5年前から知っていた〜身代わり勇者最初のクエスト
三日月勇者の身代わりクエスト
魔法士リズ視点
黒き魔王がそこにいた。
私が杖を振り上げ魔法の鎖で拘束すると、聖剣が光に包まれて、大きな音と共に魔王が床に倒れ伏した。
「なぁ、俺達もしかして魔王倒しちゃった?」
呆然と立ち尽くす彼を見て(やっぱり)と思った。
確信があったわけじゃない。
『三日月を持つ者、剣に聖なる輝きを得て魔王を討ち滅ぼす』この神託の通り、額に三日月のアザを持つ王子が勇者だと言われていたから。
ただ、彼が三日月を持っている事は知っていた。
5年前、私達は国王から直接命を受けて、剣士のカイ、戦士のゼム、そして魔法士である私、リズの三人でサルスの雪山に眠る聖剣を取りに行く事になった。
その日は、よく晴れていた。
山特有の急な天候変化もなく予定より早く目的地付近に辿り着いた。
しかし、それらしき洞窟が見当たらず、手分けして探そうかと話していると、雪山の一部が動き出した。
よく見ると、それは白い体毛に覆われた魔獣だった。
四体の魔獣が横に並び、行く手を阻むように洞窟を覆い隠していた。
魔獣の出現に驚きはしたが、私達は冷静だった。
ゼムが盾を使い魔獣の攻撃を防ぎ、カイが一体ずつ確実に仕留めていく。
私は少し離れた位置から魔法の鎖で魔獣の動きを封じていた。
危なげなく魔獣を倒す二人を見て、
(またこの三人で冒険がしたいな)
そんな事を考えていると、前方にいたカイが叫んだ。
「リズ!!後ろっ!」
振り向けば、目の前に魔獣が迫っていた。
咄嗟に身を捩り攻撃はかわしたが、私は雪に足をとられて倒れ込んだ。
体勢を整える暇はない。
そのままの姿勢で攻撃魔法を、と杖を前に出そうとして手が止まる。
ここは雪山。
少しの振動が雪崩を引き起こす。
攻撃魔法で吹き飛ばすのは駄目だ。
少しの判断ミスが冒険者の命を奪う。
再び目前に迫る魔獣の鋭い牙を前に、私は動く事が出来なかった。
ザザッ
雪を削る音がして、大きな背中が私の視界を遮り金属音と共に赤髪が額に触れた。
「諦めるな!」
その声で冷静を取り戻し、私が拘束の鎖を魔獣にかけると、カイは剣を横に振り抜き魔獣を斬り伏せた。
この時背に守られていた私は、彼の耳の裏に大きく欠けた細く黒い三日月の形のホクロがある事を知った。
その後、聖剣を持ち帰った私達は、正式に勇者の身代わりを引き受ける事になり今に至る……。
「ぐぉぉぉー!」
私が魔法で魔王の亡骸を操り、ゼムが唸り声を上げる。
王子を勇者にする為に、私達は魔王を演じた。
また三人で、一緒に冒険がしたいから。
身代わり勇者の最初のクエスト☆
1000文字の壁により、情報不足かもしれませんが、書きたい事は書けました。
読んでいただき ありがとうございました!
魔法士リズ設定〜
幼い頃に両親を亡くし一度は孤児院に入ったが、魔法の才能を見出されて高齢の魔法士に引き取られた。
師匠兼養い親が亡くなり冒険者になる。
ツンデレ
カイに恋心有り。
でも、三人で冒険者するのが楽しいので、気持ちは隠している。(つもり)
カイに三日月の印がある事を知っていた。
魔王城潜入の先行を依頼された時に、もし勇者がカイだった場合に備えて、模造品の聖剣を本物にすり替えた実行犯(目を細めてニヤリ)
特技 繊細な魔法制御、魔法の鎖で敵を拘束