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3-3

 あれよあれよといううちに滉哉と悠里の家は一度それぞれ家に着いた。


「じゃ、後で!」


 滉哉は元気よく家に入ってゆく。悠里はどこか納得いかないまま、浮かない顔で鍵を開けて家に入る。

 

「手ぶらで行っていいのかな」


 悠里は何か家になかったかなとバタバタと家中の戸棚を開けてみる。すると丁度よく戸棚に羊羹があった。賞味期限もまだ余裕がありそうだし、これを持っていこう。

 悠里は中学校入学を前にして、よその家にお邪魔するのに手ぶらはマズい、ということを、混乱した頭でも考えられるほど常識をよく学んでいた。母があまりにも頼りなかったこともあるが、悠里は周りの声、つまり近所のおばさまたちの井戸端会議やスーパーでの立ち話、学校での行事の際など、様々な場所で行われる大人たちの会話をよく聞いていた。そしてそれを図書館などで確かめ、知識として正しいものを頭に入れていった。

 ふつう、自分の子供がそこまでの気遣いを身につけていたら親は自慢に思いそうなものだが、母は人に迷惑かけない子なら問題ないとほとんど無関心だったし、父は出張なども忙しくなかなか悠里を気に掛ける時間が取れなかったため、彼女の素晴らしさ、ある意味では異常さを知ることがなかった。


 手土産を見つけて少しほっとしながら、本当に突然お邪魔してもいいのだろうか?と考えていると家のチャイムが鳴った。

 インターホンの画面を見ると滉哉がいたので「はーい」と返事をして玄関へ向かう。


「よ。うちは問題ないって。もう行ける?」

(………やっぱり行くしかないのか。まあここまできてじたばたしてもしょうがない。)

「うん、大丈夫」

「よし。じゃ、行こう」


 悠里は靴を履き、玄関のカギをかけ、先に道路まで出ていた滉哉に続く。

 とはいえ斜め向かいの家なのですぐそこだ。二人はあっという間に滉哉の家の玄関にいた。


「ただいまー。悠里連れてきたー」

「お邪魔します。」


 大きな声でただいまを言いながら家へ入る滉哉に続き、悠里も玄関へと足を踏み入れる。するとダダダダッ、といくつかの足音が響き、いくつか年下にみえる二人がやってきた。


「「おにいおかえりーーー!!」」

「友達????」

「だあれ??」

「あたしね、ひかり」

「ぼく、みらい」


 やってくるなり二人が次々と絶え間なく喋る。それはもう驚くほどの勢いで、悠里はお邪魔しますの後一言も発することなく固まってしまった。


「みらい、ひかり、ストップ。悠里がびっくりしてるだろ。」

「悠里、騒がしくてごめんな、これおれの弟と妹。双子で、4つ下なんだ」


 滉哉が二人をなだめつつ悠里に説明してくれる。すると、奥から、


「あらあら、あなたが悠里ちゃんね。いらっしゃい~。びっくりしたでしょう?入って入って」

「みらいとひかりもお客様の前で突然はダメ。ちゃんとご挨拶したの?」


 お母さんらしき人が出てきて悠里に声をかけつつ、滉哉の弟妹をたしなめる。


「名前いったよ!」

「わたしも!」

「そう。。(名前を言っただけじゃあ挨拶とは言い難いと思うけど……)」

「あの、初めまして。斜め向かいの東根悠里です。突然すみません。お邪魔します。」

「丁寧にありがとう。この子たちの母です。うるさいかもしれないけど許してね。」

「いえ、あの、これよかったら……」


 そっと羊羹を差し出す悠里に、滉哉のお母さんは目を丸くした。


「あら、ご丁寧にありがとう。頂くわね。」

「かあさん、それなあに?」

「なぁにそれ、食べもの?」

「羊羹ね。食後にみんなでいただきましょうか。悠里ちゃんにお礼言いましょうね」

「「ゆうりちゃんありがとうーー!!」


 悠里は勢いに押されて、ただコクコクと頷いた。


「さ、いつまでも玄関にいても仕方ないから移動しましょ」


 滉哉のお母さんと弟たちが移動したところで漸くほっと一息つけた。そんな悠里の様子を見て、滉哉は少し申し訳なさそうな顔をしながら声をかけた。


「うるさくてごめん。いつもああなんだ」

「びっくりしたけど大丈夫…。」


 二人は靴を脱いで、悠里は滉哉の後に続いて家の中を進んだ。


 まだお昼になろうかという時間だったが、悠里はすでに長い一日を過ごしたような気分だった。でもそれはしんどさだけではなく、心地良さもあった。よそのおうち、というのは最初緊張しかなかったが、今まで経験したことのないことへの興味と、兄弟という存在に対する驚きとで、ある種のワクワク感を感じていた。



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