プロローグ
2024年7月15日 投稿
2024年7月28日 加筆修正
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景色一面に雪の積もった寒い冬の、天気の良い日に、極稀に現れる雪うさぎ。
悩みを抱える人の前に人知れず現れ、雪解けとともに消えていく。
幻のようなその存在は、その山のふもとの小さな町では脈々と親から子へと語り継がれていた。
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「雪うさぎ様のお社にお参りしている人は、本当に困っているとき、前日にたくさんの雪が降った冬の寒い晴れた日に、お山のお社を訪れると、雪うさぎ様に会える。雪うさぎ様にお会いできた人は憂いや悩み事などなかったかのようにスッキリとした顔になって帰ってくる」
「雪うさぎ様に見放されるようなことはしたらいかん。後ろ暗いことを考えてはいかん。いつも感謝の気持ちをもって生活することが大切だ」
「雪うさぎ様はほんとうにお綺麗だ。この町の誇りだ。わしらがここで幸せに暮らしていけるのも雪うさぎ様のお陰だ」
だが最近では雪うさぎが本当に存在するのか疑問に思う人も増えてきており、結果としてお社にお参りする人も激減、ほぼゼロといっても過言ではなくなり、ここ数十年はもう誰も雪うさぎと出会っていない。お社が小高い丘のような小さな山の中腹にあることも人の足が遠ざかる一因となっているのかもしれない。
昔は雪うさぎ様と巡り合う人もちらほらいたので、その姿かたちも知られていたが、今では噂程度の情報しか知られていない。伝説をよく知らない人々は、雪うさぎというからには白くきれいな毛並みのウサギなのだろうと想像していた。
昔からこの地域に住むお年寄りたちは、もう誰にも本気にされないから雪うさぎ様も愛想を尽かしてしまったんだろう、この町からどこか違う町へ移ってしまったんだろう、そういう風に考えていたし、若い世代はみなただのおとぎ話や昔話の一つとして聞くものと思っている人が殆どだった。
そんな町に越してきた少女がその伝説とめぐり逢い、廃れてきていた伝説が再び人々に認知されるようになる。
さて、雪うさぎ様とはいったい……⁇