追う者・追われる者
ミズハは必死に母にしがみついた。母の走るスピードは竜人に引けを取らないが、いつまでこの鬼ごっこを続けるのだろうかと不安になる。
ここは島だ、端から端まで行けば逃げ場は無い。
おまけにミズハを抱えてでは、生き残れる確率は低くなる。だが、この母のスピードについていくことなど不可能だ。
そんなことを考えている間に、追っ手の竜人が攻撃を仕掛けてくる。
火の塊が、高速で飛んでくる。
母はそれを察知して、体の後ろに水のシールドを張る。
火があたると水のシールドは破裂し、消え去る。
次から次へと火の群れが襲い掛かり、避けるのが困難になる。それを予測した母は一気に空に飛び上がり、空中で円を描きながら火の群れに、水の弾丸を送る。
「クソ、ただ魔術が使えるだけの奴じゃないな。」
苛立つ竜人は、舌打ちしながら背に掛けた弓を取り出す。そして、弓に輝かしい、黄色のオーラを集める。
これは言霊の魔術を使った能力だ。
「光の使い 雷撃」
弓から矢にオーラが移動し、大きな音を立てて撃ち放つ。まるで雷のような荒々しい光だった。
「光魔術か。」
母は苦い顔をする。なぜなら、水と光は相性が悪いからだ。光は水を通してしまうからだ。魔力濃度を高めれば、この攻撃を防ぐことはできるが、速さのあるこの魔術を凌ぐには、あまりにも時間がなさすぎる。
仕方ないと、それを後ろからギリギリの所でかわす。
光の矢はそのまま通り過ぎていく。
「ハッまだ終わってないぞ。」
その言葉に母は驚き、前を見つめた。
過ぎ去ったはずの矢が、今度は前から向かってきていたからだ。
「追跡型ね。厄介な!」
母は困ったと、苦い顔をして光の攻撃を避ける。
だがこれでは同じことの繰り返しになってしまう。
「お前にあたるまで、そいつは一生追い続けることになるぜ。」
何度も光の矢の攻撃を受けて、かわしを繰り返す。
このまま走りながらでのこの状態は、流石に難しい。
何より、攻撃をかわせばかわす程、速度が速くなっている。徐々に追い詰められている感覚になり、母は困った顔をする。
「あの矢をなんとかしないとね。」
そう言うと母は、光の攻撃を再び避け、水の玉を作り出す。そして、また向かってくる矢を見つけ、待ち構える。
「何しても無駄なんだよ!ここでくたばれ!!」
竜人は、まるでトドメを刺すように告げる。
母は真剣な顔をし、そのまま光の方へ特攻していく。
その姿にミズハは唖然とした。
そして、ぶつかると思う程の距離になったとき、母は指を右に指し、水の玉を誘導する。
そして体は左に避けて、光をかわす。
すると光の矢は水の玉に誘われるように右へと曲がっていき過ぎ去った。
「なっ!なんだと!!」
その後すぐに、水の玉に追いついた光の矢は消滅した。
「お母さん!一体何が起きたの?」
ミズハは母に問いかけた。今の状態を理解出来なかったからである。
「あれは、私を追っていたのではなく、私の水魔術に反応していたの。だから、強い魔力を込めた水魔術を飛ばせば、そちらに引き寄せられてしまう理屈なの。さっきはそれが本当かどうかを確認するために、必要異常に接近したの。」
「それって、お母さんの方に行くか水魔術の方に行くかを試したの?」
「そう言うことになるわね。」
ミズハは納得するが、魔術の仕組みについては何一つ知らない。だが今の話を聞いて魔術とは奥深いのだと理解した。
「クソが!!」
「落ち着け、こうなれば体力勝負だ。どっちが先に倒れるか勝負しようじゃないか。」
「チッ!!」
竜人達は更に苛立ちながらも、ミズハ達を諦めることはなかった。
そして、ついに母が向かおうとしている場所がわかった。ミズハの視界の先にあったのは、この島で一番高い山だった。