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掌で踊る  作者: 泰然自若
12/18

11-黒

強引。見切り発車。そんな程度です。

 


 街を出発して二日目。

 半日もすれば、王都の領地へと入る所まで馬車を進めているタクマが乗る使節団一行。

 魔物の襲撃が予想されていたのだが、今回は何事もなく進む事ができていた。



 騎士10名が各々、馬車、馬に乗っているのだから、気配を察した獣が寄り付かないのだろうか。



 騎士には、魔力の付与を受けた鎧と盾がある。

 何人もの、魔術士によって反射魔法を付与されているのだ。

 盾には、自身の特性魔術元素を付与する事によって、火の特性体質ならば火の反射魔法を付与され、それによって火に対する抵抗力が数段と高くなる。



 掛けた付与魔法と自身の魔力によって、火の吸収や文字通り反射し攻撃を返す事も可能になる。

 反射魔法は防御魔法や治癒魔法に属する高等魔法であり、単体での行使はよほどの者でない限り使用する事が難しい。



 故に、複数による付与でしか効果を望めないのである。

 特性体質は基礎魔法であり、これを極める事によって、大まかに区分される防御、治癒、攻撃魔法を使用する事が可能になる。



 最も、魔法事態が魔力を膨大に消費するもので、攻撃魔法。火なら火の玉を作り出し相手に飛ばす事などに該当するのだが、これは相当訓練を積んだ、魔力量の多い者でしか扱う事のできない魔法であった。

 所謂、放射型魔法と呼ばれているものは高等魔術に分類される。

 故に、盾に付与されている反射魔法が本領を発揮するのは武器につけられた付与魔法を打ち消しまたは跳ね返す事にある。



 騎士達は、各々の特性に合わせた付与をされている。

 それらは、獣には敏感に反応させるだけの力を持っているという事だろう。



 そういった魔法処理を受けている防具と持って生まれた資質による魔力を動物達が感じ取ったのか。



 たが、騎士達は言い知れぬ不安を抱いていた。

 ルーギットに駐屯していも国家騎士団に名を連ねる騎士達だ。

 王都へ参上する事もあった。それに街道巡視行為も

 一般の兵士だけではなく、街を守護する騎士としてある程度の範囲は巡視する。



 違和感を感じ取った。

 決して少なくない回数を往来した道だ。

 大まかな生態も把握している。

 それは警護任務において重要な事であったので騎士達は全員が知っている。



 魔物の気配ではない。

 動物の気配が死んでいるのだ。

 いくら騎士達でも戦場のような殺気を出しているわけでもない。



 何かがおかしかった。



 それはタクマも同様に感じ取っていた。

 何かが、死んでいる。そう感じさせるほど、何かが欠落している気がしていたのである。

 その何か。それが判断できない。それが一団に暗い影を落としている。

 得体のしれないモノ。見知らぬ土地に突如置き去りにされた。

 そんな、些細な不安と恐怖。好奇などは影を潜める。

 騎士達は、互いに気配を気にする役割を担いながら必死に原因を探ろうとしていた。



 止まる事はしない。

 多少、馬車の速度をあげるよう指示を出した。



 馬車内でそういった外の行動を感じ取るタクマは、

 やはり言い知れぬ不安を持ちながら馬車に揺られている。



 だが、事態は急激な変化を見せる。



 馬が怯えだした。

 何かが迫ってくるのを敏感に感じ取っての事だろう。

 騎士達が馬を制する。だが、当人達にもわかっている事だった。



 途轍もない化け物が周囲に潜んでいる。

 しかも、相手はワザとこれほどの魔力を周囲に流しているのだ。



 一同に緊張が走る。



 そんな中、騎士達は陣形を作りあげる。

 瞬時に魔力の出所を感じ取り、その方向へ騎士は整列し盾を構える。

 6人が魔力の出所の方面を残り四人が前後二人ずつ防御陣形を作りあげる。



 これだけ大きい魔力を囮にする可能性を捨てたのは相手の性格を分析した結果だろう。

 相手は己が圧倒的優位である事を知らしめている。



 タクマは馬車から飛び降りる。



 騎士達の任務は使者団の護衛であるが、タクマは含まれて居ない。

 それに加えて、タクマは単身で狼と戦い、生き延びた。

 実績がある以上、護る対象ではないという事を騎士達は知っていた。



 魔力が近づくのがわかる。

 目に見えるかのように、空気が重くなり、禍々しい黒を連想させる。

 眼前に広がる虚構の如き、深緑の森。



 姿を見せる。



 魔力の根源。



 誰かが息を呑んだ。



 気圧されている。



 騎士達は無意識のうちに巨大な盾を地面に打ちつけ不動の構えを見せたほどに。

 全力でこの場を逃げ出したい。そう思ってしまった心を立て直したのは紛れ名も無い。

 騎士としての誇りがあったからだ。



 騎士達はそれを感じ取り、盾を打ちつけ不動の行動を起こさせた。



 逃げ出す者はいない。



 すでに対峙する虚無の空気に当てられている。



 騎士のように行動を起こせる者は猛者だった。

 他の者は己が死ぬ事を受け入れてしまっていた。

 気絶できれば幸いだったのに、それすらも許されない空気がその場を支配する。

 それほど、姿を見せた黒狼は巨躯以上に、大きい存在であった。



 息が荒い。



 呼吸が速くなる。



 心臓に刃を突き立てられる手前のように。死が自分を取り囲む。

 タクマは剣を抜く。



 他の者と圧倒的に違う事。



 それは



 前回、己の中にあった恐怖に打ち勝ちたいという強い意志。

 それが、タクマに剣を抜かせる行動を促したのだった。

 そう動かしたのは紛れもない守護者としての経験が活きたからである。

 抵抗せずに死ぬ事など許されない。


 対峙するは漆黒。

 漆黒の巨躯を持つ狼。



 純粋無垢。

 黒以外に何も無かった。



 騎士の頭を優に超す体高。

 体長は馬よりも大きい。



 巨躯にして漆黒。

 顔の輪郭すらぼやける。

 黒の中に覗く眼球の白色。

 その白は酷く目立つ。



 神聖視されるほど強い狼は限られてくる。

 タクマはかつて魔獣や魔人と呼ばれるもの話を良く聞いた。

 父や祖父が実際に戦ったのだ。その武勇伝を良く聞いたのだ。



 その中で、狼が出てくる。 

 アセナ。

 狼の姿をしている魔物であり、強大な魔力を有する。

 アセナは雌狼で群れは家族で構成されていると聞いていた。



 非常に高い知能を持ち、その巨躯からは想像もできない速さ。神速の如く地を駆ける。

 同じく狼で雄のフェンリルと双璧を成すとも言われている。



 商人から聞いた話では狼が襲ってきているという話からタクマはアセナの可能性を考えていた。

 大型の狼に襲われたという話であったが、ただの狼であっても2mを越す大型は居る。



 巨躯。大型というものではなかった。



 カチカチ



 金属が擦れる。



 それは、震え。



 武者震い。



 恐怖による震え。



 身体が微弱な振動を繰り返すたびに身に纏う鎧は嘲笑を繰り返す。



 だが、誰もとがめる事はしない。生身の者にそれだけ豪胆。いやイカレた奴が居ない。



 動物でもない魔物でもない。そう思うほど得体の知れない存在。

 目の前で自分達と対峙する生物は一体なんだというのだろうか。



「!?」



 全員が耳を疑った



『愚かな者達よ。真実を見よ。愚かしい行為はこの土地を滅ぼす。』



 誰の声でもない。

 だが、響き渡る声の主が誰か理解した

 目の前の漆黒。



 タクマはゆっくりと騎士達より前に出た

 言っている事が判らない。



『女神の祝福を得る者。操り人形となるか。真実を確かめ、糸を断ち切るか。』



 何を言っているのか。

 少なくとも、女神の事を知っている事だけは確かではある。



「い、一体何を。」



『アルディアの血族。次はない。例え、お前の血にアルディアの意志があろうと。な』



「何を、言っているのですか!」



 叫ぶ。

 恐怖でもない。

 手がかりを知っているのかもしれない。

 漠然とそんな期待があった。



『自ら知れ。そこに光が射そうと闇を纏うと。』



「が、あぁ…!」


 黒狼はタクマを見据える。

 周囲が黒く染まるのをタクマは感じるとともに身体に異変を覚える。

 熱い。身体が。燃えるような熱さではなく、ジワジワと侵されていく。



「な、何を………!」



 タクマの挙動に騎士が剣を抜く。

 攻撃を仕掛けられたと思ったのだろう。



 だが、黒狼は馬車を一瞥し。



『道化よ。判っているな。』



 その言葉を最後に暴風が吹き荒れ木々を揺らした。



 騎士やタクマが目を細め目を逸らす事をしなかった。



 万が一。



 それが目くらましに使われ、攻撃される危険性を多分に含まれていたからである。



 だが、それは杞憂に終わる。



 それと同時に言葉を失った。

 黒狼は消えたのだ。



 挙動はあった。

 わずかに姿勢が下がった。

 頭が若干頭を垂れる所までは見えた。



 だが、その後。



 何もないのだ。



 まるで、切り取られたように綺麗だ。

 黒狼の痕跡は何も残っていない。



 移動した黒狼を視認した者は誰一人居なかった。

 静寂が辺りを包み込む。

 誰も動く事がない。放心状態の人々の合間を風が流れては木々を揺らし去っていく。



 やがて、タクマが動き出す。その後、騎士に何もなかった。そう告げ各人は動き始める。

 騎士は状況確認と、人員確認を始めると同時に馬車を出発する準備も並行して行動を起こす。

 馬車は三台があったが、前一台の馬車は馬が逃げたので牽く馬を騎士の馬で代用すると共に

 壊れているかどうかの確認を行う。



 タクマは胸を抑えた。特にそこが痛むわけでも先ほどの熱の根源でもない。

 何故かはわからないが身体を触りたかったのだ。

 一体、身体に何が起こっているのか。

 自分の身体なのに、自分自身が判らなかった。



 馬車が出発できる状態になったようだ。

 騎士はタクマを呼び、タクマは思考しながらも乗り込む。

 出発するも馬車には不思議な空気に包まれた。





狼出したかったから出してみたのですが、今後絡むか。

絡むけど、どうするかな。適当か。適当で行こう。


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