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決心

太陽暦666年にレイは世界で初めて魔法を作りました。それは水を出す魔法でした。少年は世界から水不足をなくしたかったのです。それから50年という年月を経て、水を出す魔法は世界中で使われるようになりました。お金持ちでも、そうでなくても、魔法は等しく人々を助けてくれました。その日から世界中の人達は、一人も欠けることなく綺麗な水を飲めるようになりました。それが最初の魔法にして、最も優しい魔法の物語です。


「シズクはまたご本を読んでいるの?偉いわね。」


「うん!」


少年の手にあるのは「魔法の歴史」と書かれた、子供向けの教育本だ。こういった本の始まりは必ず、最初の魔法使いであるレイという青年の話から始まる。


「シズクはどの魔法使いさんが好きなの?」


「僕が好きなのはリンネだよ。この人のおかげで、魔法は世界に広がったんだ!」


「そう。シズクはリンネが好きなのね。じゃあ、シズクもリンネの様な凄い魔法使いになれるように頑張らないとね。」


リンネというのは世界で最初に魔法を一般化した魔法使いだ。レイの作った魔法陣を解析し、誰でも扱えるようにした傑物で、彼がいなかったらレイの魔法はただの個人の研究物で終わっていただろう。


だからこそ、少年は彼のことを気にいっている。


「うん!」


青空の様に透き通った青い瞳を輝かせる少年。彼の名前はシズクといって、昨日2歳になったばかりのどこにでもいる魔法好きの少年だ。少し他の人と違うところがあるとすれば、彼が最初の魔法使いレイの生まれ変わりという所だろう。


――リンネ。ありがとう。君のおかげで世界はこんなにも豊かになった。


外見も言動も年相応だが、その思考だけはかつての青年のものに他ならない。当然、かつての記憶も鮮明に残っている。


リンネはレイより6歳年上でレイの兄弟子だった。けれど、才能はレイの方が余っ程上で、いつもレイをライバル視していた。努力家だった彼だけど、レイが死ぬまでに彼がレイに追いつくことはなかった。でも、死後何十年という歳月をかけて彼はレイに追いつき、それを後世に繋いでくれた。


彼ほどの努力家を好かずにいられる訳がない。


「そうだった。シズクご飯の時間よ。ご本はしっかり片付けるのよ。」


「うん。」


本を元あった場所に戻し、シズクは母親アメに引っ付いて一緒に居間に向かう。椅子によじ登って食卓に目を向けると、そこにシズクの好物のパンがあった。


「ランダパンだ。やったー!」


ランダパンはシズクの住む地域ランダの伝統的なパンで、フワフワとした食感が特徴的なパンだ。


「いただきます。」


ランダパンを頬張りシズクは魔法の進化を振り返る。


歴史の本を読んで思うけれど、魔法はレイが初めて作った時から遥かに進化した。特に水、火、風といった、自然の力を生み出す魔法は誰でも使えるいわゆる一般魔法となっており、それは正しく、かつてレイが夢見た誰も資源に困らない世界だ。


水不足に苦しむ人がいないし、冷たい物を食べる人はいないし、体が濡れたままにして風邪を引く人もいない。まさか、300年やそこらでここまで進化するなんて、想像もしていなかった。


まぁ、多分それは戦争の影響だろうけど。


レイの死後100年と少しが経過した頃、50年という長い期間、世界規模の戦乱の時代が訪れた。その戦争で最も発展した技術が魔法であり、戦乱の時代を終わらせたのも魔法だった。


一撃で何人も殺せてしまう程の魔法の登場は、国家間の抑止力になり、年々戦争は減少していった。しかし戦争によって滅んだ国は星の数ほど存在している。そんな滅んだ国々には特徴があった。


魔法の発展が遅れていた。という特徴が。


初めて戦争の歴史を知った時、シズクは激しく後悔した。世界の貧困をなくすために魔法を作ったのに、結果的に困窮する国を滅ぼしてしまったのだから。けれど、あの本の一文がシズクの後悔を晴らした。


それが最初の魔法にして、最も優しい魔法の物語です。


確かに魔法は人々を苦しめたが、それ以上に魔法は人々を救った。あの一文からもレイの考えは曲がることなく現代に残っている。


時代は変わって魔法は戦争の道具に成り下がった。しかし、魔法が生まれた理由は今も残っている。なら、もうそれで良いじゃないか。レイが今更、この世界に償うことなんてしなくとも。


パンの最後の一欠けらを飲み込み。シズクは決心する。最初の魔法使いの生まれ変わりとして生きるのではなく、ただの魔法が好きな少年として生きようと。


これは、最初の魔法使いが今の世を満喫する物語。その最初の一ページだ。

アメは桜を思わせる雰囲気の女性で、人目を惹くピンク色の髪が特徴です。また瞳は青色で、シズクの青空の様な青い瞳は彼女譲りです。目鼻立ちも父親よりかは彼女にそっくりで、髪の毛は父親そっくりです。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


次回は3月29日(土)0時0分に投稿いたします。

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