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運命の出会い②

馬車を降りると、シズクは得意げに胸を張りながら、ヴァイオレットを街の中へと案内した。


事件を経て街並みは少し変わってしまったが、それでもシズクにとっては自慢の故郷だ。あれこれ説明しながら、彼はヴァイオレットに誇らしげに街を紹介していく。


やがて、二人は公園へと差しかかった。そこではララがひとり、真剣な表情で魔法の練習をしていた。


「…違う。こうじゃない…。」


小さくつぶやきながら、ララは両手を構える。生み出された風は正確に放たれ、失敗はほとんどない。けれど彼女自身は満足していなかった。


無理もない。両親を失った彼女は、もう誰にも同じ思いをさせまいと軍人になる覚悟を決めたばかりだ。攻撃魔法は年齢的にまだ扱えない。それでも軍人として役立つ術を、彼女は必死に模索している。


ララの得意とする魔法は風。攻守に秀でる性質を持つが、十歳の彼女には「攻」の部分を習得することはできない。だからこそ「守」を極めようと、シズクのいない間も一人で修練を重ねていたのだ。


だが、成長は限界にぶつかっていた。シズクが飛び抜けて上達が早いのは、彼がただの子供ではなくレイとしての記憶を持っているから。一方で、普通の少女であるララが独力で魔法を極めるのは難しい。


それでも彼女は、あと一歩という領域にまで迫っていた。誰の助けもなくそこまで辿り着ける時点で、その才覚が常人離れしていることは明らかだった。十二歳を待たずとも防御魔法を完成させるだろう。だが、それでは遅い。


ララが目指すのは、ただの魔法使いではない。世界から不幸な子供をなくすほどの強さを持った魔法使いだ。そのためには一刻の猶予も許されなかった。


だからこそ、アミルカは彼女を知らないながらもその気持ちを推し量って、ヴァイオレットを師として送り込んだのだ。


「ヴァイオレットさん、彼女が――」


「ええ、わかってるわ。」


ヴァイオレットは微笑む。しかし瞳は真剣そのものだった。


「少しだけ…静かに見させてちょうだい。まずは彼女がどんな魔法使いなのか、この目で確かめたいの。」


馬車の中で、シズクからララの話は散々聞いていた。けれど、言葉で知るのと目で見るのとでは全く違う。ヴァイオレットは遠目から、懸命に風を操る小さな少女をじっと見つめた。


繰り返される魔法の動作。その一つひとつに、焦りと決意が滲んでいる。


──小さな体に、これほどの覚悟を背負わせてしまうなんて。


胸の奥が痛み、ヴァイオレットは小さく息を吐いた。


「……行きましょう。」


「はい。」


シズクは頷き、ヴァイオレットと並んで歩みを進める。足音に気づいたのか、ララが振り返った。最初に目に入ったのはシズク。

その姿にララはわずかに安堵する。だが、その隣に立つ見知らぬ女性の姿に気づいた瞬間、目を見開いた。


反射的にシズクの腕をぐっと掴み、その背に身を隠す。ちらりと覗く視線が、警戒と不安を語っていた。


「あはは……紹介します。この子がララです。」


シズクは照れ笑いを浮かべつつ言った。


初対面の少女を怖がらせまいと、ヴァイオレットはすぐに膝を折り、視線を合わせる。そして柔らかな笑みを浮かべ、落ち着いた声で告げた。


「はじめまして、ララちゃん。私はヴァイオレット。帝国軍の魔法使いで…今日から貴女とシズクくんに、魔法を教えることになったの。」


「え…軍人さん?それに私とシズクに?ど、どういうこと…。」


混乱が隠せない。何も知らされていなかったのだから当然だ。


「僕が説明するよ。」


シズクはララを背に隠した状態で手短に、アミルカの判断とヴァイオレットがここに来た理由を語った。


ララはようやく状況を飲み込み、シズクの背中から離れるとぽつりと呟いた。


「つまり、アミルカ将軍が私たちのために?どうして?」


シズクが言い淀む。代わってヴァイオレットが口を開いた。


「それはね、貴女が真剣だからよ。」


ララがはっと顔を上げる。


「貴女は、一人で必死に努力していた。小さな体で、大人でも耐えられない覚悟を抱えて…将軍はきっと、それを見抜いたのね。」


ヴァイオレットの声音は柔らかいが、確かな重みを帯びていた。


「でも私、まだ子供で。攻撃魔法も使えなくて。それに、アミルカ将軍に会ったこともないんです。なのに…。」


ララは視線を落とし、握った拳を震わせる。アミルカがなぜ彼女を気にかけるのか、その理由はヴァイオレットにもわからない。けれどアミルカが誤った判断を下したことは、ただの一度もなかった。だからこそ、ヴァイオレットは迷わず言葉を紡ぐ。


「理由なんて知らなくてもいい。大切なのは、貴女が選ばれたという事実よ。」


「...っ!」


ララの肩がわずかに揺れる。


「将軍がどう見抜いたのかは私も分からない。でも、私には分かるわ。貴女には力がある。強くなれる可能性がある。」


ヴァイオレットはそっと手を差し伸べる。


「将軍がどう見抜いたのかは分からない。でも私には分かる。あなたには力がある。強くなれる可能性がね」


ヴァイオレットはそっと手を差し出した。


「だから、一緒に進んでみない?一歩でいい。私が隣にいるから。」


ララは俯いたまま黙っていたが、ふとシズクの顔を見た。その瞳は彼女を信じ切っていた。


「……ありがとう。」


小さく呟き、ララはヴァイオレットの手を取る。


その瞬間、風が吹き抜けた。少女の心を映すように、その風は静かながらも確かな決意を帯びていた。

次回は9/10(水)に投稿いたします。

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