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掌で踊る  作者: 泰然自若
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9-行

 


 鬱蒼と茂る木々によって視界は悪い。

 その中を人が進む。

 少年は背中に剣を背負い。身の丈ほどの草を掻き分けながら歩を前に。

 タクマは自分を見ている何かを感じ取っていた。



 草の背丈が低くなると共に、草の方向性が一律に揃っている所を見つける。

 道。そして、何かの気配が動く。幸いにして動く事に支障をきたすほどの草はなかった。

 剣をゆっくりと抜く。

 昼間であるが高い木によって木漏れ日も弱弱しい。



 その時、草の根を掻き分ける音が響いた。

 タクマは音のした方に構える。



 刹那、茶色い毛玉が飛び出してきた。

 タクマはそれを避けつつ、対峙する。

 そこに居たのは、タクマと同じほどの大きさをした猪であった。

 立派な牙が二本、口元から伸びている。



 獣は警戒している。得体のしれない者だと。

 本能がそうしている。

 だが、タクマは予想外の行動を起こす。



 ゆっくりと後退を始める。

 相手を見据えながら。



 次の瞬間、後ろへ駆け出す。

 それと、同時に猪はタクマを猛追する。



 タクマは駆ける。迫る猪には目もくれない。間合いが迫るがそれでも動じる様子はない。

 前方の地面を確認すると、走るタクマはその地点を飛び越えた。

 猪はそのまま地を駆けたが、いきなり雄叫びをあげながら空中へ吊り上る。



「ふぅ…。」



 タクマは罠を仕掛けていた。

 何個かの罠を仕掛け、近くに獲物が居た場合、そこへおびき出すということを考えて実行したのだ。

 暴れる猪の頭部を剣の平らな部分、剣背で打ち付ける。

 途端に猪は、気を失い、静かになる。



 タクマは、短剣を取り出すと立派な牙を切断し始める。

 今回、タクマの受けた依頼は、商業都市近郊の森に生息する猪の牙を取ってくるというものであった。



「よし。」



 綺麗に切れて満足げに頷くと縄を解いて猪を下ろした。

 さらに縄も回収する。ギルドからもらえる捕縛用の縄でかなり強固な作りになっており、

 冒険者から重宝されている一品だ。

 売ってはいるが、その性能からか格段に高い。

 そのため、何度も使い古す者が多い。

 タクマもその一人ということである。



 加藤タクマは扉を開くことによって下界へと無事到着していた。

 タクマは近くにある商業都市へと足を運ぶことにした。

 資金繰りと情報収集のために、人の往来が多い所へ行く必要性があったからである。



 タクマは街につくと同時にギルドを探しギルドへの登録を行なう事から始めた。

 ギルドには何種類かあるが、大きく分けるならば冒険ギルドと商業ギルドが存在する。

 その中でタクマは旅を続ける目的のために冒険ギルドに登録を申請した。

 商業ギルドは店を持つ際や物の販売などで必要なものであるため、今のところ必要ではない。

 年齢規制があった場合を考えたが無事に登録をする事ができた。

 制限は付く事になってしまったが。10歳程度の風体でも登録できる体制が整っている事に

 タクマは驚くと同時に救われた形になった。



 ギルドへの登録は細かい年齢制限はないが、低年齢者には暫くは登録した街での依頼のみが可能になる。

 登録上は誰でもアニマルハンターという、罠をしかけて小動物を捕獲したり、薬草を採取を行う事になっている。

 タクマはまず始めに、街の住人から依頼される簡単な仕事も請けることになった。

 いきなり、街の外で自然を相手に仕事をすることは任せて貰えないようだ。

 ギルド自体は誰でも登録はできるが篩いかける事は行う。



 各街ごとに存在するギルドの屯所では、その各々の街で抱える問題をランク付けごとに受ける事ができるようになっている。

 タクマは最低ランクの0から始まり、依頼をこなすことでランクはあがる。

 それによって、受けられる依頼も増えていく仕組みである。

 10より上からは試験がある。これから判るように10まではアニマルハンターとして活動するが

 10以上からは冒険者として認められると共に、時には盗賊や山賊といった人間を殺す依頼を請け負うことも可能になる。



「あら、タクマ君。お疲れ様。」



 受け付け嬢が微笑みながら応える。



「受理、お願いします。」



 タクマは笑いながら書類を渡す。

 それを受け取ると奥に下がり、やがて、袋をもって戻ってくる。



「今回の報酬です。」



「ありがとうございます。」



 タクマはそれを受け取るとギルドを後にする。



 タクマが下界へ来て一週間が経つ。

 それなりに依頼をこなしてきた事と、明らかな訳アリ冒険者という風体と年齢。

 さらに、子供でありながらもその戦闘技術の高さなどから注目される存在となっていた。



 何より



「よう、タクマ。依頼終わりか!」



「タクちゃん。 お疲れ。 うちの果物まけとくよ!」



 何故か、老若男女問わず好かれている。



 タクマの人柄と幼いながらも懸命に生きるその姿のためか。

 それらはタクマにとって非常に、情報集めや生活をしていく上で楽をすることができていた。



 現在は、ギルドの宿舎を借りて生活している。

 一般の宿よりも安く提供される宿舎で予約する事によって、部屋が空いている場合に借りて住む事ができる。



 タクマは部屋に入ると、剣を置きながら、窓から見える町並みを眺めながら帰りに買った食糧を物色する。



 今後の方針を考えていた。

 山瀬を探す事も重要だが、自分の目的も果たさなければならない。



 何よりも情報が必要だったためにこの街にきたのだが、山瀬についての情報がまったくなかった。

 逆に、玉に関する情報は必要以上に手に入っている。

 それだけ、有名だという事を知って、驚きはしたが喜ばしい事でもある。



 やはり、この国。ローランド王国の王都へ行こう。



 目的としては、ローランドには玉が国宝として存在している。

 なんとかして、王関係の人と接触して譲ってもらえないかを模索したいのだ。

 この世界では地図は非常に高価なものであったが、ギルドの建物内での貸し出しを行っているため

 何度も確認し、大まかな地理は把握している。



 そのための布石として、多少なりともの知名度を保有したいと考えるタクマは日々依頼をこなしていた。

 ランクが10になれば、難易度の高い依頼を受けられる。

 それを10歳が達成したとなれば、嫌でも注目されるだろう。

 それを餌になんとか接触しようと画策しているのであった。

 中々に腹黒い。



 なるべく早く出発はしたいが、ここから一番近くの街まで馬車で3日ほど。

 徒歩のタクマでは二週間は掛かってしまう。



 馬車は高い。



 そのため、ランク10から受けられる遠方への依頼や護送などでついでについていこうとも考えていたのだ。

 ランク10の試験は随時行なわれている。

 ギルドで受付申請を行なえば即日で試験が実施される。



 試験内容は日々変化。

 薬を作る薬草を採取し調合するような簡単なものから動物の連続狩猟。

 巣から卵を採ってくるなど難易度が様々なのである。

 だが、不合格でも当人が死んでいない限り、何度も挑戦可能ではある。



 現在、タクマのランクは未だに4であった。

 他者から見れば子供が既に4という事は異例であると判っただろう。

 しかし、タクマはあくまで見た目が子供で頭脳は大人の状態である。

 当然といえば当然かもしれない。


 生きてきた年月が違いすぎるのだ。

 それに伴う経験は他の追随を許すとは思えない。

 だが、それでも10までまだまだ長い道乗りだ。

 いくら、タクマは常人でないにしてもギルド側の制限が掛かる。

 受けられる依頼を制限されては思うようにランクがあがるはずもない。

 ギルドからすれば、逸材であり、じっくりと経験積んでほしい。

 そんな考えを持っているのかもしれない。



 これなら二週間徒歩移動の方が早いと思える。



 だが、タクマは行動しないのには理由があった。

 妙な噂を聞くのだ。噂でもあってもタクマにはとても気になる事だった。

 この商業都市ルーギット周辺には最近、魔物が増えている。

 これは良く知っている。最近、低ランク持ちは行動範囲を狭められるほどだ。


 ギルドがこういった措置を取り、何時連絡が取れるかわからない、高ランク者を呼び寄せようとしているだから

 かなり、凶悪な魔物が出没している事になる。 

 現に、馬車が襲われ、人が捕食されている事件も起きていた。

 それも一人二人ではない。動物も人間も襲われている。



 魔物は魔の動物。

 一般的な動物とは違い、生命力も本能も高く、知能の高いものさえ存在する。

 中には、魔法を使い、人の言語を理解する魔物すら存在するのだ。



 タクマ自身、門番としての生活経験がある。

 父に母に鍛えられ、魔物と戦い魔族を殺した。

 思った以上に、門の力を得ようとする輩が多かったということだろう。

 その経験の中であるものが引っかかっていたのだ。



 狼。



 魔物狼と呼ばれ、正式な呼び名は地方によってバラバラであり狼と魔物狼を同義として扱う所も少なくない。



 この地、ローランド王国には、昔からある御伽噺に狼伝説が存在していた。

 この地の戦乱を鎮めた黒狼の伝説。本にもなっておりこの国では割と有名な話であった。

 タクマは複数の予想を立てていた。



 父が昔、話してくれた。

 その時の事を思い出しながら。



 可能性は0ではない。万が一を持って行動しようとタクマは決めていた。

 ならば、ローランド兵士が巡回する範囲で受けられる依頼でランクをあげつつ資金もためようと。

 資金が溜まれば、馬車を買い、護衛つきのキャラバンにでも同行賃金を払って一緒に行けばいい。

 ランクが上がれば、そのまま依頼でいける。



「はぁ……。」



 思わず、ため息が漏れた。



 予想が当たってほしくはない。

 今の自分では何も出来ずに殺されてしまうだろう。

 普通の狼であっても、タクマと同ランクならば食われてしまう。

 群れで行動する狼自体危険なのだ。



 そんな事を思いながらも、当たってほしい気もした。

 父の顔が浮かぶ。

 祖父が殺し合いをした話なのに、楽しそうだった。

 なんとなく。



 漠然とだが、タクマは会ってみたかった。

 アセナという狼に。




強引に突っ走る。


しかし、書いていたデータを名前無しで保存押したばっかりに消失。


暫く、元気でそうもありません。

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