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種目

「学年対抗戦…?」


「うん。もう二月でしょ?そろそろ準備しないとなって思って。」


昼食をとっていると、マロンが唐突にそんなことを口にした。


「でも、準備って言っても何をするの?それにララとかマロンはいい試合になるかもしれないけど、私が先輩と戦うなんて…どうしても想像できないな。」


弱気な声を漏らしたのは、ララの親しい友人の一人バニラだった。


「またそれ!バニラはすぐ弱気になるんだから。そんな調子じゃ、勝てる試合も勝てないわよ!」


かつては自信を失っていたマロンは、今は常に前を向いて努力を続けている。しかし、それも当然のことだった。


三度の定期試験を経て、彼女はシズクとララに次ぐ第三席の座を確かなものにしていたのだから。


「でも、相手はあの先輩達だよ~。」


バニラの不安はもっともだ。訓練場で先輩達の魔法を日々見ているからこそ、実力の差を痛感していた。


「確かに、平均値だけ見れば二年生の第一クラスにも私達は劣るだろうね。」


攻撃魔法を学び始めてまだ数か月の自分達と、一年以上研鑽を積んできた先輩達。才能の差以上に、積み重ねてきた時間の差は埋めがたい。マロンもそれを理解していた。


「それでも、私は勝ちたいの。最初から胸を借りるつもりで挑むなんて、先輩達に失礼だから。」


彼女は何度も先輩に質問し、何度も教えを受けた。だからこそ、その恩に報いるのは成長した自分の姿でありたい。それがマロンの決意だった。


「マロンの気持ち、私もわかるよ。私だって…ミア先輩に勝ちたいから。」


ララの言葉に、マロンとバニラは思わず目を丸くする。


「ララがそんなこと言うなんて…珍しいこともあるのね。」


「うん。ほんとに珍しい。」


二人にからかわれ、ララは「な、何?」と恥ずかしそうに視線を逸らす。


「駄目だった?」


「駄目なわけないでしょ!私は嬉しいんだよ。ララが自分の気持ちをちゃんと口にしてくれるのが!」


マロンは満面の笑みでララに抱きつき、その頭を優しく撫でた。バニラも便乗してララの手を取り、楽しそうに左右にぶんぶん揺らす。


「ほんとに…何なの?」


そんな二人に囲まれて、ララだけは困惑したままだった。


――そして放課後。


ララはシズクにも学年対抗戦のことを尋ねてみることにした。


「ねぇ、シズク。学年対抗戦に向けて、何か準備する?」


「いや、特には。でも…確かに対策を練った方がいいかもしれないね。」


そう答えると、シズクはすぐ傍で訓練していたアルベリオに声をかけた。


「アルベリオ先輩。学年対抗戦って、具体的にはどういった内容か、教えてもらっても良いですか?」


「うん、いいよ。」


アルベリオは快く頷き、わかりやすく説明を始めた。


「試合は全部で五つ。」


一つ目は、十二対十二で陣地を競う〈陣地戦〉


二つ目は、一対一で魔法の速度を競う〈早撃ち戦〉


三つ目は、一対一で魔法の威力を競う〈威力戦〉


四つ目は、二対二で魔法の腕を競う〈連携戦〉


そして最後が、一対一の総合勝負〈決闘戦〉


「人数の内訳は、それぞれ十二人、三人、三人、二人、二人。合計二十人が漏れなく参加する形になる。それから主席と次席は必ず二試合に出なければならない決まりだ。そしてそのうち一つは決闘戦に出なければならない。」


そこでアルベリオはシズクをじっと見据えて言葉を続ける。


「二年生の主席に勝てば、次は私と戦うことになる。期待してるよ、シズク君。」


「はい。楽しみにしていてください!」


アルベリオの言葉に、シズクも真っ直ぐな眼差しで答えた。そのやり取りを聞いていたララの胸にも、確かな闘志が燃え上がる。


主席と次席は必ず決闘戦に出場する。つまり、ミアと戦えるのだ。


「聞いてよかったね。」


「うん…!」


二人はその日から、いつも以上に気合いを入れて修練に励んだ。


そして数日後、ホームルームの時間――


「それじゃあ、学年対抗戦の出場種目を決めていくよ☆」


ついに、その時が訪れた。


「まずは決闘戦から。これはもう決まってるね。一番手はシズク君、二番手はララちゃん。二人とも、頑張ってね!次は連携戦。これに出たい人、挙手!」


しんと静まる教室。誰が先に手を挙げるのか、皆が様子を伺う中、真っ先に手を挙げたのはシズクだった。


「おっ、シズク君か~。相方はララちゃんかな?」


「いえ。相方は…シードを指名します。」


「はい。僕が、シズク君と一緒に出ます!」


ざわめく教室。主席のシズクが、魔法も使えないシードを指名するなど、誰一人として想像していなかった。


「おっけ~。じゃあ、連携戦はシズク君とシード君だね~。」


黒板に並んだ二人の名前。その意外すぎる組み合わせに、生徒たちは互いに顔を見合わせ、違和感を拭えずにいた。


――時は数日前に遡る。


「シード。ちょっといいか?」


「えっ!?シズク君が、僕なんかに何の用…?」


戸惑うシードに、シズクはにっこり笑って告げた。


「学年対抗戦で、僕と一緒に〈連携戦〉に出てくれないか?」


その一言に、シードは思わず耳を疑った。


「な、なんで僕を?僕なんかと組んでも…。」


卑下する言葉を、シズクは強い声で遮った。


「そんなことはない。連携戦の話を聞いた時、最初に思い浮かんだのは君だった。魔道具を自在に操る君の才能は、この種目にうってつけだ。頼む、一緒に戦ってほしい。」


シズクが深々と頭を下げた瞬間、シードの胸に走った衝撃は言葉にできないほどだった。


――こんな僕にも、手を差し伸べてくれるんだ。


断る選択肢など、彼には残されていなかった。


「…うん。わかったよ。」


「よかった!じゃあ、よろしくね、シード。」


シズクが向ける眩しいほどの笑顔に、シードの心は大きく揺さぶられていた。


そして、時は再び現在へ――


「次は威力戦だね~。出たい人はいるかな?」


手を挙げたのはマロンだった。


ララを通じて種目の内容を聞いて以来、彼女の心はずっと決まっていた。土を操る魔法、それは力強さにおいてこそ真価を発揮する。威力戦にはうってつけだと。


「他にはいないみたいだね。じゃあ次、〈早撃ち戦〉。スピード勝負だよ~。出たい人、手を挙げて!」


今度はララが、ためらいなく手を挙げる。


彼女が得意とする風を操る魔法は、速さこそが持ち味。誰よりも速く撃ち抜くために鍛えてきたララの目は、真剣に輝いていた。


「他には? …いないね。よし、それじゃあ最後は陣地戦だね。定員は十二人だから、今残ってる子たちで決めよっか。公平にジャンケンね。残った人は威力戦か早撃ち戦に回ってもらう。異論なしだよ~。」


ざわざわとした空気の中、全員でジャンケンが始まる。勝ち負けが次々と決まり、最後にメンバーが出揃った。


そして、バニラは陣地戦の一員として名を刻むことになった。


「ちょっとバニラ。なんで陣地戦なんか選んだのよ~。私と一緒に〈威力戦〉やればよかったのに。」


じゃんけんの流れで自然と陣地戦に回されたバニラをマロンは不満げに攻める。しかし、バニラにはちゃんとした考えがあるようだった。


「私の得意な魔法、知ってるでしょ?」


「植物を成長させる魔法?」


「そう!この魔法って陣地戦でこそ本領発揮できると思うの。いっぱい植物を生やして敵の邪魔をしたら、絶対に有利になるじゃない?」


バニラはいたずらっぽく口角を上げる。


「あんたって…本当に良い性格してるわね。」


「いいのよ、これが私なんだから!」


「うん。そこがバニラの良さだよ。」


ララの素直な肯定に、マロンは「そうかなぁ」と、疑わしげに首を傾げるのだった。

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