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帰省

「帰ってきたね、ストックに。」


「ああ。相変わらず、変わらない景色だな。」


四か月の学園生活を経て、年末。シズクとララは地元ストックへ帰省していた。遠くに広がる活気あふれる港町の景色に、ほんの数か月ぶりだというのに懐かしさが込み上げる。


「ただいまー!」


ララを伴ってシズクは自宅のベルを鳴らした。すぐに、どたどたと慌ただしい足音が近づいてくる。現れたのは、エプロンを掛けたままのアメだった。料理の手を放り出してまで飛び出してきたのだろう。


「おかえりなさい!シズク、ララ!」


アメは迷いなく二人を抱きしめた。その母の温もりに、シズクは思わず頬を緩める。ララも同じように目を閉じ、ぎゅっと抱き返していた。


「さあ、二人とも寒かったでしょう。中に入りなさい。」


手を洗って居間に入ると、テーブルにはすでにいくつもの料理が並んでいた。彩り鮮やかなサラダに、湯気を立てるスープ、そして香ばしい香りを放つ焼き物。その中には、シズクの大好物であるランダパンや、ララの好物であるリゾットの姿もあった。


二人は思わず目を輝かせて椅子に腰を下ろす。その反応に、アメは嬉しそうに微笑んだ。


「お腹すいてるでしょう。いっぱい食べなさい。まだまだ台所にあるからね。」


「うん!いただきます!」


声を揃えて手を合わせる二人の様子は、まるで本当の兄妹のようだった。スプーンを手にしたララは、ふと懐かしそうに笑う。


「…なんだか懐かしいね、こういうの。」


「そうだな。最近は二人でご飯を食べる機会、あんまりなかったからな。」


学校に通うようになってから、二人はそれぞれに交友を広げ、新しくできた友人たちと食事を共にすることが多くなった。どうせ放課後は一緒に訓練をするのだから、それ以外の時間は少し距離を取ろう。そう自然に決めていたのだ。


「シズクがランダパンを口いっぱいに頬張ってたの、昨日のことみたいに思い出すよ。」


「おい、それいつの話だよ。」


ララがにこにこと昔を振り返る姿に、シズクは苦笑を漏らす。


そんな二人のやり取りを眺めながら、アメの胸にはじんわりと温かさが広がっていった。辛い出来事を経て、それでもこうして笑顔で同じ食卓を囲んでいる。その光景こそが、彼女にとって何よりの喜びだった。


食事を終えて談笑していると、アメはふと何かを思い出したように席を立ち、棚の引き出しを開けた。そこから取り出したのは、一通の封筒だった。


「そうだわ。ヴァイオレットさんから手紙が届いていたのよ。」


「師匠から?」


シズクの声がわずかに弾む。アメから受け取った封筒は、軍の封蝋でしっかりと閉じられている。彼は慎重に封を切り、便箋を広げた。隣に腰を寄せるララも、食い入るように文字を追う。


――シズク、ララ。おかえりなさい。


学校では元気にやっているかな。


私の方は軍の本部に戻ることになったから、君たちが帰ってくる頃には、もうそこにはいないだろう。


だが心配はいらない。いずれまた会える。君たちを軍で待っている。楽しみにしているよ。


ヴァイオレット


読み終えた瞬間、居間に静けさが落ちた。短い文面ながら、そこには彼女らしい厳格さと、弟子たちへの揺るぎない信頼が滲んでいた。


「…師匠らしいね。」


シズクがぽつりと呟くと、ララは小さく頷いた。彼女の胸の奥にも、再会への期待と同時に、軍という場所が持つ重さがずしりと広がっていく。


アメは二人の表情を見つめながら、温かい眼差しを向ける。手紙一通でさえ、彼らの未来を大きく揺さぶる。そのことを、ひしひしと感じていた。


――それから数時間後。


「お邪魔しました。」


「またいつでも来ていいからね。」


「はい!」


ララは深く頭を下げ、家を後にした。アメの柔らかい声が背中を押すように響き、彼女は自然と笑みを浮かべる。だが、その足が向かったのは霊園だった。


そこには、彼女の両親、アニーとマーヤが眠っている。


白く磨かれた墓石はまだ新品のように清らかで、その前には生花が絶えることなく手向けられていた。恐らく、今も変わらずにシズクの両親が毎日のように弔いに訪れているのだろう。


「お父さん、お母さん。ただいま。」


ララは小さな体を屈め、持参した花束をそっと添えた。そして手を合わせ、祈りを終えると、その場に腰を下ろした。


やがて、時間の感覚が薄れていく。冷たい風が頬を刺しても、彼女は動かなかった。12月下旬の寒さなど、今の心には届かないかのように。


「…風邪ひくぞ。」


気付けば隣にシズクが立っていた。彼はためらわず自分の上着を脱ぎ、彼女の肩に掛ける。


「ありがと…。」


ララは小さく呟き、シズクの温もりの残る布地をぎゅっと握った。だが、立ち上がろうとはしない。


そんな彼女を咎めることもなく、シズクは隣に膝をつき、静かに祈りを捧げた。そしてただ寄り添うように、彼女が満足するまでそこに座り続けた。


「…あれ? シズク、帰ってよかったのに。」


ララがぼんやりと口にすると、シズクは肩をすくめて答えた。


「ん?もう大丈夫なのか。送るよ、一緒に帰ろう。」


「…うん、ありがとう。」


シズクは聞こえていなかったのか、それとも聞こえたうえで当然のこととして受け止めたのか。その表情には迷いがなかった。優しく彼女の手を取り、ゆっくりと引き起こす。


二人の影は並んで夜道へと伸びていく。やがてシズクはララを学び舎の寮まで送り届け、その姿が見えなくなるまで、門の前で静かに見守り続けた。


「ララお姉ちゃん! おかえりなさい!」


扉を開いた瞬間、待ち構えていたかのように子供たちが飛び出してきた。小さな体で必死に駆け寄り、ララの腕や腰にしがみつく。その笑顔は無邪気で、どこか切なさも孕んでいた。


彼らはララと同じように幼くして親を失った子供たち。そんな彼らを、アミルカが建ててくれたこの寮が受け入れている。


「ただいま、みんな。」


ララは一人ひとりの頭を撫でながら、柔らかい声で応えた。小さな手の温もりに触れるたび、冷えていた心が解けていくように感じる。


ここは、ララにとって第三の家。血は繋がらなくても、どんな時でも無条件に温かく迎え入れてくれる場所。帰ると約束できる、大切な居場所だった。


「そうだ!ヴァイオレット先生がね、お仕事で元のお家に帰っちゃったんだ。」


「聞いたよ。みんな、寂しくはない?」


「寂しいけど大丈夫!新しい先生もすっごく良い人なんだ~!」


新しい先生?と首をかしげるララは、子供たちに手を引かれて居間の奥へと進む。そして目に飛び込んできた人物に思わず息を呑んだ。


「あなたは…!」


「久しぶりだね、ララさん。シズク君は元気かい?」


「クランさん!」


ぱぁっとララの表情が明るくなる。それもそのはず、彼は、かつて命を賭して自分とシズクを守り抜いてくれた恩人であり、二人にとっての英雄だった。


「どうしてこちらに?」


「ヴァイオレット少将にぜひ後任をと頼まれてね。今はここで、子供たちに魔法を教えているんだ。」


クランの穏やかな声に、周りの子供たちは嬉しそうに頷いたり、裾を引っ張ったりする。その光景を見て、ララの胸にまた一つ温かさが広がっていった。

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