決着
想像を絶する実力の差にグローブは思わず笑みをこぼす。
腐っても彼は、その人生を魔法に捧げた魔法使い。強者との戦いは彼にとって喜ばしものだった。
彼の持つ最高火力の炎の弓矢。火を操る魔法によって形作られた弓により放たれる神速の炎の矢だ。その威力は後ろに逸らせば街に甚大な被害を与えるほど。それを水平にアリア目掛けて放つ。
アリアにとってそれを避けることは容易い。しかし避ければ、その後ろは全てが更地になる。それを看過できるアリアではない。そもそも――
アリアに炎の矢が当たる直前、それはピタリと空中で止まった。
「は?」
その光景にグローブは理解が追いつかなかった。
火を操る魔法とは、文字通り火を操る魔法だ。この時の「火」とは一般的に、自然界における火と火を出す魔法によって生み出された火を意味する。
グローブの火の槍や矢は、火を出す魔法によって生み出した火を造形、速度、威力までを操作して放つ魔法だ。
一方でアリアは他者が生み出した火を操って見せた。そんな芸当できるはずがない。魔素は人の体内に入った時点でその人の色に染まる。それ故に、他者をそれに干渉するととはできない。当然、魔素によって生み出せれた物も干渉することはできない。普通は。
「私に火で挑むなど無謀に等しいな。」
火を操る魔法において右に出る者はいないと言われるほどの天才。それがアリアだ。そんな彼女にとって他者が生み出した火を操るのなんて造作もない。当然、同等レベルの実力者を相手にすれば不可能だが、グローブ程度なら容易い。
「お返しするよ。」
火の矢は先程よりもさらに速い速度でグローブの眉間に着弾すると、頭だけを燃え上がらせて髪の毛だけ燃やし尽くし、火を手足の様に操って、アリアはグローブを弄ぶ。
「流石にこれ以上の殺しは怒られそうだから、今日はこれくらいで許してあげるよ。運が良かったね。」
体を拘束する魔法でグローブを捕えると、彼を駐在所の地下牢まで連れて行った。そこには既にグローブ以外の海賊が捕らえられていた。
しばらくして、地下牢に閉じ込められたグローブが妙なことを言い始めた。
「そういえばあのガキ。攻撃魔法を使っていたぜ。」
「ガキ?」
「青い髪に青い目のガキだ。お前はあのガキの監視でここに送られてきたんだろ?」
「何故それを?まさかクゥが?」
その情報は本来、リルとアリアしか知らないこと。それに関してはザックさえ知らないことだ。それを何故グローブが。そんな疑問を抱いていると、グローブはさらに衝撃の事実を口にする。
「あ?なぁんだ知らねぇのかよ。じゃあお前。あれも知らないのか?リルの不正が発覚して、ランダ支部の支部長の座を追われたって話を。」
「なっ。嘘だ。そんなはず。」
「嘘だと思うなら確認してみろよ。まだ一般に公開されている情報じゃないが、ランダ支部に直接確認すればわかるだろ。」
急いでアリアはランダ支部に確認を取りに向かう。幸い、帝国軍の駐在所には通信機があった。それを使って、ランダ支部に確認する。
「あっ!アリア支部長補佐。お久しぶりです。」
通信機を取ったのはかつての部下だった。
「ねぇ。支部長が変わったってホント!?」
「あれ?連絡いってませんか?本当ですよ。アリア支部長補佐をストックに送った後、ラッシュ支部長補佐も最近勢いを増す魔法テロ組織対策部隊に異動させて、2人がいなくなった隙に横領していたみたいです。そんなことする人じゃないと思ってたんですが、支部長補佐の2人の目があったからなんですね。」
「そう。教えてくれありがとう…」
通信機を切ってから数秒間、アリアは放心状態になった。そして、膝から崩れ落ちてぺたりと床に座った。
「そんな…だから私をここに。」
リルを知り尽くすアリアは彼女が横領などしない人物であることは十分理解している。それと同じくらい、彼女が支部長補佐のどちらともに距離を置くことはあり得ない状況だった。つまり、
「リルはランダ支部内の内部不和に気付いて、自分側の人間である私とラッシュさんを支部の外に追い出したんだわ。一網打尽にされないために。」
意味不明な理由でアリアを左遷したのには理由があったようで、アリアは改めてリルを見直す
「それにしても、敵は誰なんだろう。状況からするにグローブ側の人間であることは間違いないようだけど。」
今一度グローブを尋問する為に地下牢へと向かう。牢の中を見ると、グローブは大人しく硬い椅子に座って待っていた。
「確認は取れたか?」
「ああ。しかしお前たちの目的は何なんだ?リルを罠に嵌めて得られるものなんて支部長の座くらいだけれど。」
「教える訳ないだろ?」
「そう。じゃあ拷問して――」
パンッという大きな破裂音が地下に響く。その出所はグローブだ。グローブの頭が突然爆ぜたのだ。
「自殺した?」
体を拘束する魔法の上に、魔法を封じる魔法を付与したにも関わらず、グローブは何らかの魔法の力で死亡した。状況からして魔道具を使ったとかしか考えられない状況。どうやら、体内に自殺用の魔道具を仕込んでいたようだ。
「これは最近勢いを増しているテロ組織、グレイジャムの手口ですね。」
この地下牢を管理する軍人はその自殺方法に見覚えがあるらしい。
「グレイジャム?」
「はい。6年前に起こった魔法機関車脱線事故を始めとする、いくつかの大事故を引き起こしたテロ組織です。」
シズクの魔道具によって被害を最小限に抑えることができた脱線事故。実は、その原因は人為的に引き起こされたものだった。
「ああ。あの事故の。」
魔法機関車脱線事故。その事故にアリアは深く関係している。何故ならあの日、彼女はあの機関車に乗っていたから。今でもあの日のことは鮮明に覚えている。特に記憶に残っているのは、夜空の様な綺麗なアクセサリーを鞄にさげた黒髪の小さな少女。
同じ機関車に乗るはずだった少女は、突然鳴り出したけたたましい音を聞いて、機関車に乗るのをやめてしまった。もしかしたら、何らかの魔道具が脱線事故を予期したのだろう後になると思う。
――そういえばあの少女が持っていたアクセサリー。あの子も...
その時。ふと、グローブの言葉を思い出す。
「そういえばあのガキ。攻撃魔法を使っていたぜ。」
――あのガキ?そもそも何故、グローブの口からシズクの話が出てきた?私が到着するまでの間に、何が起こっていたの?まさか、この事件の中心にもあるいは...
ララ。あの少女がいる?
「どうしました?」
「いえ。何でもありません。」
――考え過ぎだろう。あの少女には高い魔力の才能があるが、あくまでそれだけ。不幸を引き込む体質だとか呪いだとか。そんなのは空想の世界の話に過ぎない。
「すみませんが、こちらは任せても構いませんか。少し用事を思い出しまして。」
「わかりました。こちらはお任せください。」
「お願いします。」
一通り考え事を済ませると、その場を任せてアリアは地上へと向かった。そこから向かった先は山奥の避難場所。ストックのほとんどの住人がそこに逃げ込んでおり、当然そこにはシズクとララの姿もあった。
しかしその様子は異様で、シズクは体中がパンパンに腫れ上がっていて意識がなく、一方でララはそんなシズクを傍らで必死に冷やしている。
その凄惨さは語るまでもないだろう。




