表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
掌で踊る  作者: 泰然自若
7/18

6-悟

 

  

 視野が開ければそこは石造りの空間だった。

 状況を確認する前に俺の全身は空間に張り巡った殺気により敵対行動を優先する事となった。

 

 目の前で凶刃が少女に襲い掛かる瞬間。

 地を蹴り、己の刃にて、人間を斬った。



 それが、始まり。

 
















 俺の前にいる少女達。

 達といっても少女以外は護衛の者だ。

 俺としてはそいつらも信用してはいない。

 何せ、ほぼ初対面だし。



 面倒な事になったな…。



 俺が召喚されたのは、まさしく少女が殺される手前であった。

 諸々、聞きたい事はあった。

 だが、状況がそれを許すとは考えれず、まずはそこから脱出する事を優先した。

 

 故に、現状の把握を疎かにしてしまっている。

 少なからず、襲撃者は少女を守る護衛と装備の差で判断できたのが幸いであった。

 今は逃げる事を優先しているので敵との交戦を極力避けつつ

 召喚の儀専用の神殿とやらから王城へ移動していたのである。



 何故、この少女。というより王女様が狙われるのか。

 聞こうにも、今は要り込んでいるので後回し。

 予測としては、お家騒動とかかな?



 そんな、こんなで王都が見えてくる。

 馬でもあればよかったのだが、相手がこちらの移動手段を残しておくはずは無いだろう。

 本当は、道沿いに移動したくもなかったのだけれど、生憎と周りは平野で隠れる所がない。



 故に、徒歩であったし、早く移動した方が得策だろうという判断からだ。

 ついでに俺は、後方と前方に気を使いすぎてもうヘトヘトです。



 っと。前方に何やら、人だかりがあるな。

 小高い丘から緩やかな傾斜になっている道の先、王都の門から決して少なくない数の人間が



 取りあえず、申し訳程度に端に生えている草に紛れる為に背を低くする。



 あれは軍か?

 敵か味方か。

 どちらだろう。

 まぁ、少女達の様子を見れば判るが味方だろう。



 ちょっと、隠れてるの俺だけっておかしいよね。

 恥ずかしいじゃないか。



 それにしても、安易だな…。



「待ってくれ。あれが完全に味方とも判らん」



 そう言って、行動を制す。

 護衛の方が心外とばかりに意義を申し立てているが関係ない。

 俺は、死ぬつもりはないし。

 目に見えて怪しいものにはなるべく慎重に行動したい。



「いえ、ヤマセさんの言う事は判ります。」



 意外。

 王女様は箱入り娘で、なんというか世間を知らないというか。

 まぁ、兎に角偏見があったのだが。



 とにかく、相手にバレていないような気がするので、道を逸れる。

 姫様には悪いが草に身を隠しながら、護衛の者をあの集団に近づけさせて様子を見るしかないな。



「今回、私が召喚の儀を行なうことを知っている者は元々、少ないのです。」



 つまり、王の側近あたりにも裏切り者がいる可能性が高いか。

 取り合えず、姫様は俺の考えに快諾してくれたので、草むらへと移動を開始する。



「城が落ちている可能性も否定出来ない訳だな。」



 俺の呟きに少女、もとい姫様の顔が歪む。

 そういえば、王女なのか姫なのかわからないな。

 ん? 王女と姫は同義語か?



 まぁいいや。



 目的は姫様の暗殺だけか。もしくは



「…はい。」



 落ち込んだ顔もまた綺麗だな。

 しかし、先ほどから、護衛の一人が非常に殺気をもらしているのだが



「おい。」



 そういいながら、一歩の踏み込みで王女と隣り合い抜き身で相手の攻撃の機先を制する。



「俺は、この国の事など、まったく知らない。その中でこの騒動に巻き込まれた。」



 ここで、一旦間を置く。

 取り合えず、護衛の中でコイツだけが裏切っていたようだ。

 姫様と残り、元々3人いたうちの二人が驚いている。



「状況を把握したい。貴方にも理由ある反乱だろう?」



 そういいながら、ゆっくりと姿勢を正す。

 姫様を背後に移しながら、相手を見据える。

 殺気を漏らして近づいてきた護衛は静かに俺を見据える。

 声を出すわけでもなく、襲い掛かるわけでもなく。



「姫様、私は今まで王に絶対の忠義を持ち、行動してきました。」



 男は静かに足を折り、跪く。

 警戒を解くわけではないが、刀を鞘に納める。

 おそらく、また行動を起こすだろう。

 戯言を聞いてみるのもいいものだ。



「お気づきになりませんでしたか? あのお方は、何故この時期に、西方への進出に乗り出したのでしょうか。」



 ゆっくりと吐き出されていく言葉。

 姫様に、語っているために俺にはまったく判らん。

 というか、俺に説明してくれと言ったんだけど。

 まぁ、いいか。

 姫様が真剣に聞いとる。



「今回の進軍には軍団会議でも承認された正式なものと。」



「今、西方には魔族が勢力を強めております。いずれ、魔族との大規模な戦争になるでしょう。」



 話が進まないな。

 ようするに



「時期尚早ということか。言うなれば、今は魔族に構う必要性もない。」



 俺の言葉に男は静かに頷いた。



「さらに言えば、魔族が集団化している地方はアウグス山脈の連なる地方です。」



「そのような、遠方へ…。」



 姫様もなんとなく理解しているようだが

 俺としては、遠かろうと害をなす根源と断つなら良いとは思うけど。

 つまるところ、この国の近くに不安材料があるわけかな。

 隣国とか?



「隣国とは不可侵条約を結んでおります。しかし、彼らは異民族国家。過去にも…」



 過去にあったのかよ…。

 ならば、今回の王と軍部とのやり取りでスムーズに事が進みすぎたのか。

 だが、それでは



「何故、反乱など起こす必要が?」



 ここまで大規模な動きをすれば、たとえ西方に進出せずとも国は揺らぐ。

 結局、何がしたいのか良く判りはしないが。

 取り合えず、コイツがどうしても姫様を殺したいという事か。



「それは…」



 男はそういい、跪いた状態から剣を抜き、そのまま斬りかかってくる。



 反応はいい!



 後手に回りながらも、鯉口の状態から前に出る。

 刃を合わせながら、抜刀。すると



「なん…だと。」



 剣を切り裂いた。

 俺も驚いた。

 


 兎に角、平静を装う!



「何故、殺す必要がある?」



 やれば出来るものだ。

 結局、コイツが変な事を言うだけで大した情報を得られなかったな…。



「貴様…。人間か?」



 男が呟く。

 嫌な予感がした。



「護衛の二人は捕縛用の縄とかもってる?」



 持っているらしい。

 取り合えず、縛り付けよう。



 そう思った瞬間。

 ドス黒いものが噴出した。



 男が闇に飲まれる。

 そうして



「消えた?」



 男が居た所には装備していた鎧や衣服などが落ちているだけだった。



 一体、何が何やら。



「これは、一体?」



 俺は取り合えず、この世界の住人である姫様に聞いてみる事にした。



「え、あ、は、はい。 これは…魔法の類ではないかと。思います。」



 …魔法か



「あの、ありがとうございます。ヤマセさん。」



 打算的に考えると、今後の寝床とか拠点として王室あたりに居候できたらいいな。

 なんて、考えていたりして。



「いえいえ。」



 とにかく、話を進めなければならないな。

 男が闇になって消えたというのは事実であり、これが魔法である可能性が示唆された。



 姫様が襲撃されたのも事実だ。変わりない。



「今の、男が魔法使いであったとしても、姫様が襲われたのは事実であり、王城が危うい可能性もある。」



「…はい。」



「それに、一兵士があれほど、大規模な行動を扇動できるとは考えにくい。もし本当に反乱が起こっているのなら、相応の人物が黒幕だという事が考えられます。」



 一兵士が動くには限界があるし、兵士間で動くにしても数がかなりだ。

 神殿で相手にした奴らは10人程度ではないからな…。

 それに、今消えた男と神殿で戦った兵士達は鎧に違いがあった。



 姫様に確認した所。あれは神殿の護衛する兵士のものである事は間違いないそうだ。

 召喚の儀の際に配置されていたのが全部、敵だったというのはひどい話だ。

 結局、儀の間外で待つ護衛の者と合流するまで大立ち回りを一人でせねばならなかった。



 兎に角、それから考えるに、二つの部隊ないし複数の団体が関与している。



 端的に言えば、部隊の中に裏切り者がいた事になる。

 神殿にいた奴らはそれほどの人員…だったはず。



 となると



「この件に王室の側近あたりは確実に絡んでいるでしょう。そいつが黒幕か。もしかしたらさらに後ろ盾があるかもしれません。」



 最悪なケースを想定するのなら、反乱は事実だということ。

 加えて王城は今、戦闘状態に入り既に王は討たれているか。



 もしくは姫様の暗殺だけを視野に入れた行動だったのか。



 あくまで、推察の域を出ないものだ。

 まぁ、危険だけど、動かないと情報が判らないな…



「危険ではあるが、今は向こう側の情報が欲しい。護衛二人には味方として向こう側へ潜ってもらえないか?」



 突然の提案に困惑の表情をする。



 しかし



「やります。」



 比較的若い方の男が頷いてくれた。

 いいね。若いって。正義感溢れているよ。



 護衛の二人。

 最初に頷いてくれた方は、アンス。という名前でしぶしぶ了承してくれたほうがバルテル。

 いや、まぁしぶるのも判るけど自分の国の問題だしね。



 そんなやり取りをしていたが馬の駆ける音が轟く。

 どうやら、かなり接近されていたようだ。



 これは、バレるかな?



 しかし引っかかる。



 何故、彼らは神殿に向かうのだろうか。

 姫様を殺したかどうかの確認?

 暗殺のための援軍?



 それとも

 安否確認のため



 後者であってほしいな。

 そうなると味方である可能性が高いし、姫様暗殺のみというのが信憑性を帯びてくる。



 だが、あくまで可能性だからな。

 どうする。



 少しだけ顔をあげる

 馬の集団が見えてきた。



 どうする。

 行くか。


 行くのか?



 どうする。



 どうする。俺!






一体俺は何がしたのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ