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救援

「大丈夫?ララ。」


「シズク…お母さんが...お父さんが…死んじゃった!あいつに殺されちゃった!」


ララの涙にシズクは目を見開く。


「おい。ララを泣かせたんだ。ただじゃおかないぞ。」


周囲の魔素が振動する。それは超一流の魔法使いが魔法を発動するときに起こる現象。男の背筋が伸びる。


「面白れぇじゃねぇか。攻撃魔法を使うガキとはなぁ!」


その言葉にシズクはハッとする。今自分が発動したのが攻撃魔法だったという事実に。


「ごめんララ。僕、誓いを守れなかったみたいだ。」


「どういう…こと?」


シズクはララと共に歩む為に、今の今まで攻撃魔法の習得を禁止していた。しかし、今咄嗟に発動した魔法。より速く、より鋭利に水を飛ばそうと、今の一瞬で水を出す魔法から編み出した魔法は、正真正銘水を操る魔法だった。


図らずも自身が定めた誓いを破ってしまったことになる。しかし後悔はしていない。それを使わなかったら、今のララはいないかもしれないから。


「何でもない...少しだけ待ってて。あいつをぶっ飛ばしてやるから。」


シズクは深呼吸をして改めて、魔法を発動する。もうララを守る為だったどうなったっていい。あの誓いは今を以て破棄することにする。思う存分、自身が持つ魔法を使って、アイツを倒す。そう覚悟を決めて放った魔法は、最も自信のある水を操る魔法。


たった今編み出した魔法だが、まるで何十年も使い古した包丁の様に、良く体に馴染む。


「はっはっは。お前やっぱり普通じゃないな!」


男の瞳に映るのはシズクの頭上に浮かび上がる無数の水の刃。そんな芸当は、魔法使いとして一人枚になってやっとできるほどの物。10歳という年齢でその境地に至った人物など、歴史を辿ってもそういないだろう。


そうして放たれた魔法は全てが正確に男を貫いた。全く抵抗せずに攻撃を受けた男。流石にただでは――


「普通じゃねぇ。その歳でそのレベル。あり得ない。だが、それでも並みの魔法使い以下だ。」


シズクは確かに常人離れしている。10歳ではあり得ない境地に達している。しかし、それでも一人前の魔法使いと比較すればまだまだ未熟者で、当然、熟練の魔法使いには遠く及ばない。


「ここで潰せてよかったぜ。お前みたいな奴をな。」


直後、目にも止まらぬ速さでシズクの眼前に移動した男は、シズクの頭を掴んで地面に叩きつけた。


「カハッ!」


頭に強い衝撃を受けたシズクの意識が一瞬だけ飛ぶ。


「お前は魔法で殺さねぇ!俺の手でじっくりいたぶって殺してやる。」


魔法でシズクを殺すことは簡単だ。しかし、魔法好きの彼の最期を魔法で締めくくるのは何か癪に障った男は、シズクが死なないギリギリを狙っていたぶった。


やめてよ。と、ララも必死に止めようとしたが、男に頭を殴られ、あっさりと気絶してしまった。


その後もいたぶられるシズクだったが終始無反応で、男としては少々退屈だったが、それでも自分を遥かに凌ぐ才能を持つ少年の命を握っているという優越感は、男にある魔法使いの存在を一瞬だけ忘れさせた。


「お前!何をしている!」


突然現れた何者かによって放たれた魔法により、男は思わずシズクを手放して大きく回避した。


「大丈夫かい?少年。」


大きな体に抱き抱えられたシズクは既に意識が朦朧とした状態で簡単な受け答えさえできない状態だった。その姿に青年は強い怒りを覚えた。


「こんな幼気な少年をいたぶるとは、感心しないですね。ビル中佐。いやグローブといったほうが良いですか?」


「誰かと思えばクランじゃないか。まさか俺の尻尾を掴んでいたとはな。」


漆黒の軍服にマントを纏う男の名前はクラン。ストックの帝国軍の駐在所に勤める青年で、アリアの協力者だ。彼はアリアからの調査の依頼を受け、最終的にビルに疑いの目を向けた。


「本当のビル中佐はどうしたんですか?」


「殺したよ。実に手強い相手だった。」


入れ替わる以前のビルを知らないクランだったが、所属する軍人の記録を整理していて違和感を感じた。ビルが得意とする魔法は本来、自然を操る魔法だった。しかし、グローブが扮したビルは好んで火を操る魔法を使っていた。


魔法使いにとって得意魔法とはアイデンティティ。別の魔法を使うことはあっても、主軸にするのは必ず得意魔法でなければならない。それこそが魔法使いの矜持なのだから。


「聞きたくなかった事実ですね。」


ビル中佐の実力は疑うまでもなく一流。実力主義の帝国軍において中佐にまで上り詰めた傑物だ。それを倒したグローブの実力も疑いようがない。到底、クランが敵うはずのない相手。しかし、2人の子供を背に抱える状況で逃げ出せるはずがない。


チラリと後ろを見ると、先程まで気絶していたララが目を覚ましていた。


「君、この子を連れてできるだけ遠くに逃げてくれ。僕は何とかこの人を足止めするから。」


「でも...」


「早く!」


「...わかりました。」


ララは意識のないシズクを背負うと、ゆっくりではあるが確実な足取りでその場を離れる。当然足止めしようとグローブが動くが、そんなグローブをビルは地面を操る魔法で壁を作って足止めする。


「行かせませんよ!」


「お前には興味がないんだが。仕方ない。少しだけ遊んでやろう。」


先程までとは打って変わって本気モードのグローブは強烈な炎を生み出すとそれを槍の計上へと変化させ、豪速でクラン目掛けて放つ。それに対してクランは地面を盛り上がらせ壁を作り防御を試みる。


火を操る魔法は地面を操る魔法に弱い。それは魔法使いの常識である。しかし圧倒的な実力差があれば話は別だ。


火の槍はいとも簡単に地面の壁を破壊すると、その後ろに立っているクランの脇腹を抉り取った。


「ッ!」


クランの全身に強い痛みが走る。幸い、軍服の頑丈さのおかげで致命傷は免れているが、それでも重症の傷。


「そろそろ終わりにしよう。」


そういって、痛みに耐えるクランの脳天に目掛けて再び、火の槍を放つ。それは先程よりも更速い。クランは咄嗟に何重にも壁を作るも、それらの壁は何の意味もなさず、火の槍はその速度を保ったままクランを襲った。


「ほう。」


その槍をクランは風を出す魔法で無理やり体を動かして回避する。その回避方法にグローブは感心する。感心するが、それを読んでいたかのように放たれていた二本目の槍により、回避した先で次は右足を貫かれる。


直後、クランの体がずるっとズレてバランスを崩して倒れ込んだ。右足を見ると膝から下が無くなっていた。


「クゥッ!」


歯を食いしばってクランは必死に痛みに耐える。


――あと少し。あと少しだけこいつを...


そして這いつくばって根性で、グローブの左足を掴んだ。


「精神力だけは称賛に値するな。」


グローブはそんなクランに容赦なく火球を撃ちつける。背中は丸焦げになり瀕死の状態だが、それでもクランはグローブの足を離さず、なんと油断しているクランに向かって超至近距離で、爆発を起こす魔法を発動する。


左足を掴んだ右手の掌から放たれたそれは、クラン諸共グローブの体を吹き飛ばす。そんな決死の攻撃も、


「クッ!油断した。なかなか、やるじゃないか。」


左足首を消し飛ばすだけに終わった。自身の魔法である為にダメージが軽減されているクランでさえ、右肩以上を完全に犠牲にしているにも関わらずだ。


その実力差はハッキリ言って絶望的だった。この戦いにおいてクランの敗北は確定的なものだった。しか

し――


「よく頑張りましたね。クランさん。」


勝負に勝ったのは、クランだった。


「ア、アリア!何故ここに。」


シズクを相手に優越感に浸り、クラン相手に終始優勢に戦いを楽しみ。グローブは完全にその魔法使いの存在を忘れていた。


「随分と好き勝手してくれたようだな。グローブ。」


周囲の魔素が振動する。それは超一流の魔法使いが魔法を発動するときに起こる現象。


「まさか、さっきのは!」


当然、今のシズクがその境地に達しているはずがない。即ち、先程の振動は遥か遠くで彼女が魔法を発動させたことによる余波。


「既にお前以外の海賊は拘束した。後はお前だけだ。」


そのレベルはグローブが想像し得ないほどの物。その実力差は明白だった。しかし、そこで自然と出た表情は笑顔だった。

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