空の襲撃
その頃、シユリ島の空の上では、多くの黒い影がユラユラと舞っていた。
「風力を強めろ!!」
「一人残さず殺せ!!」
空を飛ぶ多くの竜達、その背に乗った人の形をした彼等は竜人だ。
魔法陣を展開させ、今にもシユリ島を集中攻撃している。そこに、ある竜人が手綱を引くと、兵の長である女の横に移動する。
「いい気味ですね。エリス様。」
下からニヤニヤと不気味な笑みで見下ろした女は、色濃く声を上げる。
「フフフ、全て焼き払っておしまい。」
エリスはそう唱えると、一本のユリを取り出す。
「それは?」
竜人兵が疑問の声をかけると、エリスは静かに笑みを深め、魔術を展開させる。
「竜英国に栄光あれ」
その言葉と共に、黒い炎がユリを包み、花から手を放す。そして、黒く染まったユリが燃えながら、新たな火種として落ちていく。無垢な花は絶望に染まる。
この現状をミズハは知る余地もなかった。
雨風で視界がぼやけるなか、体は凍え、服は十分に水分を吸っていた。あと少しで森を抜けることができる。
(お母さん、無事でいて!!)
ドクドクする心臓を手で押さえ、息を整えようとするが上手くできない。
緊張感と危機感が、体の悲鳴さえも、足首の痛さも関係なしに体を動かす。
「あと少し、あと少し。」
伸び切った葉と草を手で払い、道を進んでいく。
そして、最後の階段が見えてくる。
この階段さえ降りてしまえば、森を抜け、ただの平坦な道になる。そこから真っ直ぐ進んで、左に曲がりその先を進むと村が見えてくる。
これでやっと辿り着ける。
ミズハは少し安心しながら走り続けた。
そして、村についたその瞬間、ミズハは安堵できると思ったのは束の間、唖然と立ち尽くした。
「な、なんで、こんな事に……」
分からないと頭を振りながらミズハは叫んだ。
涙が自然と溢れ出し、虚な瞳でそれを見た。
それもそのはずだ、辿り着いたミズハの家と近隣の家全てが黒い炎に包まれていたのだ。
既に遅かったのだと思い知らされる。
「お母さん!!お母さん!!お母さんーー!!」
四方八方探しても、母も村人も誰の姿も見えない。
「誰も、いない。」
まさか、家の中に取り残されていないだろうかと焦り、ミズハは迷わず家に走っていくが、その手前で大きく火花を吹いた。
「あつ!!これじゃ近づけない。」
どうすればいい、どうすればいいと自問自答する。
考えている間に家はどんどん形を無くしていく。
答えの出ない頭でミズハは絶望するしかなかった。
「もう、無理だ。ミズハにはどうすることも……できないよ。」
胸が苦しくて、ポツリポツリと涙が流れていく。
もうここから動けないのだ。
虚な瞳で崩れ落ちる。
そんなときだった。パンッと何かが打ち上げられる音が鳴った。
その方向を見てみると、赤い煙が一本筋に上がっていた。
「あれは、緊急避難の合図。あそこに行けば島の人がいるかもしれない。」
あれは、災害や緊急事態のときに、島民が集合するために打たれる合図だ。もしかしたら母もそこにいるかもしれない。
その瞬間、虚な瞳に光が戻った。
わずかな希望を取り戻したミズハは膝をついた体を起こす。
こうなれば、もう母が生きている事を信じるしかない。
周りに誰もいないんだ。避難した可能性が高い。
ミズハは立ち上がると、赤の煙が残った方向に歩き出した。