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2024年7月21日 投稿
2024年7月28日 加筆修正
ついさっき一人で立ち止まっていた交差点を通り過ぎて山の方へ向かう。交差点の付近は宅地と一緒に綺麗に整備されたようだったが、山に近づくにつれてだんだんと道が細くなり、2つほど交差点を過ぎると整備されてはいるもののひび割れの目立つ古い道になり、そのうち整備されていないものに変わった。そしてさらに10分ほど歩くと、遂には木と石でできた階段のような如何にも登山道の入り口のようなところに辿り着いた。脇には木を削って文字を彫っただけの棒のようなものが立っており、どうやらそこが唯一の山への入り口のようだった。
「ん?これ看板?」
「そうっぽいな。なんて書いてあるんだ?雪、なんとか、社、入口?」
「読み方はわかんないけど、2文字目は兎って書いてある」
「まあ進めば何かわかるだろ」
山へ入るか、引き返すか、そのどちらかしか選択肢はなさそうだ。それほど高い山ではないし、古いながらもきちんとした道があったため、二人とも少し安心してその道を進むことにした。両側に木々が生えているため葉の隙間からしか光が入らない薄暗い道ではあったし、草もそこそこに生え放題ではあったし、人が二人並んで進むには窮屈な道幅しかなかったし、有体に言うとただの獣道ではあった。よくよく考えると、普段人が足を踏み入れない昔からある道がここまで綺麗な状態を保っているというのは不可思議なことだと思えるが、その時の二人にとってそれは思考の外にあった。
じゃあついて来いよ、と言って滉哉がさっさと歩きだしたので、悠里は慌ててそのあとを追った。
「ねぇ、もともとここに来ようとしてたの、わたしなんだけど」
「歩く順番なんてどうだっていいじゃん、ちゃんと足元見て歩けよ」
会ったばかりにも関わらず、しかもどうやら同級生であるにも関わらず、滉哉は面倒見よく悠里をまるで妹のように扱った。悠里は今までこのような関わりをしたことがなかったし、学校の外で会うような友達もいなかったので、これはいったいどういうことなんだろう?と不思議に思った。
「あの、同級生だよ?」
「しってる」
後々分かったことだが、滉哉には少し歳の離れた弟と妹がいるらしく、両親が忙しいときにはよく面倒を見ているので、周囲に対してもその面倒見の良さを度々発揮してしまうようだった。
二人はしばし無言で足を進めた。小さな山というのはその通りで、標高はたった200~300mほどの山だった。そのうえそもそも頂上までたどり着くような道はないようで、20分ほど歩くと山の中腹近くの少し開けたところに辿り着いた。二人とも、更に山の中に進むのは辞めておくべき、という意見だったので、そこで休憩することにした。その不思議に開けた空間には、大きな岩と木に囲われたところに小さなお社がぽつんと存在していた。またその横には、まるで自然に作られた休憩所のように、石の椅子と木々の屋根があり、まるでどうぞここで一休みを、という雰囲気を醸し出していた。
「せっかくだし、お参りしてそこで休憩させてもらう?」
「そうだな」
「どんな神さまを祀るお社なんだろうね。知ってる?」
「いや、そもそもこんな場所があるなんて初めて知った」
「そっか」
悠里は持っていた飴玉を3つほどと、近くにあった大きめの葉っぱにお茶を入れたものをお供えした。二人とも特に信仰深いわけではなかったが、何故かそのときはそうするのが正解だという気がした。そして滉哉と共に石の椅子に腰掛けて、ペットボトルのお茶を飲んだ。疲れているつもりはなかったが、ただのお茶がすーっと体に染みわたるような気がして無意識のうちに「ほぅ…」と息をついていた。緑に囲まれ、木漏れ日を感じるその空間は、とてもほっとするものだった。
「疲れたか?」
隣にいた滉哉に声をかけられてはっとした。
「ううん。おやつ食べよ」
二人は少しの間そこでおやつ休憩をしながらぽつぽつと少しずつ話をして、遅くなると暗くなるし、と家に帰ることにした。
帰り道はまた滉哉を先頭にして、ほとんど無言だった。
それぞれに、いい場所だな、また来たいな、という思いを抱えながら。