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掌で踊る  作者: 泰然自若
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「なぁ、あんたは日本人に恨みでもあるのか?」



 男の声が響き渡る。

 それと、同時に足音も。



 辺りは真っ暗闇で何も見えない。



 しかし



 闇の中にありながらも、その黒は存在感を持ってソコに佇んでいる。

 くっきりとした輪郭はない。漠然と四肢が判る程度の人型。



「いきなり、何を言う?」



 対角線上から低く、掠れた男の声が聞こえてきた。

 老人だということがその一声で判るほど、わざとらしさすら感じ得る声。



「今回の件も、俺の件も。あぁ、その他の件も追加で、諸々だよ。判るだろ?」



 黒い存在感。漆黒の闇の中でさえ、黒は見えるのだろうか。

 兎に角、その黒は機嫌が悪いようだ。



 その声には軽く怒気にすら含まれている。



「何時だったか。答えたはずだ。あれで納得したと思っていたが?」



 老人の声は、対照的に、もう興味を失っていた。

 何やら、受け答えの他に作業をしているのかもしれない。



「ちっ。相変わらず、自分の行いに関して本当、関心がない爺だな。アンタの気まぐれでどれほどの人間が、巻き込まれて壊れたか。」



「巻き込んだのではない。必然による当然の結果だ。そこに偶然が介在する訳がなかろう。」



「必然…ね。あぁ、そうだ。聞いたわ。」



 老人のすぐ横で、黒は止まり、膝を折る。

 そうすると、闇の中に椅子があるかのように腰を落ち着け

 背もたれがあるように背中を預けている。



「それより、良いのか?」



「あ?何が。」



「片づけはせんのか?」



「問題ない。結局、俺が掃除するんだからな。今更、肥溜めにゴミが増えようが関係ない。」



「ふむ。そうか。」



「なんだよ。珍しく、興味を持つじゃないか。」



「面白いものに興味を持つのは当然のことだろう」



「アンタが面白いものを見つけるなんてな…。嫌な予感しかしないわ。」



「闇よりも黒い光。」



「ドス黒いものは皆、持っているものだ。今更何を言うか…。俺から言わせてもらえばアンタほど黒い奴は居ないぞ。」



「黒の行き先。使い道。」



「…。ほぅ、俺も興味が湧いて来たな。知らん話のようだ。」



「上を見上げる事に慣れてしまう者は良い。だが、目指そうとする者は?」



「まぁ、観光くらいなら許容範囲だろう。何かの神話宜しく羽を焼かれて死ぬような事になりそうだが」



「それが、面白いのよ。」



「はぁ…。判ったよ。色々回るさ。所詮、俺も道化みたいなものだ。」



「ほぅ。自分で道化というほど、巧みになったのかえ?」



「…。無駄でもいいが、やはり、アンタは殺しておきたいわ…。」



「良かろう。何時でもいいぞ。殺してくれるのなら。ただし、抵抗はするぞ?」



「抵抗せんでも殺せないのに、抵抗しようとするな。アンタの抵抗は世界が滅ぶぞ。」



「大げさなもの言いだな。」



「本当に、アンタは自分に関しては無知だな。」



「己ほど奥深い存在がないのは事実であるがね。」



「はぁ、そうですか。俺は兎に角、アンタの面白いものでも見に行こうかな。」



「壊すことはするな。」



「判断は俺がする。」



「お前には、まだ無理だからのう。簡単に壊してしまう。」



「何が…言いたい。」



「未熟なのよ。」



「あぁ、はいはい。判ったよ。」



「まだ、若いのう。」



「アンタに比べればな…。」



「気に病む事はないぞ?」



「何も言ってない」



「お前の事など、お見通しだ。顔に出ておる。」



「顔…ねぇ。」



「顔無しに、顔が本当に無いとでも本当に思っておるのかえ?」



「難しい問いだな。無い…ようである。あぁ、存在はしているさ。」



「また、そうやって難しく考えよる。ハゲても知らんぞ。」



「相手にすると本当疲れる爺さんだ…。」



「やはり、お前には爺か女子か。」



「女はやめろ。気持ち悪い。」



「傷付くのう。自覚はしているがな。」



「はぁ…。無駄話が長くなるな。おい、探すのが面倒だ。教えてくれよ。」



「少しは働こうとせんか。」



「アンタよりは動いているぞ。こっちも大変といえば大変でな。」



「なんだ。」



「もう少し、まともな……必然的な人間は来ないのか?」



「愚問だのう。」



「うるせぇ。」



「どうすることもできんよ。必然だからのう。」



「期待するさ。アンタの小手先に。ほら早くしてくれ」



「ふむ。まぁ、仕方ないか。」



「…ここか。面倒なんだよな。」



「だから言っただろうて。お前はまだ未熟故に簡単に壊してしまうと」



「己の力量を知っているから、そういう手段に出ていると言ってほしいがな。」



「力量の昇華を望まぬのもどうかと思うがね。」



「…。」



「気張るがいい。」



「了解。見るだけだ。今は。」



「お前が直接行けばいいだけだ。」



「あ?」



「ほぅ。死んだのを認識できなかったのか。」



「何を言っている?」



「おおぅ。そうかそうか。面白いのう。」



「おい。」



「兎に角、お前が動かなければならないな。」



「………。死んでいないな?」



「ほぅ。」



「だとしたら、相当だな…。喧嘩っ早いのは自覚しているが相手の技量を推し量れないわけではないぞ。」



「未熟故に。」



「何でも、その言葉を言えば、納得するなんて思うなよ。」



「事実ではあるのがのう。」



「かぁ…。面倒くせぇ。」



 そう呟きながらも、黒は立ち上がる。

 背伸びをしているように黒が伸び上がりを感じさせた。



「早よう往け。」



「判っているよ…。あぁ、難儀だ。」



 声は動く。

 黒と共に。

 やがて、全ては静寂へ。




暴走。


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