土の針が的を突き上げ、その支柱ごと粉砕する。さらに背後の壁まで震わせるほどの衝撃が会場を駆け抜けた。


「な、なんだ今のは!?」


「すごい威力だ!」


観客のざわめきと同時に、数値が弾き出される。


八十一。


アルベリオの百三十二には遠く及ばない。だが、その数値の下に並んだ順位を見た瞬間、マロンの目が大きく見開かれた。


――第二位マロン。


三位は三年生の八十。一年生が、二年三年を押しのけて堂々の二位に食い込んでいる。


「す、凄い…!一年生が二位だ!」


観客の驚愕と歓声に、マロンの胸は熱くなる。悔しさも、屈辱も、全てを力に変えてきた努力が今、報われたのだ。


「…やった。」


堪えきれず、ぱぁっと笑顔が弾けた。普段は気丈に振る舞う彼女に似つかわしくないほど無邪気な笑み。それを見た仲間たちは誰よりも嬉しそうに拍手を送っていた。


「はは。今年の一年生は本当に凄いね。」


そう言って、圧倒的な一位を飾ったアルベリオさえ惜しみない拍手を贈る。その堂々とした姿勢に、会場からも温かい喝采が湧き上がった。


始まる前の重苦しい足取りとは対照的に、帰りのマロンの足取りは羽のように軽やかだった。そして観客席の五人の前に仁王立ちすると、彼女は胸を張って一言。


「さぁみんな。私を褒めなさい!」


それは、せっかくの活躍を台無しにする台詞だった。しかし、ララとバニラは一瞬も迷いもなく、無言でスッと立ち上がると、そのままマロンを抱きしめ、頭を優しく撫でながら囁く。


「…凄いよ。」


「ほんと、よく頑張ったね。」


畳みかけるような優しい声に、マロンは一瞬で耳まで真っ赤になる。


「ちょ、ちょっと!褒め過ぎよ!」


慌てて振り払おうとするが、二人はますます意地悪そうな笑みを浮かべ、わざとらしく撫でる手を増やす。


「はいはい、よしよし。」


「マロンは偉い子だねぇ。」


「や、やめなさいってば!」


完全に確信犯の二人と、顔を真っ赤にして暴れるマロン。その光景に、シズクとウォルフは思わず吹き出した。観客席に再び和やかな空気が広がる。


しかし――


「次は連携戦だ。出場する生徒は集合場所に集まれ。」


場内にアナウンスが響く。その瞬間、先ほどまで楽しげに笑っていたシードの顔から血の気が引き、緊張の色が濃く浮かんだ。


「行くぞ、シード。」


迷いのない足取りで立ち上がるシズクに対し、シードの動きはどこか重い。椅子から腰を上げるのも一瞬躊躇ってしまうほどだった。


「…緊張してるのか。」


隣を歩きながら、シズクが淡々と問いかける。


「当然だよ。僕にとっては初めての本番なんだ。失敗したらどうしようって――」


「安心しろ。」


シズクはその言葉を遮るように、落ち着いた声で告げた。


「練習してきたことを思い出せ。いつも以上のことをしようとするな。いつも通りにやれば、絶対に勝てる。」


その揺るぎない口調に、シードの強張っていた肩がふっと緩む。自然と笑みまで零れていた。


「…はは。そうだったね。」


彼の緊張が解けたのには理由がある。これまでシズクは何度もシードに試練を与えてきた。その直前、必ず口にするのがこの言葉だった。


――いつも以上のことをしようとするな。いつも通りやればできる。


その言葉に嘘はなかった。どの試練も、練習通りやれば確かに乗り越えられた。だからこそ、今もまた、彼の心に自然と「大丈夫だ」という確信が芽生える。


不思議と、足取りはもう重くなかった。


「連携戦の説明を行う。」


審判役の教員が魔法で声を拡張させると、広い会場に重々しい声が響き渡った。


「会場は陣地戦で使用したフィールドをそのまま用いる。戦い方は三つ巴、三学年が同時に入り乱れる混戦だ。ルールは一切なし。魔法を駆使して相手を気絶させ、最後に立っていた生徒の学年を勝者とする。言い換えれば、たとえ片方が倒れても、残った一人が全員を打ち倒せばその学年の勝利だ。質問はあるか?」


緊張に押しつぶされそうな空気の中で、シードが恐る恐る手を挙げた。


「僕は魔道具を使いますが…使用に制限はありますか?」


その言葉に一瞬、観客席がざわつく。魔法が使えない彼が、魔道具頼みで戦うことは既に知られていた。しかし本人の口から改めて聞くと、やはり哀れみの視線が多く注がれる。


「相手の体を直接傷つける魔道具、例えば魔剣のような武器は禁止だ。」


教員ははっきりと言い切った。


「それ以外のものは何を使っても構わない。ただし後で私が魔道具を検査する。そうすれば、後腐れもあるまい。」


「…ありがとうございます。」


シードは深々と頭を下げる。その仕草は卑屈というよりも誠実さを感じさせ、観客席からは小さく「頑張れよ」「負けるな」という声援が漏れた。


だが、対面する二年生と三年生の代表たちは明らかに鼻で笑っている。


「魔道具ね…。」


「そんなおもちゃで勝負になるか?」


そんな冷ややかな視線を受け止めながらも、シードは拳を握りしめた。


隣で立つシズクはいつも通り冷静な顔をしている。だがその横顔を見ただけで、シードの胸の奥に再び熱がこみ上げた。


――大丈夫だ。僕は一人じゃない。


「質問はなさそうだな。それではこれより試合を始める。各自、位置につき、開始の合図を待ちなさい。」


選手たちはそれぞれ待機場所へと散っていく。ただ一人シードだけが残り、魔道具の検査を受けた。結果は問題なし。小走りでシズクのもとへ戻る。


「大丈夫だったよ。」


「よしっ!じゃあ作戦通りにいくぞ。」


二人が気合を入れ直した瞬間、フィールド中央から鐘の音が響き渡る。


――開戦の合図だ。


「え?」


ララはてっきりシズクが派手に仕掛けると思っていた。しかし現実は正反対。シズクとシードは人目を避けるように動き、ひそひそと下準備を始めていた。


「なにあれ?アイツなら先輩相手でも真正面からやれるはずでしょ!」


最初に噛みついたのはマロンだった。散々煽っておきながら小細工に徹する姿が、彼女にはどうしても気に食わなかった。


「同意見。シズクらしくない…。でも、だからこそ確信できる。」


ララは冷静に答える。


「あれは、シードの魔道具を最大限に生かそうとしてるんだ。」


「どういうこと?」


「周りを見て。」


マロンが耳を澄ますと、観客席から嘲笑が降ってくる。


「魔道具で何ができるんだ~?」


「結局、魔法が使えなきゃ意味ないよな~。」


その心ない言葉に、思わずマロンは立ち上がりかける。


「あんた達――」


「待って。」


ララがそっと彼女の手を引いて制した。


「この状況を覆すために、シズクはこの作戦を立てたんだ。」


やがて準備を終え、中央で小競り合いを続ける二年生と三年生の前に、ひとり姿を現したのはシードだった。その手に握られているのは、一本の棒状の魔道具。表面は銀色で、全体に細い刻線が走っている。中央部には小さなランプがあり、今は何色にも点灯していない。


「なんだ、そっちが出てくるのかよ。」


上級生たちはシズクを警戒し、互いに牽制し合って手を抜いていた。しかしシードが現れた瞬間、その緊張は霧散し、逆に軽く見て彼を放置する。


だが、それこそが罠だった。


シードが魔道具を振るとランプが黄色に点灯し、先端の発射筒から雷撃が放ったれた。突然の攻撃に上級生たちの反応は一瞬遅れる。


「ぐっ!」


電撃に体が痺れ、一瞬だけ身動きが取れなくなる。


「あ?」


気付けば足元に巨大な影が広がっている。空を見上げると、いつの間にか巨大な水塊が形成されていた。それはシズクが隠れて準備していた物だった。それが崩れ落ちて小雨となり、辺り一帯に降り注ぐ。逃れる術はなく、上級生たちがずぶ濡れになる。


「まずい…!」


それは先の陣地戦で、ウォルフとバニラが見せた連携の再現。しかしシードの雷はウォルフのように強力ではなく、容易に防がれてしまう。


「そんな遅い雷、当たんねーよ。」


二年生の一人が嘲笑った、その瞬間。


パンッ――


足元から破裂音が響き、直後ドカンと爆ぜて二人の体が吹き飛んだ。


地面に仕掛けられていたのは魔法嚢(まほうのう)。魔法を封じ込めることができる袋で、割ると中の魔法が発動するという一般的な魔道具である。


シズクとシードは、あらかじめフィールド中に魔法嚢を仕掛け、その中には多種多様な魔法が封じ込めた。罠を警戒せざるを得ない状況に上級生の動きは鈍る。


「卑怯だぞ!」


二年の一人が叫ぶ。そんな彼の前にシズクが姿を現した。


「魔道具の使用は禁止されていません。つまり先輩方も準備できたはずです。それを怠ったのは貴方達の責任でしょう。卑怯なんて、軽々しく言わないでください。」


シズクはそう冷ややかに言い放つ。毒舌は先輩相手でも容赦がない。そのまま彼は水の操る魔法を駆使して、攻防一体の猛攻を仕掛けた。


「クソッ、合わせろ!こいつは化け物だ!」


「わかってる!」


二人がシズクに集中した刹那――


ドゴン。


背後からの一撃が一人を襲い、地に叩き伏せた。いつの間にか回り込んでいたシードの火球による一撃だった。


彼はそのまま気絶。残る一人も、仲間を倒された一瞬の隙をシズクに突かれ、あっさり意識を刈り取られた。


「完璧だ。」


シズクはシードとハイタッチを交わす。しかし油断はなく、その視線はすでに三年生に向けられていた。


「だが、次は簡単にはいかない。お前はもう先輩たちの警戒の内だ。」


「…わかった。」


これから予想される激戦に、観客席に座る生徒たちは固唾を飲んで見守る。


「行くぞ。本番はここからだ。お前の力をこの会場の全員に見せつけるぞ…!」


「うん!」


その力強い返事に呼応するように、会場の空気がさらに張り詰める。


胸を高鳴らせる者、拳を握りしめる者。誰もが次の瞬間を見逃すまいと目を凝らす中で、ただ一人、シズクだけが勝利を疑わず、不敵な笑みを浮かべていた。

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