魔法陣
魔法の習得は魔法協会によって以下の通りに制限されている。
1.満10歳未満の魔法の習得及び使用を禁ずる
2.魔法仮免許未取得者の攻撃魔法の習得及び使用を禁ずる。
3.指定区域外での魔法免許未取得者の攻撃魔法の使用を禁ずる。
4.以上を違反した者は直ちに拘束され、厳罰に処す。
魔法規制法と呼ばれる上記の規則は、人々の安全を守るために定められた物である。その為、
「これが…こうだから…」
今こうして、アメの魔法陣を盗み見て魔法の勉強をするシズクは、立派な魔法規制法違反者である。
「しかし、良くできた物だな。」
現代の魔法は魔法陣を直接描くのではなく、魔素と呼ばれる魔法の元となる物質を使って描くようで、魔法を発動するときに足元に現れる。
また、一般的に魔法陣はシンプルであればあるほど優れているとされている。その為、一般魔法と呼ばれる満10歳以上なら誰もが扱える魔法は複雑な図形をしている。
大天才であるレイの頭脳を持つシズクなら簡単に理解できる。という訳にもいかず、複雑な図形とはいっても、レイが初めて作った魔法陣に比べれば現代の魔法陣は余っ程シンプルだ。その為、かれこれ一週間くらい魔法陣と睨めっこをしているが、その半分程度しか理解ができない。
かつて自分が編み出した魔法であるにも関わらずだ。
シズクも勉強を始めるまでは、まさか水を出す魔法で躓くことになるとは思いもしなかったことだろう。
「うーん。」
「何を考えているの?」
突然、アメが部屋の扉を開く。咄嗟に魔法陣が描かれた紙を仕舞ったシズクは、カモフラージュの為に用意していた算術の問題集を開いて、ここの問題がわからないんだと誤魔化した。
「ここの問題はね――」
どうやらバレなかった様で、アメは丁寧にその問題の解き方を教えてくれた。
「ありがとう。お母さん。」
「わからない問題があったらいつでも聞くのよ。」
「わかった。」
アメが去ったのを確認して再び机に向き合う。算術の問題集を数問解いてから、懐から紙を取り出して、もう一度考え始めた。
「そうか。」
算術の問題と魔法陣を見比べて、初めてあることに気付く。
魔法陣は算術の問題に似ている。
複雑な魔法陣は算術でいう誘導が多い問題、逆にシンプルな魔法陣は誘導が少ない問題だ。
当然、誘導が多い方が問題は解きやすい。同様に複雑な魔法陣も線を一本ずつ紐解いていけば、簡単に理解できるはずだ。
魔法陣をそのまま理解しようとするのではなく、理解できた部分を少しずつ消していけばいい。そうして線を一本ずつ消していったシズクは、遂にその全ての意味を理解した。
不要になった魔法陣を紐解く過程が書かれた紙を全て真っ黒に塗りたくり、更にびりびりに破いて分からない様にゴミ箱に捨てた。一見すれば何かを書きなぐった紙の様に見えるだろう。
後は紙に描かれた魔法陣だが、処分する前に試しに魔法を発動させてみよう。
かつて魔法を発動していたように、何かを注入した。直後、机に置かれたコップに水が注がれた。
小さくガッツポーズを取り、シズクは心の中でその成功を大きく喜ぶ。
目的を達成して、シズクは魔法陣が描かれた紙も同様に処分する。それで心配ごとは綺麗さっぱりなくなった。
それにしても、今考えるとこの魔法陣に注入する何かが魔素だった訳か。これを最初に発見したリンネはやはり偉大な男である。
かつてのリンネの姿を思い出しつつ、シズクは大きくうんうんと頷いた。
「よし。」
シズクは次に魔素で魔法陣を描く方法の模索を始めようと決める。それを成功させるのに、そこからまた3か月以上の時間をかけることになるとも知らずに。
魔法規制法違反は一般的に5年以下の懲役が科されますが、2と3の違反者は同時に傷害罪や殺人罪も犯すことがほとんどなので、大抵それよりも長い懲役刑に処されます。
また、1の違反者は前例がない(過去にもいただろうけど発覚していない)ので、実際にどういった判決が下されるかはわかりませんが、恐らくは5年以下の懲役が科されるでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回は4月5日(土)0時0分に投稿いたします。