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掌で踊る  作者: 泰然自若
17/18

15

疲れた。

「その話は本当か。」


「は、はい!」


「ふむ。そうか…。いや、すまなかったな。真っ先に事情を聞くべきだったのだ」


「い、いえ。自分達が名乗り出ていればよかったのです!」


「貴重な情報に礼を言う。して、従者はどの監獄にいる。」


「はっ。確認を取らせましたが、軽犯罪者収容の集団監獄へ投獄されております。」


「ふむ。個室へ変更だな。兵を多めにつけて、事情を聞こう。」


「はっ!手配します。」


 退室する兵を見送った後、私はため息を漏らす。

 馬鹿だったのだ。

 使者についてきた少年を確保しておきながら、従者をあの混乱の中で重要人物にあるにもかかわらず、まったく関係ない所に投獄し、あまつさえ、今までただ二人を除き忘れていたなどと。

 これは、投獄手続きに対する改正が必要だな。


 しかし、今は後回しにするしかない。

 少年は未だ寝たままだ。だが、進展があった。

 昨日、会議中にベルシュタインの先行隊。といっても単騎であったが。

 兎に角、兵士が一人城へ来た。ワイバーン諸々の飛行許可は出してあったが

 他国の、それも使者を送った所のワイバーンだ。警戒態勢をとらせると共に

 竜騎士隊を飛ばせたほどだ。


 だが、良い情報を得られた。

 ベルシュタインも魔族の襲撃を受けたという。噂は本当だったという事だ。

 それに加えて、少年は女神の加護受けている者で門を閉じるという役割がある。

 これは、正直信じがたい事だが、可能性の一つとして残しておく。

 後日、もう一人、加護を受けた者が来るという。


 これにより、犯人が少年から魔族に転換しつつある。

 警戒を解く事はできないが、少なくとも、処刑日程はずれ込むだろう。

 無罪が確定すればそれをすることもなくなるが。


 そうしてもう一つの情報。先ほどの従者の件。

 さらにいえば、当時従者と少年の居た部屋を警備していた二人の衛兵だ。

 二人の証言によると、少年がいきなり部屋を飛び出し謁見の行われている方向へ走り出したという。

 慌てて追いかけたのだが、どういうわけか、意識が朦朧となり気絶。

 医師の判断は聞いた。だが、信じがたい。

 診断を下した本人も信じていないそうだ。

 瘴気。瘴気の存在が確認されたのだ。

 いや、瘴気としか呼べないような魔力の空気が二人を侵食していたのだ。

 魔力が人を蝕む。呪術でも不可能な現象だと医師は言った。

 どれほどの魔力を持つ生物があの謁見の場に居たのか。

 私は想像も出来ない。御伽噺に出てくるような化け物だろうか。


 だが、魔族が犯人だとするにしては証言が弱い。彼らは意識が混濁し目を覚ましたときに

 自分が誰かすら判らず、一種の錯乱状態にすら陥ったのだ。

 妄言だという意見も出ている。私もそれを否定するわけにはいかない。

 呪術に我々の知らないものがあったのかもしれない。

 雁字搦めに思えるかもしれない。だが、今は慎重に動きたい。


 そのために犯人特定を急務としながらも、後継者選出を最優先にしている。

 そうそうに王が病死したと公にし、国葬を行う。

 その後、新王を置き、表向きの政治体制の確立を目指したいのだ。


 だが、ここに来て、頭の痛い話であるが貴族が喚きだしたのだ。

 利権に絡みたい一心に。自分の欲望のためだけに。

 殺してやりたい。奴らは外見を着飾ったただの糞袋だ。

 素直にそう思える。そうした奴らによる。跡継ぎの担ぎ上げが多数。


 そう、王子が2人居るのだ。王女も3人。

 本来なら長兄だ。健康であったのなら。

 長兄は病弱で今は病に臥せっている。弟に三女次女が8、9、10歳。

 貴族どもの操り人形にされるのがオチだ。教育にもまだまだ時間がかかる。

 消去法では長女だ。女王にすれば、良い。かつてこの国でも女王は存在していた。

 受け入れやすいだろう。

 しかし、糞袋どもはそれに群がった。文官どもがしっかりしていないもある。

 武官の我々が外部の敵に目を光らせなければないのもある。

 だが。

 それでもなお。

 こうも人は目先の利権にしがみ付けるか。周りを気にもせず。

 糞袋どもはさらにこの機会に反乱を起こし、自らが王になろうと画策する馬鹿も出始めている。

 動きが丸わかりなのだ。ギルドに声を駆け、私兵、傭兵を集める。

 その動きを見せた者達は捕縛し、最悪は暗殺を行う予定だ。


 その内部の腐敗に業を煮やし、元帥以下の衛兵などの兵卒を指揮する将官による蜂起も検討された。

 軍団会議では実際にその議論も成された。一時的に軍部による国家の統治だ。

 だが、それについて各兵軍団長ならびに我々各騎士団管区長以上が反対に回った事により、否決はされた。

 会議において、階級はさほど問題ではないのだ。

 今回は軍事会議でもないのだから、尚の事であったのが幸いした。

 だが、早急な対応は必要という声を我々があげ、来るべき女神の加護を受けし者の話を考慮し

 その後、軍部による一時的な統治権を考える事。

 そして、王子、王女の保護を軍団会議で決定されたのだ。

 既に我々クラウス騎士団の従士を動かしてあるが。

 多少のいざこざは仕方ない。


 この際、各文官から批判はなかった。

 苦虫を噛み潰した顔ばかりだ。己の不甲斐なさを呪ったか。

 はたまた、軍部にでかい顔されたのが気に食わなかったのか。

 何にせよ、後手に回らざるを得ない状況だ。


 この機に、内部の糞を掃除できればいいのだが、それほどの手腕を発揮できる存在が消えた。

 こんな時に、王の性格が仇となる。これも、定めなのだろうか…。

 王は、信頼できる文官を手元に置いた。何かあるときは必ず。

 ベルシュタインからの使者だ。王はいつものように、主要な文官を集めて会った。


 仕方のない事だ。

 その時


「入れ。」


 見知った部下が扉を開け入室する。


「加護者が来ました。それと、女神の巫女も随伴です。」


「…そうか。」


「既に、各官達には」


「宜しい。私も向かう。各人、気を引き締めて掛かれと。」


「はっ。帯剣許可は既に元帥閣下が厳命されております。」


「無駄な厄介だったか。」


「我々はどうしますか。」


「従者を出す。少年の安否確認もするだろう。警戒に当たれ。責任は私の命で持つ。」


「はっ!」


 事態の好転を望むばかりだ。






 ???






 なんとも仰々しい。当たり前ではあるが、緊張してしまうな。

 ワイバーンを休ませずに飛ばしたためか、三日ほどで到着する事ができた。

 王女を連れているのだが、迅速な行動を求められているし、本人の了承の元、王都から一番近い街シルキアで宿をとり、風呂に入った以外は野宿で強行した。最も、姫様自体は楽しんでいたので、経験がありそうではあったし、野営も手慣れていた。

 まぁ、聞こうとも思わなかったのだが、便利で良かった。


 ローランドの王都城門前で、降り立ち、事情を説明して入城させてもらうまでのわずか数十分で俺は姫様を連れてきて良かったと思えた。

 何せ、警戒度合いが非常に高い。当然ではあった。

 ここに俺がたった一人で来た場合はどうなっていたことか。

 兎に角、今は王城の一室に案内してもらっている。

 アンスには会っていないが、無事のようだし、タク坊に関しても今は牢屋に入っているが健康ではあるそうだ。

 その報告を聞いて俺は、とりあえず、安堵した。

 だが、まだ気を緩める事はできない。

 この報告を聞いて疲労感が襲っては来たがまだこれは始まりだ。


 はぁ、本当、面倒事ばかりやってくる。


 一室に案内されるとそこは、会議室のように、大きなテーブルが中央に置かれており、その周りには多くの人間が座り

 その後ろにも何名も控えていた。

 護衛は30名ほどか。座っているものも腕の立つ人間が多いな。


 空気から察して、相手も警戒はしているが、情報の方が優先といった感じだな。

 これで、俺も安心できる。罠の可能性は無くなった。


 最初に口を開いたのは王女であったフィアナだ。

 今回の出来事について深く陳謝した。謝っておかねばならないからだが。

 それと、ベルシュタインで起こった事の説明。

 そして、俺の紹介とローランドで起こった事との関係性の示唆。


「つまり、魔族が我々人間に対して攻勢に打って出てくる。という事か。」


「可能性は十分に。」


 姫様は俺との出会いが事件の時だったので、そこから己の不甲斐無さを悔やみ、勉学に勤しんでいた。

 今では、文官の話し合いに参加し、少しずつだが、意見を言い合えるようになっている。

 頭が元々良かったのだから当然だろうけど。


「もう、起こってしまった事だ。貴殿らに非がないわけでもない。だが、妥協しなければならない状況だな」


「此方側も情報を提供しよう。」


 その言葉の後、壁際に立っていた騎士の一人が前に出てくる。

 この騎士の説明によると、ルーギットという街で使者が襲われ、それを助けたお礼からタク坊は使者と一緒にここまで来たという。

 どうして、王都に来たかったのか。


 まぁ、玉をなんとか手に入れようとしたための行動だろう。

 俺はそう答えると共に、女神から提示された条件とタク坊に関する情報を与えた。

 ここで、曖昧に濁すよりは潔白のための情報を与える事が先決だろうと判断した。

 場の全員が納得したかは判らないが、一応、タク坊が魔族に加担している可能性はない事を説明できた。


「気になるのは、アセナの存在だ。」


「そうだ。アセナはこの地に古くから住まう魔物。村や街では崇める所もあるほど強力な力を持つ存在だ。」


「アセナの群れは人を襲う事はあるが、理由無き殺しはしないと聞く。今回、ルーギット周辺で暴れている狼との関連性は?」


「現在の所、アセナの群れは確認されていないのは事実です。」


「だとすると単体で、人間の前に姿を現したという事か。」


「道化…。可能性はある。」


「あぁ、アセナほどの魔物だ。逆に信憑性が増す。」


「…。使者が魔族であったという事ですね。」


「人間に化ける魔族…。」


「危険すぎる。」


「その通りだ。疑心暗鬼になり、魔族が直接手を下さなくとも、内部から崩す事ができる。」


「しかし、何故だ。使者が魔族であったとしても使者の遺体は確認されているのだろう。」


「ぬぅ。確かにそうだ。だとするのならば、ベルシュタインで現れたウロボロスがここにも。」


「それが、一番高い可能性か。奴には闇になる能力があるようだからな。」


「使者を操っていた可能性もある。」


「ふむ。」


「これについて、深く議論するのはここまでにしよう。我々にはする事が多い。」


「そうだな。そうであった。」


 話を切り替えたな。恐らくあの人が流れを作る役どころか。

 見た所、かなりの武芸者であるが、何より驚くのが女と言う所だ。

 綺麗。というよりも、洗練された人間だな。スポーツ選手とはまた違った雰囲気を持っている。

 いやぁ、しかし。ポニーテールか。良いね!


「何故、魔族はベルシュタイン、ローランドを襲ったのか。」


「考えられる事は、この地を足がかりに世界征服へ乗り出す気か。」


「二国には互いに玉と呼ばれるものを国宝として保管している。この玉を盗む事が目的だったのか。」


「王を狙った理由としては前者か。」


「いや、後者も同じだ。」


「王族でしか、あの神殿には入れないからな。」


「うむ。」


「両方、という可能性があるな。」


「ウロボロスなどと言う、化け物を送り込んできたのだから。か。」


「ならば、どうする。玉はまだあるのだろう。」


「都合が良すぎはしませんでしたか。」


「ん。何がだ。加護を受けた者よ。」


「山瀬。と言います。都合。二つの事件が起こった時に共通する事はいくつかあります。」


「王城で王族が狙われた。そして玉を…」


「最も、大きな接点はそこではありません。」


「………女神の加護を受けた者。」


 ポニーテール。頭が良く回る人のようだ。

 いや、元々自分の考えの中にもその選択肢が介在していたという事か。


「はい。私自身が言うのも変な話ですがね。時機が合いすぎるかと。」


 俺の発言に人々が揺れる。


「つまり、君は何を言いたいのかね。」


「魔族は我々が狙いだったのではないか。という考え方も出来るかと。」






 ???






 私は目を細める。目の前に整然と着席しこの議論の渦中に飛び込む。

 この男。珍しい風体だ。黒髪に黒い瞳。

 女神の加護を受けた者だという事は嘘ではないだろう。

 今まで多少の疑いを持って見ていたが。

 この男、ヤマセといったか。頭がキレるだろう。そして剣術の腕もまた…。

 魔族が、加護者を襲撃する利点はなんだ。

 共通項であったとしても、奴らには利点がない限り、事を荒立てる必要性もない。

 先ほどの話にあったように人間に化けて行動していけば…。


 門を閉じるのを防ぐため?

 安易だ。そんな当然の事を危険を犯し、あまつさえ、魔族からの能力を簡単に露見させる。

 それに、ならば何故、我が国の王を殺した。

 アセナ?いや、無い。

 アセナは恐らく、何かを伝えるためだけに姿を現した。

 では、何を?

 道化?本当にそれだけか。たったそれだけの事で。


「何故、そう思うのだね?」


「ウロボロスと対峙し、戦って判った事があります。」


 この男が、御伽噺の化け物を退けたか。


「奴は、王族を狙っては居なかった。私だけを、狙って行動していました。」


「では、何故だ。我が王が殺された。」


「囮。」


「なんだと。」


「私達に、加護を受けた者を狙ったと思わせたくない何かがあったから。」


「貴様、憶測でも今の発言は!」


「良い。」


「元帥閣下!」


「続けろ。」


「有難うございます。」


 この男。肝が据わっている。

 いや、空気が変わったか。


「もしくは。私と少年。タクマに何かを背負わせようとしている。」


「背負う?」


「あくまで私の主観です。ですが、あの時、ウロボロスと戦った時。」


 呑まれていく。


「化け物から、明らかな期待を込められていたのです。強い奴と戦えた喜び?そんなものではありませんよ。あれは」


 皆が、男を見つめているのが判る。

 何時の間にか、この場に居る全員が男に支配されていたのだ。


「ようやく出会えた喜び。願いが叶った。純粋な歓喜。それらを、私は感じました。」


 空間が重く。

 我々の身体に圧し掛かる。


 期待。何に対して。それが出会いに対しての喜びだと。

 笑いものだ。本来ならば。


 だが、我々は誰一人声を挙げる事はなかった。

 喋った男が、それを牽制しているようにも思える。

 無意識での威嚇。背筋が凍る。


「だが。」


「はい。それが何なのか。それが、私には理解できません。」


 元帥閣下は静かに紡ぎ、ヤマセはそれに応えた。


「いや、良い。お前の話を聞けた事に感謝しよう。」


「恐れ入ります。」


 平然と喋る元帥閣下はやはり、胆力のある武人であると改めて認識できた。

 何より、閣下が平静であるがために、皆が平静を取り戻していく。

 私も同じく。


「少し、休憩を入れよう。」


「一つ。宜しいでしょうか?」


「あぁ、兵はつくが少年に会わせる。」


「お心遣い感謝いたします。」









当分、ペースは落ちたまま。


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