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悲劇の序章

「私は町に用があるから。君達は先に帰っててくれ。」


駐在所を後にしてアリアはその後、すぐに部下達と別れてストックを散策する。目的はシズクの家を確認すること。


名前、住所、家族構成は事前に調べ上げているので、実際に出向いて違いないか確認する。ついでに、シズクの様子も確認できれば上々だ。


「おっと。」


偶然にもばったりシズクに出会う。その隣にはララもいる。


――あの子は。


アリアはララのことも覚えていた。それもそのはず、ララも人並み離れた速度で魔法を習得していたから。ただ許容範囲内だった為、言及はしなかったがシズクと交友関係があるのなら話は別だ。


物陰に隠れて彼らの様子を覗き見る。


どうやら、彼らは公園内で魔法の練習をしているらしい。今のところは一般魔法の練習をしている。実に健全な――


前言撤回。やはりシズクは危険だ。


アリアが見たのはシズクの魔素による魔法陣。あれは通常、半年以上の訓練を経てやっと習得できるもの。それを既に扱えるということは。


――君はいつから魔法を使えるんだ…!


シズクの危険性を再認識しつつ、ララに目を向ける。彼女は教科書に描かれた魔法陣を見て色々な魔法を試している。その楽しそうな様子を見るに、彼女は違反者ではない様に思える。


「ねぇ。シズク。それってどうやってやるの?」


「体内の魔素を足に集中させて、魔法陣に魔素を流すように地面に魔素を流すんだ。そして、地面に流した魔素で魔法陣を描くんだ。」


「わかった。やってみる。」


ララは神妙な面持ちで足元に魔素を集める。そして、それを少しずつ地面に集中して、魔法陣を――


直後、地面に描かれるのはぐちゃぐちゃの魔法陣。それは到底使えそうになく、一見では何の魔法陣か判別することさえできない。


「…難しいね。」


「初めてにしては上出来だよ。ララならすぐにできると思うよ。」


「そう?頑張る。」


2人の様子に思わず、可愛いなぁと和むアリア。しかしすぐにハッとして、シズクが犯罪者であることを思い出す。


――落ち着けアリア。可愛い見た目をしているけど、彼は立派な魔法規制法違反者だ。攻撃魔法を覚える兆候があれば捕まえる。それが私の仕事だ。


再び2人に目を向ける。今の所が彼が攻撃魔法を覚えている様子はない。一先ずは白と見て、アリアはその場を後にする。


――なんか知らない人が見てたけど誰だろう?


実はアリアに気付いていたシズクは密かに警戒していた。変質者がいると。


しかし、程なくして姿が見えなくなったのでシズクは一先ず警戒を解く。


「ララ。そろそろ帰ろう。」


「なんで?まだ15時だよ。」


「今日は大人が誰もいないから早めに帰ろう。それに、魔法の練習だったらお家でできるだろう?」


シズクの言葉に納得したのか、ララはそうだねと頷く。それから一緒にシズクの家に行って、庭で魔法の練習をした。すると、丁度仕事が終わったアメが少しだけ魔法を教えてくれた。


「魔法陣は形だけじゃなくて、描く順番にも意味があるの。例えば――」


アメはそう言って、魔法陣の描き順だけを変えて三度、水を出す魔法を発動させた。それにより現れた水には違いがあった。


まず一度目の水は清潔で速く、二度目の水はより清潔で、三度目のより速く放出された。


「まずは、描かれている魔法陣のどこから魔素を流すか、それを変えてみて。」


先程見せて貰った描き順を元に魔素の流し方を変えてみる。すると、確かに魔法の性質がそれぞれ変化した。


「どう?変わったでしょう。」


「はい…!」


その変化にララは目を輝かせる。一方でシズクは至って冷静だった。彼にとってそんなことは当然のことであり、既に彼だけの魔法陣の描き方が幾つかあったから。


「もし魔法使いを目指すなら、複数の魔法陣の描き方を覚えておいた方が良いわね。」


魔法陣はより中央から描き始める方が難しく、より優れた魔法を発動できる。


水を出す魔法の魔法陣は複雑な図形の中央に水滴が描かれているのだが、第一線で活躍する魔法使い達は、そのほとんどが中央の水滴から描き始める。そして、第一線の中でも更に一握りの魔法使い達は円と六芒星の中央に水滴を描くだけで、それ以外の全てを省略して魔法を発動してしまう。


この様に、優れた魔法使い達はより中央から、そしてより簡略化させた魔法陣で魔法を使う。つまり魔法使いを目指す者が最初に習得するべきものが、この魔法陣の描き順なのだ。


「頑張って色々覚えてみます!」


「うん。頑張ってね。」


これがララの魔法使いとしての第一歩。そして、これから起こる悲劇の序章であった。それを知っていたら、彼女は魔法使いなんて目指さなかっただろうか。


「シズク!できたよ!」


あれから数か月が経った。ララの成長速度は凄まじく、常人の倍の速さで魔素による魔法陣を成功させた。そして今日、その魔法陣の書き順を変えることにも成功させたのだ。


「流石ララ。もう成功させちゃうなんて。」


「初めからできるシズクに言われても嬉しくない。」


「そんな...!」


ララは意外にも負けず嫌いで、天才という尺度ですら測れないシズク相手にも、負けるのは悔しいと思っている。だからこそ、一秒でシズクに追いつくために人一倍努力した。


「すぐに追いつくから。」


「僕は待たないよ?」


「当然。突き進むシズクに追いつくことに意味があるんだから。」


「そう。」


ララは気づいてないだろうが、魔法の才能はシズクよりララの方が上だ。今、シズクの方が魔法が使えるのは10歳になる前から覚えていたことと、レイとしての記憶があるからこそ。


それを理解しているシズクは、ララが追いつくことは時間の問題だと思っているし、いつの日か追い抜かされるとさえ思っている。


シズクの頬が緩む。才能の原石が輝きを放つ瞬間を近くで見れるという事実に。


「ニコニコしてどうしたの?」


「ん?何でもないよ~。」


「そう。」


この才能に気付いているのは自分だけ、この時までシズクはそう思っていた。しかし、それは全くの思い違いだった。まさか、あんな者達に目を付けられることになろうとは。



「報告。」


場所は変わり魔法協会の出張所。厳重な防音魔法が施された会議室で、アリアは報告を受けていた。


「この半年間で捕らえた海賊の数は23名。その中に魔法を扱える者はいませんでした。恐らくは、」


「私達が動いていることに気付いている。」


「おっしゃる通りです。」


やはりというべきか、駐在所、あるいはこの出張所内に内通者、もしくはグローブ本人が紛れている。アリアは内通者を炙り出すために、幾度か種をまいたが尻尾は掴めなかったため、相当優秀な人物であることは間違いない。


「仕方がない。強硬手段に出るとしよう。」


「と、言いますと?」


疑問に思う調査官を尻目に、アリアは顔に手を当てると魔法を発動する。それは姿形を変える魔法で、アリアは全くの別人に変化した。


「凄い魔法ですね。全く違和感を感じません。」


「当然よ。私を誰だと思っているの?」


忘れてはならない。彼女は魔法協会ランダ支部の支部長補佐。即ち、ランダ支部のNo.2だ。その実力は疑いようがない。


「潜入捜査よ。私直々に海賊に潜入する。」


「所長自ら?危険すぎます。」


「安心して。海賊くらい、私一人でいつでも殲滅できる。」


自信満々に出張所を後にするアリア。調査官はそんな彼女に一抹の不安を抱きながら、任された仕事を完遂するべく彼もまた出張所を後にした。



「頼も~!」


殺伐とした酒場に不釣り合いな女性の声が響く。


「なんだ?女ァ。ここはお洒落なバーじゃないぞ。」


いかにも強そうな筋骨隆々な男は、細身な彼女を嘲笑し、それに賛同するように周囲の男たちも笑った。


「泣き出す前にさっさと出ていきな。まぁ俺にの女になるっていうなら話は別だがな。」


そう言って男が彼女に手を伸ばそうとした時、その腕があらぬ方向に折れ曲がった。


「グッ...あぁあああ!」


その激痛に男は転がり苦しむ。そんな彼を見下ろして、女性は気安く触るなと毒を吐く。


「この俺様に手を出してどうなるか――」


反撃しようとした男だったが、あっさりと女性に蹴り飛ばされ、その衝撃で泡を吹いて倒れ込んだ。


「こんな小物に用はない。私は海賊になりたいんだ。紹介してくれるな。クゥ。」


「おっ。俺を知ってるとは、流石ダグを一蹴するだけのことはあるね。」


この酒場の店長であるクゥは、裏社会では名の知れた情報屋でその名声は一部の表の人間も知るほどで、アリアもその一人だ。


彼がこの酒場の店長をやっていることは、帝国軍が捕らえたとある高名な海賊から聞き出した。当然、クゥはそのことさえ知っていたが、彼は行動指針である面白さに従って、あえてストックに残った。アリアが自分を訪れてくると信じて。


「ここじゃなんだから奥で話そう。どんな船長にも紹介してあげるよ。ミニィでも、ユーグラでも、コールでもね。」


奥に通されたアリアは早速本題に入る。


「早速だけど、グローブという名前に聞き覚えは?」


「おや。もう少し取り繕うかと思ったが。」


「私が誰であるかなんて気付いているでしょう。腹の探り合いなんてするだけ無駄よ。」


「そうか。つまらないな。まぁ良い。グローブだったな。当然知っている。だがその情報は高くつくぞ。」


流石の情報網だと感心しつつも、アリアは強気な態度で交渉する。


「どうやら勘違いしているようね。これは取引じゃない。もし私の提案を断るならお前がどうなるかなんてわかりきっていることでしょう。」


「はは。まさかこの俺が脅されるとはね。面白い。良いだろう。グローブの情報も、彼とのコンタクトも請け負ってやる。その代わり俺のことは見逃してくれ。」


裏社会に生きる者ならば、その名前を知らぬ者はいないと言われるアリア。そんな彼女の恐ろしさをクゥが知らぬはずがない。


「交渉成立ね。期待しているわよクゥ。」


そう言ってアリアは応接室を後にする。クゥは彼女が去ったドアを見つめて胸を撫で下ろす。


「たったの5年で100を超える世界的な犯罪組織を壊滅させた、魔法協会きっての狂犬。やはり恐ろしいね。しかし、支部長補佐に就任して以来大人しかった彼女が、なぜ突然こんな田舎に...?何か面白い事情でもあるのか?気になるな。」


ニヤリと笑みを浮かべてクゥは仕事に取り掛かる。このアリアとの出会いがこれからの人生を大きく左右する分岐点だとも知らずに。

次回は6月7日(土)0時0分に投稿いたします。

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