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掌で踊る  作者: 泰然自若
11/18

10-魔

相当、更新は遅くなります。

 ベルシュタイン王国とその隣国であるグルンカルツ帝国で戦争が起こった。

 グルンカルツがベルシュタインとの国境を越えて侵攻。

 ベルシュタインは北方要塞シャーウッドで迎撃。

 タクマがルーギットで生活を始めて二週間目の朝。

 ギルドで聞いた話であった。



 ベルシュタインは内部で反乱騒ぎが沈静化して間もない頃合だったために

 扇動などの計略が行なわれた。というのがもっぱらの噂であった。

 タクマはそんな事を、小耳に挟みつつ依頼をこなし続け

 ある日を境に異例の速さでランクを10にまで押し上げていた。



 タクマがいつものように簡単な採取依頼をこなすために森へと入っていた時。

 昼をすぎた辺りだろうか、丁度、タクマが目的のものを袋一杯集めた頃。

 微かに。



 だがタクマには、人の叫び声が聞こえた。

 タクマはすぐに行動を開始する。

 一瞬だったために場所は大よそしか判断できなかったが、不思議と気配を感じ取っていた。



 嫌な予感がする。走り始めた頃から、汗が滲む。

 予感。気配。



 それに身を委ねるかのように、ただ森の外へ。

 街道沿いからの悲鳴。いやな予感は当たっていた。

 即座に躍り出るタクマは目の前で襲われている馬車小隊を見つける。

 兵士付きの馬車小隊が襲撃されていた。




 鳥肌が立つ。




 タクマの背ほどもある巨体が縦横無尽に駆け回る。

 手槍を持った兵士は腕を噛み切られ、転倒する。

 即座に、別の巨体が馬乗りに襲い掛かり首元に噛み付き、息の根を止める。

 ある者は、背中から襲い掛かられうつ伏せに倒され、動く事もできずに首を咬まれ、血に染まった。



 狼だった。



 曇りの入った銀色の毛を纏う巨躯な狼達。

 魔物であった。

 既に、小隊の兵士の多くが倒れ、大地を赤く染め上げている。

 馬車は三台。

 既に、馬は横たわっている。逃げた馬も居るだろう。



 生き残っている人間は視界に3人。馬車の上に居る兵士一人。

 互いの背を預けあって狼に囲まれている兵士が二人。

 囲んでいる狼は4頭。

 タクマに迫る狼が2頭。



 間髪入れず、タクマは抜刀する。



「はっ!」



 大振りはしない、当てる事を優先し小さく振りぬく。

 狼一頭は避け、一頭は前脚に当たる。



 しかし

 出血はない。

 唸り声をあげながら、間合いをとった。

 タクマは不安に狩られる。



 親が居ない。

 狼は群れで狩りをするが、群れは家族で構成されるものが多い。

 しかし、今回対峙する狼には親のような集団を統率する存在が居ないのである。



「くっ!」



 何処かにいる。

 そんな不安が襲う。



 統率者が居ないにも関わらず、目の前の狼達は無駄のない動きを見せる。



 二頭の狼は完全に引いた。つまり向こうからは掛けて来ない。

 一瞬にしてタクマの技術を悟ったのだろうか。

 タクマが進めば、二頭は下がり、左右にゆっくりと分かれていく。



 そんな動作を見ながらもタクマはゆっくりと歩を進める。

 馬車の上に登っていた兵士は弓を使い、二人の兵士を援護している。

 僅かだが、時間稼ぎにはなる。



 タクマは焦る気持ちを抑えつつ、玉を取り出す。

 器から取り出すと手の平に丁度収まるほどの大きさになる白い玉。

 祈りを捧げつつ、二人の兵士へ向けて投げる。

 すると光輝く白い玉は四つに分裂し、狼に襲い掛かった。

 予想外の攻撃と視界に広がる光に気圧され距離を置く狼達。

 即座にタクマは四頭の内、一番近くにいた狼に襲い掛かる。

 上段からの唐竹割が怯む狼の首元に吸い込まれる。



 鈍い音が走った。

 狼は短い悲鳴を上げ倒れこむ。

 それを確認することもせずにタクマはもう一頭を同じように斬る。

 もう一頭も同じく鈍い音の後に倒れ込んだ。



 違和感よりも驚きが勝っていた。

 タクマの剣をもってしても毛を斬る事ができなかったのである。

 しかし、内部へはきちんとダメージが伝わったようで骨を折ったか気絶させたのだ。



「中に、人は!?」



 兎に角、ほかに人が居ないか確かめるタクマ。



「え、あ、あぁ居る」



 助けに来たのが子供ということで驚いている兵士。

 白い玉自体に殺傷能力はない。あくまで隙を作るだけのものだ。

 既に、白い玉は消えている。



 しかし、狼達は予想外の攻撃に間合いを開けたまま様子を見ている。

 三人は構え直し、対峙する。

 気を抜けないのはこちらも同じであった。



 その時



 遠吠えが響き渡る。

 すると、狼達はちりじりになって逃げていった。



 タクマは声のした方を眺める。

 街道の丘側からであった。



 何故、瞬間的に判ったのか。

 今のタクマにはどうでも良い事であった。

 目を細める。日がまぶしいながら姿を見た。




 逆光だからだろうか。

 違う。



 黒い狼がそこには居た。



 目が合うのがタクマには判った。

 それと同時に、全身の鳥肌が総毛立つ。



 剣を無意識に構えなおし、遠くにいる黒狼に刃を向ける。



 兵士達はタクマを見て訝しがった。

 その刃の先には何も見えなかったからである。

 既に、黒狼は消えていた。



 しかし、タクマが剣を降ろすのはまだ先の事であった。




 魔物狼の襲撃事件が頻発している中で唯一の生き残りとなった馬車小隊は無事ルーギットへと辿りついた。

 ルーギットはまた狼による襲撃に肝を冷やすと共に、初めての生き残りに歓声をあげ、生還を讃えた。



「良くぞ、狼に襲われて生きて帰ってこれたな!」



 街の者に言われた兵士はローランド王国が狼被害に悩まされている事を知ると共に、

 タクマに助けられた事を話した。



 結果。



 タクマはちょっとした英雄扱いになったのだった。



「すげぇな! タクマ!」



「あぁ、あの狼を二頭も殺すなんてな!」



 この事で、タクマは幸運に恵まれる事となるが

 それ以上に、忘れられない不安を背負い込む事になる。



 幸運とは、助けた馬車小隊はベルシュタイン王国がローランド王国へ送った使者団であった事。

 助けた礼をしたいと使者に言われたタクマは迷わず、王都までの同行許可を願った。



「タクマ。と言いましたか。君はそんな事でいいのか?」


 使者は困ったような顔をしてしまう。

 本来ならば、相応の礼をするのが普通だろうが、今回はベルシュタイン王国兵士が9名犠牲になるなど

 面子も潰れている。



 本当なら、隠したい事だったのだろうが、既にルーギットで知れ渡っている事もあり、

 ここは盛大に礼をしてベルシュタインの印象を良いものにしようと思っていたのだ。

 使者の予想は大いに外れた。



 これほど、欲の無い事を言われた事がなかった使者は困り果てると共に、タクマに同情をしてしまう。

 このような子が、ここまで謙虚に育ち、狼を打ち倒す力を得る。

 一体、どのような環境で育ってきたのだろうか。と。



 ともあれ、王都までの同行は歓迎されると共に、王都についた後

 王との謁見の際に今回の功績を言う事を約束したのだった。

 礼節の良い印象を世間に思わせる事も出来、タクマへの礼にも持って来いという事だ。

 だが、タクマの顔が浮かれる事はなかった。



「使者様。お願いがあります。」



 タクマの要求に使者は顔を強張らせる。

 護衛を増やす事をお願いされたのだ。



 既に、ルーギットに駐屯しているローランド王国領西方騎士団ルーギットと呼ばれる

 都市に駐屯する王軍直轄騎士団から10名もの護衛を取り付けたばかりである。



 この上、さらに増やせというのか。

 騎士団からはこれ以上、護衛をつけて欲しいなどと言えるわけもないのだ。

 これ以上面子を潰すような真似ができるはずもなかった。



「なら、傭兵か冒険者を雇いましょう。」



 これにも首を縦には振ってはくれなかった。

 護衛商人依頼も10人ほどで受ける事が普通である。

 だが、悪い人と組めば、襲われれば護衛対象を置いて逃げる事もある。



 さらに、言えば、騎士団とは護りに特化した護衛専門兵士である。

 専守防衛を主務としている彼らは重厚な鎧と盾を装備し、剣や手槍を持つ堅牢な壁となる。

 勿論、戦闘技術も申し分ない存在で、戦場では最前線で敵陣を崩す役割などを担う。

 最も死亡率の高い戦場で、最も生存する事を求められるのだ。



 しかし、彼らを有してもタクマには不安が身体を駆け巡る。

 本能がそうさせているのかもしれない。



 だが、タクマはここで、折れる。



 不安を押しやる。騎士団10人。破格の待遇。

 これ以上、何を望む。



 例え、盗賊団が襲ってきても、魔物が群れで襲ってきても守り抜けるだろう。

 そう言い聞かせる。



 だが



「あの狼…。」



 遠めから判る圧倒的な存在感。

 タクマだけが感じた気配。

 魔物という括りにはあまりに大きすぎる存在を確かに感じ取っていた。











構想を書き留める事はするようにしますが、思うように書けないですね。

小説を考えるより、実生活でどのように今後生活していくか。難しい事も考えねばなりません。

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