1-事
小さい頃、幽霊らしきものを見たことがあった。
もう、何十年も前の話。
だったんだがな。
時間は10時を回っていた。辺りは薄暗いし、季節は冬だ。寒い
こんな季節はずれにそんな幽霊なんて見るわけがなかったはずなんだけど。
ここ最近、10月に入ってから度々目撃してしまっているから性質が悪い。
姿形は、小さい子供。小学生か中学生あたりのように思える。
兎に角、白い。そして、寒いのに白いワンピースを着ているのもあるが
人通りが少ないわけでもない道沿いなのに
俺以外まったく関心を持っている様子がない。
これは、俺しか見えてない=幽霊確定だろう。
とても出そうな所ではなかったし
ここらに一人暮らしを始めて5年くらいにはなるが
子供が絡む事件なんて、なかったと思ったんだけど。
後ろ姿しかみていないので、顔は見ていないが服装から女の子であるだろうけど。
特に、何をしてくるわけでもないし、何度か見るうちに慣れてしまった。
ちょっかいを出さなければ良いだろう。とね。
だけど、目の前の光景をみると放っておけない気が。
幽霊が出現する所はあるビルとビルの隙間なんだが
今、まさにそこへ少年が入り込んでいったのだ。
誰かに引っ張られるようにね。そして、少年と目が合っていた。
これは、霊界とやらにでも引き込まれたか?
助けに行くべきか。いや、相手は幽霊だぞ…民間人の俺が一体どうしろと…
暫く、右往左往していたが、思い切って隙間を覗き込む
うわぁ。暗いのに仄かに明るくて状況がわかる…。
なんだよ。ここ本当にビルとビルの隙間か?
なんというか既に非常識な事が連続して起こっている事が可笑しくて
楽しくなってきた。
行きますか。恐怖心なんて微塵もなくなり、あるのは好奇心のみである。
日々平穏がいいとか言っていたが、刺激もなければ平穏の有難みは判らんもんよ。
狭い隙間なので、身体を横にしながら奥へと進む。
数分もしてないだろう。行き先が今までよりも明るい。
広い所にでも出るのだろうか。俺は警戒しながら近づく。
目の前は、何故か建物の内部だった。暗いながらも白い壁や床だということが判る。
何処から、光が漏れているのかすら判らない。
冗談。こんな神秘的な建造物がこんなビルの合間に作れるわけがない。
引き返そう。ダメだ。ここに来て恐怖が沸いて来た。
だけど、遅かった。
今まで歩いてきた隙間は消えていて、いつ間にかその建物の壁が広がっていた。
鳥肌が立った。後、尿意も。不味いね。
こんな、歳で…。我慢だ。我慢しろ。
そんな葛藤をして、現実逃避しようとしていたら
子供の声が聞こえた。
おぉ、少年か?
もう、俺は、小さい子供にすら縋りたい気分。一人は嫌なのよ。
綺麗な四角部屋の中心に螺旋階段が鎮座している。
反響した少年の声は上からだろうか。緊張しながら階段を昇る。
昇りきったら、正面には巨大なガラス窓があった。とてつもなく大きい。
そこからは淡い光が差し込み、二つの小さい影を作り成していた。
何やら、話している。
どうしよう。俺、完璧部外者だよね。流れ的に
「本当?」
少年の縋るような声が響いた。
何やら、真剣な会話のようだ。幽霊と…真剣な会話?
まさか、呪術的な? それとも転生的な?
あの白い幽霊は少年の姉なのかもしれん…深い…これは深い。
そんな事考えていたら、何か気配が集まってくるのを感じた。
ぞわぞわ。あれだ。虫が這って集まってくる感じに近い。
鳥肌モノだ。俺はゆっくりと後ろを見た。
「………」
俺が居た。後ろに真っ黒な俺が
「なんぞ、これ!」
思わず叫んだと同時に殴りかかってきた。
避けようと思ったが、尻餅をついてしまった、だが、それでなんとか回避!
這いながら、距離を開け、体制を建て直しながら振り向く。
目の前に居ました。
俺が、両腕を出して殴りを防御しようと思ったら、黒い俺が吹き飛んでいた。
振り向くと白い女の子の腕が放電してた。あり得んわ。それ
「下がって」
冷たい声だ。背筋が凍った。言われるまま彼女の後ろに下がる。
「さっきの、おじさん?」
おぉ、少年。目が合ったのを覚えていたのか。
嬉しいぞ。おじさんではないけど。
「坊主が気になってね…。着けてみたら、このザマさ。」
自嘲です。ハイ
そんなやり取りをしていたら、黒い俺以外に、何か大量の黒いものが…
なんですか。あれは
すると、少女がこちらを向いて何故か俺に鍵を手渡してきた。
真っ白い肌に白い瞳。だけど、何故だろうか。
先ほどの声のような冷たさは消えていた。
無言でそれを受け取る。
それと同時に黒い集団が飛び掛ってきた。
「うわ!」
少年が俺の脚にしがみ付く。よしてくれ。俺も誰かにしがみ付きたい!
少女が両腕を差し出す。
これまた、白い何かが現れ、黒い集団はそれを打ち破れないでいる。
バリアか! バリアなのかそれは!
鍵を使い成さない。
声が響く。女の声が聞こえた
鍵。今、貰った鍵をどう使えと?
まさか、これ以外に鍵があるというのか!
と思っていたら、何故か知らんが、少女の背中に鍵穴があった。
え、何それ…怖いんですけど。
挿して良いのかな?
「これ、ここでいい?」
一応、聞いてみた。
少女は頷いてくれた。
よし、挿し込んで見る。
どっち回しだ
俺の逡巡に、少女は律儀にも右腕をあげてくれた
即座に鍵を回す。
ガチャ
真っ白い世界に包み込まれた。
いや引きずり込まれた?
坊主、いるか?
感覚すら無い。声は出ているのかすら判らない。
だけど、その空間は一瞬だったようだ。
感覚が戻ってきたのが判る。
それと同時に、振動が全身を揺さぶった。
「な、何?」
坊主はずっと俺にしがみ付いた状態だったようだ。
「判らん。離れるなよ。」
と言った瞬間。
「うを!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
落ちた。
プロットはない。