悪天候
空が全て黒に染まり、太陽の光さえも遮られた。
黒い曇り空だった。
「なんか、あっという間に天気が悪くなったね。」
不穏な雰囲気が流れる中、三人は空を見上げて唖然とする。まるで嵐でも来るかのような、悪天候だ。
雲で溢れかえった空は、ゴロゴロと音を鳴らし出し、音は次第に強くなっていく。
「雷だ。危ないよ。」
「とりあえず、森の中は危険だから、このまま急いで家に帰ろう。」
ユウトの言う通り、ここにいるのは危険だと判断し、このまま解散することになった。だが、ここまで天気が一転するとは誰も思わなかっただろう。
本当に自然現象なのだろうか。
「雨も降るかもしれないから、二人共気をつけて帰ってね。」
ミズハは、リリとユウトを見送ると自分の家に向かって歩き出す。そうもしているうちにポツリ、ポツリと何が降ってくる。
「雨だ。急がないと!」
このままでは、家にたどり着く前にずぶ濡れになってしまう。
まだ小雨なら間に合うと思いながら、ミズハは走りだす。
だが雨もどんどん強さを増してくる。風も雷も容赦などない。
「こんなこと今までなかったなに、何か変だよ。」
生物の勘というのだろうか、ミズハは物凄く嫌なことがありそうで気がかりだった。
着々と山の下へ降りていき、緩んだ地面を踏みながら滑らないように気をつけて進んでいく。
後少しの所まで来た時だった。
地面が激しく縦に揺れた。
ダン!!
「きゃぁ!!」
体が跳ね上がり、重い圧がかかったように、強く下に張り倒された。まるで何か落ちたみたいな感覚だった。
「なんなの、あの音。何かおちたの?」
ミズハは倒れた体を起こして、周りの景色を見る。
すると、おかしなことに雨は止んでおり、別の黒い景色が広がっていた。それを見た瞬間、目を見開かなずにはいられなかった。
「なんで、…森が燃えてる。」
視界に映っているのは、向かい側に見える遠い森だ。黒い炎が森の木々達を覆っていた。
「なんで、火が黒いの、…変だよ。」
やはり何かおかしい。急な天気の荒れに、現実離れした黒い炎、何かに操作されてるようにしか思えない。
果たしてそれは、神と言うのだろうか。
ミズハはそのまま森を眺めていると、ふと視線を下に向け、目を疑った。嫌な予感は的中したかのように、そこは火の海だった。
「…あそこって。」
たしかその下には島の集落があったはずだ。野菜畑のおじいちゃんも、あの辺りだったはずだと、ミズハは焦った。
こんなにも火が回っていると言うことは、他はどうなっているのだろうか。
「ミズハの家は、…お母さん!!行かなきゃ!」
心臓が一瞬でバクバクと暴れ出す。
どうしよう、どうしよう。と不安の気持ちを心に押し込めて、とにかく足を動かす。
(止まってはいけない。どんなことがあっても)
焦る気持ちが前に出るが、必死に押さえ込む。そんな時、また小さな雨は降り出す。
そのせいで、石の上を踏み越えたとき、足を滑らせた。
「ガッ!えっ、ーー!!」
気持ちも追いつかない中、この現実は不幸が不幸を呼び寄せたとしか思えなかった。
「…痛い。」
どうやら足首を少し捻ってしまったようだ。
雨のせいで、服もすでに泥だらけの状態だ。
まるで、不幸が連鎖しているかのようだった。
それでも、母の無事を知りたいミズハは立ち上がる。
「グッ…お母さんを見つけないと、きっと、きっとミズハのことも探してるはずだから。」
染みる足首を抑えて、なんとか立ち上がる。
そして、一歩ずつ前に進んでいく。
(どんなに辛くても関係ない。私はお母さんに会うんだ。)