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「好きなんでしょ?」「え?」「魔術が」~新人魔術師の身分差婚~  作者: 神田柊子


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ミックとチェルシーの結婚披露会で

 闇籠りの魔術で真っ暗になった中、天井の照明魔道具が回転して光を発散させていた。くるくる踊る強い光はいささか眩しい。

「綺麗だけれど、チカチカするわね」

 チェルシーは腕を引き寄せてミックの耳元に囁く。

「もっと幻想的にしたかったんすけど、ちょっと躍動的になっちゃいましたね」

 改良の余地ありか、とミックは苦笑した。

 招待客たちは見たことがない魔道具に歓声をあげているので、余興としては上々だろう。

 ――今日、チェルシーはミックと結婚した。

 午前中に教会で式を挙げ、書類を提出。今はレストランを借りての結婚披露パーティーの最中だ。

 本当はピーコック飯店でパーティーができればよかったのだけれど、どう考えても広さが足りなかった。このレストランはデザートくらいなら食事を持ち込めるため、立食式の会場には、ミックの父が作った杏仁豆腐や胡麻団子や月餅も並んでいた。

 ミックがイブニング子爵家に挨拶にきてから一年。

 婚約期間の間、チェルシーはミックの実家ピーコック飯店で暮らした。店を手伝いながら平民の暮らしに慣れるためだ。ミックは寮暮らしのままだったため、一人で義理の両親を相手に大丈夫なのかと心配されたけれど、二人とも親切にしてくれて、うまくやっていけていると思う。

 チェルシーが育ったイブニング子爵家の王都の屋敷は、早々に叔父一家に引き渡された。しかしランドルフは全く帰っていないらしい。一年前の時点で片思いだった彼は、まだ良い返事がもらえないそうで、ときどきミックとピーコック飯店にやってきては悩みを語っていた。

 モンタギューはアンバー男爵を継いだクリスティとすでに結婚している。本家の魔術師事務所から独立した兄だが、何人か一緒についてきてくれた魔術師もいたそうで、チェルシーは安心した。二人は貴族街に家を借りて住んでいる。チェルシーのメイドをしていたリズを含め、モンタギューの家の使用人はイブニング子爵家から移動した者が多い。

 約束通り、イブニング子爵領はアンバー男爵領となって、チェルシーの両親は代理人として変わらず領地経営に勤しんでいた。いずれはクリスティか兄か、二人の子どもか、誰かが継ぐのだろう。果物の生産業は会社化する話も出ていた。

 ダンタウン男爵夫人になったマリエッタとは今まで通り仲良くしていた。他の友人たちも、マリエッタを通して交流が続いている。

 ミックの両親は最初は戸惑っていたけれど、すぐにチェルシーを受け入れてくれた。店の手伝いは、忙しい時間の給仕もなんとかこなせるようになってきた。下町での買い物の仕方や、普段の家事なども教わった。料理はミックの仕事だと、本人も義両親も言っている。

 ちなみにミックの兄はまだ帰国していない。いちおうの連絡はあるようで、皆諦めつつ待っていた。

 チェルシーが結婚してからもピーコック飯店で働きたいと言ったから、ミックは実家の近くに部屋を借りてくれた。今日からはそこで二人暮らしになる。

「用意はいいか?」

 突然響いた声はマリエッタの夫、ヘンリー・ダンタウンのようだ。

 ヘンリーは後任が見つかったからとあっさり王立魔術院を辞め、今は個人で魔術師事務所を開いている。辞めてからもヘンリーとミックは仲が良く、チェルシーがマリエッタに会いに行くとき、ミックも一緒に行ってヘンリーと過ごしていた。

 ミックが「聞いてない」と首を振るから、これはヘンリーが企画した余興なのだろう。

「スリー! ツー! ワン!」

 カウントダウンのあと、パンっと手を叩く音がして、携帯花火が上がった。ミックが考案した魔道具だ。

 天井近くまであがった光は弾けて、キラキラと降ってくる。会場のあちこちで光が舞った。天井の照明がもう少し弱ければ、もっと綺麗だったかもしれない。

 チェルシーはマリエッタの婚約披露パーティーを思い出す。隣のミックを見上げると彼もこちらを見ていて、二人で微笑み合った。

 あのときは遠く離れていたけれど、今は隣。腕に添えていたチェルシーの手をミックが握ってくれた。

 あのあとすぐに携帯花火の魔道具は完成したそうだ。特許を取って大手の魔道具メーカーと専売契約したため、こちらも定期収入になっている。――ウォーター劇場の照明がミックの特許だったことは、婚約してから教えてもらった。

 親しみやすい様子からは考えられないけれど、ミックは本当に優秀な魔術師だった。

 チェルシーは基礎学校時代の貴族の友人にうらやましがられることもある。

 定例のように、今度は大きな魔術花火があがる。

 天井の照明魔道具よりも明るい。

 こんなときでも魔術院のローブを着ているミックは、懐から携帯石板を取り出した。

「石板、持っていたの?」

「あたりまえっすよ」

 呆れるチェルシーにミックは水ペンを握らせる。

「さあ、チェルシーさん。花火の魔術陣を描いてください」

 チェルシーはミックに教えてもらい、今ではいろいろな魔術陣を描けるようになった。

 さらさらと描き上げ、彼に見せる。

 ミックはにっこりと笑った。

「結婚して初めての共同作業ですね!」

 彼が呪文を唱えると、チェルシーが描いた魔術陣は光り、起動する。

 大きな光の玉が発射されて、弾けて散った。

 キラキラと降ってくる光の雨の中、ミックはチェルシーを抱き寄せて口づけたのだった。



終わり

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