8-内
息があがる。
相手の攻撃が重い。
身体にかかる負担の大きさが確実に行動力を奪っていく。
得体のしれない存在。
見えないものに刺されているかのような空間に居合わせて俺は何をしている…。
殺し合いだと…、冗談はよしてくれ。
対峙するだけで疲れてくるのはなんだ…。
なんとか、しないと。
なんとか
不味い。
未だ、眼前に迫り来る敵に対して有効な攻撃を与える事が出来ていない。
一体、どれくらい俺はコイツの相手をしているのか検討もつかない…。
恐ろしく長い時間戦っている気がするほどに。
肘の刃物が迫る。
咄嗟にしゃがむ事によりその攻撃を避け、そのまま膝のバネを利用して刃の勢いをつける。
相手の腰を一文字に切り裂きながら、左腕を切り上げる。
手応え…アリ。
しかし、敵自体には変化はない。
闇が切り裂いた所を覆っただけだ。
だが、今、確実に手ごたえはあった。
左腕を斬った時に、物を切断した重みと感触。
何か、能力があるということか。
考えられるのは闇だ。
あの闇自体が防壁のような役割を担っているのはでないか?
だとしたら、防御力以上の力で斬る事によって…
いや、それにしては芸がない。
何か、ありそうだが…。
『■■■■■―――』
敵が何か呟いている。
恐らく、俺の手ごたえの件。
相手にもわかっているのだろう。
く!
いきなり苛烈になる敵の攻撃。
俺に攻略の糸口を見出させないためか。
右手の振り抜き。肘の攻撃のあわせて、間合いと攻撃時間が長い。
迂闊に攻めれないし、受けられない。
その攻撃を避けるも、相手の第二、第三の攻撃で避ける範囲を指定される。
苛烈な攻防の中で、唯一の救いはコイツが俺しか狙っていないという事。
後ろに避ける事によって王との距離も近づく。
しかし、敵はまったく王や姫を狙う素振りを見せてはいない
まさしく俺だけだ。
何故、そういった行動になっているのか。理解できるわけない。
だが、今、この状況においては
助かる所だ…!
相手は左手も刃物を伸ばし、襲い掛かってくる。
左手からの振り抜きを半身引く事によって避け、肘の攻撃は身体を低くして避ける。
さらに、すぐ来る右からの突きを刀で反らし、相手に肉薄する。
これで、左手の再攻撃が難しくなるはずだ。
俺は逆袈裟に斬り付けようとする。
だが
胸のあたりにでていた突起物が動く。
これは、避けられない!
数本が急激に伸びてきていた。
慌てて受身をとり、刀で攻撃を受け止める。
急所は防いだが、肩や腹などの皮を持ってかれた…。
冷たい感覚が襲う。
次の瞬間、右手からの攻撃が迫る。
瞬時に、身を引こうとするが、刀が何がに捕らわれて動けない。
逡巡する暇もなく。俺は刀から手を離し下がる。
見ると、相手の凶器は変化していた。
突起物ががっちりと刀を固定しているのだ。
拙い。
先ほどの攻撃で脇差も手元にない。
ここで攻められでもしたら。
敵はゆっくりと俺の握っていた刀を手に取る。
何度か振り下ろす。
息を呑む。
音が鳴る。
鋼であろう刀が、空を切る毎に音が鳴るのだ。
『フ。イイな。』
いやいやいやいや。
何いってるのコイツ。
やばい。俺、死ぬよこれ。
俺、死んだよ。確実に。
なんて、思っていたら、敵がいきなり刀を落とした。
『意思。か。』
落ちた刀を忌々しそうに見つめている。
その刀はいきなり、一人でに立ち上がり、俺の元へ。
おぉ…。
手を差し出すとそこに収まった。
軽く自我でもあったりするのだろうか。
改めて構え直す。
しかし
『お前……名は?』
敵がいきなり俺の名前を聞いてきた。
応えるべきだろうか。
逡巡したが
「山瀬だ。山瀬 琢磨。」
『ヤマセ。 我は、ウロボロス。フフ。フハハハハ!!』
いきなり笑い出したかと思えば、全身が闇包まれ、やがて姿は消え去った。
一体、何だったのか…
目的が把握できない。
奴らはこの国と隣国を戦わせたかったのでは、むしろ王や姫を殺す事ではなかったのか…?
ダメだ。
整理が追いつかない。
一体、どうなっているんだよ。
くそ……
深呼吸しよう。
何はともあれ。俺は生き延びた。
これだけは事実。
「ぐぅ…!」
全身が痛む。
冗談ではないくらいに痛い。
「ヤマセさん!」
フィアナの声が聞こえる。
辛うじて意識は維持できているな。
「俺は大丈夫。外の様子を…。」
重要なのはそこだ。
俺は自分の戦いに集中していたために状況が判らない。
「判りました。すぐに。」
そういって、近くで放心状態であったアンス含めた騎士たちに声をかけながら、状況の把握へと走らせる。
「医師を呼びにも行かせました。暫くの辛抱です。」
そういって、優しく微笑んでくれる。フィアナ姫。
美しい限りだ。
しかも、何故か身体が温かい。彼女の力か。
「治癒の魔法?」
「はい。応急でしかありませんが。」
「ありがとう。楽になった。」
「いえ。」
そういって、再度、微笑んでくれる。
この笑顔を見たら、疲労感が押し寄せてきた。
今なら、安らかに眠れる。
「ヤマセよ。今回の働き、良くやってくれた。」
王は真剣な顔をしてそういった。
「奴は何なんですか?」
「闇の騎士とは我らが勝手に呼んでいる名称だ。判っている事は奴が魔族であり、我々を殺し、時には捕食し、この大陸を支配しようとする存在の一部という事だ。」
「あの者は、ウロボロスと名乗りました。ウロボロス。御伽噺に出てくる魔族の一人です。」
なんだって…。
それは、酷い。
「500年前、当時西方で栄華を誇った帝国軍勢との戦いで……。帝国軍勢を全滅させ、死神と恐れられた存在です。」
はぁ…。
ありえんだろう。
それ。
と、いうことは一体多数の戦闘技術を有するということか。
今回は何故、それらを使わなかったのか。
「……。」
「ヤマセさん。貴方はやはり、伝説のお人です。あの死神を一人で退けた人なんて勇者以外には居ません!」
物凄い興奮している気がするんだけどフィアナ姫は…。
遠巻きでは判らなかったか。
アイツの強さは本物だ。
恐らく、遊ばれていたんだろう。
魔法を使う人間すら居るのにだ。
ウロボロスという、とてつもなく強い化け物が魔法を使えないはずがない。
あの闇が魔法でもないとしたら俺はもう、どうしたらいいのか…。
それに、アイツが纏っていた空気、雰囲気…。
足が竦み上がるというのはあのような事を言うのだろうな。
女神様の加護が無ければ俺の人生は異世界で化け物に殺されるという終わり方だったわけだ
これは、課題ができたな…。
戦いたくない。
うん、戦いたくないな。
そうだよ。それが一番。だけど、もう無理だろうな。
はぁ…。
治療室に運び込まれながら、俺は多少なりとも知識を得ることができた。
ウロボロス。と呼ばれる魔族は死神と呼ばれる存在である事は判るし、何故そう呼ばれたかも理解できる。
だが、もっとも欲しかった奴の能力が文献には残っていないという。
なんとも残念な事だ。
御伽噺では闇を操り、勇者を闇の世界へ誘い戦いを挑んだが光の力によって闇を払われウロボロスも消えてしまった。とか。
曖昧だが、一応の共通点は見受けられるのが幸いか。
闇。
あれが問題だな…。
それにもう一つ。
王城で戦っていた者の話によるとウロボロスが消えたと同時に、生きていた魔族も姿を消したそうだ。
これは、恐らく、ウロボロスが撤退を伝えたからではないかと思うのだが
魔族は闇になって消えたそうだ。
関係は思ったより深いと考えるのが妥当だろう。
兎に角、無事に王城を奪還できた事はいいことだ。
タク坊は元気にやっているのだろうか。
取り合えずフィアナ姫と王様。名前はオーラルというそうだ。
二人には俺の経緯を話したのだが
その時かなり狼狽されてしまって。
女神様はこの世界ではかなりの信仰厚い存在だったようだ。
フィアナ姫など
「申し訳ございません!」
なんて、言って猛省するわ。泣き出すわ。大変だった。
謝られてもどうしようもないしな…。
落ち着いて考えるとあの時はい俺が光に飲まれるのは当然だったと思う。
位置的にだが。
兎に角、俺の目的を話したら、玉はこの国にあるということで。
貰う事になりました。
いやぁ、意外に最初の一個早く見つかって良かったよ。
俺が持ってても意味ないけど。
確約できたことは良しとしよう。
タク坊を探しつつ旅にでても、タク坊がここに訪れた場合は王から渡せるし。
旅先でタク坊と会えれば取りに戻ればいいしね。
それに加えて、なんでも、ローランド王国という国にも国宝としてあるらしい。
オーラル王が使者を送って交渉できるか確認してくれることになったのは有り難い…。
まぁ、暫くはここに居ても差し支えなさそうなので、ここにお世話になりますかな。
衣食住は確保。
後は情報だな。
書庫があるらしいが、俺は字が読めないので
字の勉強もしなければならない。
それに、腕も鍛えないと。
精神的にまだまだだと感じる。
身体の中に、自分以外の誰かがいる違和感を覚えるのもそうかもしれない。
経験や技術が一瞬にして自分に馴染むわけでもない。
それがある種、別の個として俺が認識しているのかもしれない。
はぁ…
やる事が一杯だ。
タク坊
お前は大丈夫か?
俺はもうダメかもしれん。
なんというか。説明的な部分を直さないといかんな。書けないけど