① なんてヘタレなご主人なのだ
第二章まで足をお運びくださいましてありがとうございます。
今回はダインスレイヴ王子の側近・ラーグルフの憂鬱な休日、から始まります。
主人公カップルのドタバタ・イチャイチャを章のラストまでお楽しみいただけますよう(o*。。)o
(2章の始まりは1章ラストから一月ちょっと経った頃です)
( side: ラーグルフ )
『聞け、ラーグルフ。俺はユニヴェールが喜ぶと思ってだな……』
月初めの爽やかな早朝。朝鳥の軽やかなさえずりが庭に響く。
窓の外から大きな身体で室内に乗り出して、我らが名君、ダインスレイヴ殿下は何を訴えてくるのかと思えば。
『“蛍飾ツリー”を制作したんだ! 日没からホタルをわんさか捕まえて』
王子ともあろう御方が、川辺で昆虫採集に勤しんでいたのか。まぁ、ことユニヴェール様に関しては下の者を使うなど、されはしないか。
『庭の木に工夫を凝らし、それらをうまいこと寄せ集めた』
なんと天然工房な手作りツリーだろう。
なんて感心していたらこの方の入室を許してしまった。
『そしてユニヴェールに見せようと呼びに行ったら……部屋の前に立ちはだかるサーベラスが!』
私はやっとのことで確保したこの休息日に、遊戯部屋のテーブルでゆったり読書をしていたのだ。
ここは私が方々からかき集めた珍しい卓上遊戯の道具を保管する、私だけの憩いの場。にもかかわらず……。
『こともあろうに、この俺を追い返したんだ! おかげで昨夜もまたヒトリ寝だ!』
なぜこんな愚痴に付き合わされているのだろう。まったく、妻の従者に追い返される王子とは。
『サーベラスめ……。俺はユニヴェールの夫だぞ!』
────『ユニ様はただいま就寝されたところです。今日のところはお引き取りを』
『なんだと!?』
『このところユニ様は通常の授業準備に加え、中間試験の問題作成で睡眠時間が3時間となっておられました。その区切りがやっと付き、今は熟睡されています』
『お前、熟睡ユニヴェールの寝顔を見たのか!?』
『僭越ながら、私はユニ様のご快眠のため、入眠された後もあらゆる手を尽くしております。大人しくお聞き入れくださらないのなら、ここは私が身を挺して』
『もういい、分かった!』────
ご丁寧に一言一句ご報告くだされた。
『俺でもユニヴェールの寝顔はあまり見たことがないというのに!』
『ご自分が先に寝入ってしまわれるからでしょう』
おふた方は、時間の都合さえつけば朝まで寝床を共にされていると言う話だが。
『ユニヴェールと共寝するとなぜかすぐに眠れてしまうんだ』
寝床に就いて即寝か。だと思っていた。
『心地よい花畑に誘われるように。なんかいい匂いするんだよな。あっ、嗅ぐなよ!』
『嗅ぎません。まぁラスは10年来の従者という話ですし、別に主君の寝顔など』
『それだ! あいつの顔がいつも言っているんだ。“私はユニ様が14の頃からお傍に侍っております。あなたとは年季が違うのです年季が!”とな』
はて、そんな煽り文句を垂れ流す顔をしているかな。
『つまりだ、10年を超える絆に敵うものなしと!』
被害妄想が甚だしい。
『立ちはだかるものを力づくで突破するのはあなたの得意とするところでは』
『しかし、あれはなかなかの手練れだ』
『勝てそうにないから尻尾を巻いて逃げたということですか』
『違う! 絶対に俺が勝つ!! しかし真剣でやり合ったらあいつがタダでは済まない。するとユニヴェールに怒られるのは結局俺じゃないか』
文句を言いながら、ダーツボードに余すところなく矢を差していくダインスレイヴ殿下……
木製のダーツボードがギシギシと悲鳴を上げている。狙ったところに百発百中なのは分かったから、もうやめていただきたい……それは遠方から取り寄せた特注品だ。
『なにを執事相手に目くじら立てておられるのですか。あなたは国の王子であり、正式に夫なのですよ?』
『正式であろうとユニヴェールの睡眠を邪魔するなと言われたら手が出せないだろう。彼女を人質に取られているも同然だ』
いや、曲がりなりにも王子が弱すぎるだろう。
『これ、こうやって構えればいいのか? このゲームはやったことがないな』
ダーツボードを矢じりで埋め尽くしたら、今度はビリヤードのキューを手にし、話半分に玉を撞き始めた。
『昼間、学院内でユニヴェールを待ち伏せしてさ、さっと捕え話を付けたら、彼女はこう言ったんだ』
────『まぁ、ラスがあなたに対しそんなご無礼を……。申し訳ありませんでした。私から話しておきます。ただ、ダインスレイヴ様。ラスもまだ慣れない暮らしの中、常に私を気遣い、懸命に役目を務めています。どうか今回はお見逃しいただけませんか?』────
『ユニヴェールはあいつの味方なんだ!』
愚痴のリズムに合わせ次々と玉をポケットしてゆく。ビリヤード未経験者がなんだそのキュー裁きは!?
『殿下……そんな愚痴を繰り広げるお暇があるのなら!』
ダインスレイヴ様のもとに付く貴族は跡取り問題に寛容なほうだ。ほぼ諦めていると言って良いか。
権力に執心の深い者は第一王子か第二王子に取り入り、競うように子をもうけさせている。今、こちらに男児が生まれたところで、継承権は何位になるというのか。しかしそれはそれとして、南との架け橋というなら、両殿下の子がまさしくその筆頭となるだろう。
『もういい加減、御方様と“本来の意味で”床を共にしてください。従者との10余年の絆は、あなたが御方様と名実ともに夫婦となられたその一夜で、一足飛びに超えることができるはずです』
だから学院の教師に妃殿下を抜擢するなど無謀だと申したのだ。新任1年は睡眠も満足に取れない、負荷の多大な職種なのだから。
『それはやぶさかではないが……』
ずいぶん神妙な顔をされている。何か懸念があるのだろうか。
晴れて男児をもうけたなら、世継ぎ争いにユニヴェール様を巻き込みたくないだとか、そういった話なら我々一門がなんとしてでも……。
ここで、最後の玉を揚々とポケットした殿下は、背筋を伸ばし、
『ユニヴェールが“ぜひとも!”と言うのでなければ嫌なんだ!』
こう叫んだ。
『は?』
『立場を振りかざし事に及び、ユニヴェールが、“あー早く終わらないかなぁ”“明日のご飯なんだろう~”などと余所ごとを考えているにも関わらず、必死に腰を振る惨めな男にはなりたくない』
……どんな妄想だそれは。




