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後日

「君...」


「えっと...誰...ですか?」


必死にシズクを介抱するララにアリアはそっと声をかけた。すると彼女はゆっくりとこちらに顔を向けた。


「ッ!」


数日前に見かけた彼女とはかけ離れた、一切の希望を持たない顔。その姿はまるでかつての――


「シズク!ララちゃん!」


その時、遠くから2人を呼ぶ女性の声が聞こえた。


「アメさん...!」


その声の主はアメだった。彼女は倒れるシズクの姿とボロボロになりながらも必死にシズクを助けようとするララの姿を見て、血の気が引いた様子だった。


「何があったの!?2人共…こんなボロボロになって...!」


「アメさん...私が...私が全部悪いんです!私が...!」


「落ち着いて。シズクだけじゃなくて、ララちゃんにも傷だらけじゃない。一旦、治療を受けて、それからお話ししましょう。ね?」


ボロボロと涙を流すララだったが、アメに優しく諭されると小さく頷いて涙を拭った。しかし、アメは言ったはいいものの、治療を受ける場所が現状どこにあるのかわからなかった。どうしたものかと考えていると、近くに立っていた赤い髪の女性が話しかけてきた。


「あの...」


「えっと貴女は?」


「申し遅れました。私は魔法協会のアリアというものです。そちらの少年を見せて貰っても?実は私、少しだけ治療の魔法が使えるんです。」


「本当ですか!お願いします。」


学生時代に少しだけ傷を治す魔法を習ったことがあった。不得手とする魔法ではあるが、外傷程度は治すことができる。


シズクの体を見るに魔法による傷はない様で、傷のほとんどが打撲。一先ず、目立つ傷は魔法で治療した上で、体の不調を探す魔法で目に見えない傷を探した。


「へぇ。凄い...」


「えっ!?そんな深刻な状況なのですか!」


「いえ、逆です。外傷以外の傷が全くありません。」


アリアの言う通り、シズクには外傷以外の傷が全くない。あれだけの傷を負いながら内傷がないのは間違いなく、防御系の魔法を発動していたのだろう。それも、グローブに気付かれない様に。


「意識的にか無意識のうちにか、どうやら魔法で体を守っていたようですね。」


「そうですか…よかった。」


アメはそれを聞いて胸を撫で下ろす。そしてララはやっと安心できたのか、緊張の糸が切れてアメにもたれ掛って眠ってしまった。


「あら?ララちゃんも疲れてたみたいね。」


「その子も見せてください。相当な怪我をしているはずです。」


「わかりました。お願いします。」


眠るララの体にそっと触れる。


「...!」


ララの体はシズクとは対照的に内傷が酷い。その理由は単純で、無理に魔法を使用したから。


彼女は風を出す魔法だけで一般的な攻撃魔法に匹敵する魔法を発動していた。それにより、ララの体内で軽微ではあるが魔素暴走を引き起こされたようだ。


幸い、この程度の内傷であればアリアの魔法で治すことができる。魔法を発動するとララの顔色がみるみるうちに良くなる。


「2人共、これで問題ないでしょう。念の為、後でこちらに来る軍医に2人の様子を見て貰ってください。私の方から向こうに2人に気を配るように伝えておきますので。」


「何から何まで。ありがとうございます。」


「いえ。2人がこれほどの怪我を負ってしまったのは我々の責任なので。」


そう言い残して、アリアは避難場所を後にする。その道中でアリアは2人の怪我を振り返る。


――あの傷。やはり2人がグローブと交戦したのは間違いないようね。


アリアはグローブの言葉を思い出す。


「そういえばあのガキ。攻撃魔法を使っていたぜ。」


――気は進まないけれど、話は聞かないといけないわね。それで攻撃魔法を使ったと認めたら...


「はぁ。」


軽犯罪さえも厳罰を下すほどに、犯罪者を目の敵にするアリア。そんな彼女でさえシズクの攻撃魔法の使用、それに目を瞑りたくなるほどに、今回の事件がここまでの被害になった事へのアリアの責任は大きかった。


憂鬱な気分で下山をしている途中で、帝国軍の一行と出会った。その一行に同行していた軍医にシズクとララのことを伝えた。


そうして街まで下ると、丁度、帝都から送られてきた帝国軍が到着していた。様子からして急行してきたようだが、戦闘が既に終了しているの見て困惑している。


「随分と速いご到着ね。」


「ん?なるほど。貴女がいたのか。アリアさん。」


「久しぶりね。アンドリュー少将。貴方を送ってくるとは帝都も事態の緊急性がわかっているようね。」


アンドリューは地面を操る魔法の名手で、攻守ともに超一流の魔法使いだ。特に人命救助の場面で力を発揮し、大災害を前にしても彼の手の届く範囲で人が亡くなることはあり得ないと言われる程だ。


「見ての通り街中は悲惨な状況よ。逃げ遅れた人で生き残っている恐らくいないでしょうね。」


「そうか。俺達は遅かったようだな。だが、もしかしたらたった一人でも生きているかもしれない。そうでなくても、亡くなった方達のご遺体は綺麗な状態で安置しなければならない。それが遅れた俺たちにできる最大限の誠実さだ。」


それから数日間、アンドリューの部隊は救助活動と復興作業を続けた。アンドリューの指示で様々な地域から集められた救助と復興のスペシャリスト達。彼らによってたった数日でストックは元通りの景色に戻った。しかし亡くなった者達は元には戻らない。


「ララ...」


回復してからシズクはずっとララの傍で彼女を慰めた。しかし、やっと帰って来た両親の遺体。それを見てララの心は遂に崩れた。


彼女の心にはどこかもしかしたら2人は生きてるかもしれない、そんな淡い期待がった。しかし確実なる死を目の当たりして、彼女は自分の心を保つことができなくなってしまった。


彼女が両親と再会して一晩が明けた。彼女は一睡もせずに両親の傍に立ち尽くしている。


こればかりは彼女自身で乗り越えなければならない。そして乗り越えられると信じて、シズクは一切声をかけずに傍で彼女を見守った。そして翌日の12時に差し掛かったころ、彼女は傍でずっと見守ってくれていたシズクに声をかけた。


「シズク。もう大丈夫。行こう。」


その表情は当然曇っていた。しかし完全に心が折れた訳ではない様に思える。


「わかった。」


それから更に数日経って、軍主導の下でこの事件で亡くなった人々の埋葬が行われた。


当然、アニーとマーヤもその一角に埋葬された。土に埋められる2人を見送るララの姿は強い意志を抱いているように見えた。


その帰路でララはシズクに語った。


「私、軍人になる。軍人になって私の様な人が生まれない様に悪者は皆やっつける。だから、私は強くなる。今よりもずっと。誰にも負けないくらい。」


「うん。わかった。」


覚悟を決めたララの表情を見て、シズクも決意する。彼女の夢への道に存在する全ての障害を排除すると。

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