魔術
その後、カインに呼び出され、向かった先は焼き払われた集落の跡地だった。
焼かれた後の臭い。黒く染まった地面。全焼した家の木材が少し残っていたぐらいだった。
火が当たらなかった所や、集落の周りは、生き生きと植物が咲いていた。
足を踏み入れた時の音は、ザクザクとしていた。
普段はしない、重みのある音だった。
焦げた臭いが、〝息が止まりそうだった。〟
その真ん中にカインはただずんでミズハを待っていた。
「やっと、来たな。」
決して時間に遅れた訳ではない。だが、目の前に辿り着くまで時間がかかったようだ。
「わざわざこんな場所に呼び出すなんて。」
ミズハからすれば、カインの言葉は癇に障る言葉だった。まともに話し合う気も起きないほどだった。
「現実を理解することは大切だ。辛いからという理由で、見ないふりをする言い訳にはならない。」
ミズハはその言葉に苛立ちを覚えて、無意識に声を出してしまう。
まるで自分に責任があるかのような言われようが反抗心を生んだのだ。
(どう見ても、竜人が攻めてこなければこんな事にはならなかった。そんな事言われる筋合いわない。)
「なんだと!!元はと言えば、お前たちがーー」
「戦争とは、一度始まれば、終わりを知らず、相手を殺し、またそこから恨みが生まれ、また相手を殺す。皆が、加害者であり、被害者であるといえる。それが戦争だ。」
カインは少し切なげに、でも真っ直ぐとした瞳でミズハに告げた。
その時のミズハは、黒くなった地面を見つめ、すぐに目を閉じて頭を振った。
心の中に何か引っ掛かりを覚えた。
「黒炎は覚えているか?」
カインは話を切り替えて質問をしてくる。
聞きなれない言葉にミズハは顔を傾けた。
「黒炎?」
「島を襲った火のことだ。」
あの日の火と言えば、一つしかない。悍ましい黒色の炎のことだ。
ミズハは顔をハッとさせ、記憶を蘇らせた。
「あの火がなければ、皆は逃げられた。」
すでに事実を悔やんでも遅い話だった。それでも、この恐ろしさはきっと消えないだろう。
「あれは、ただの火ではない。竜英国の竜人要、エリスの能力だ。」
聞きなれない言葉に疑問が残り、ミズハは聞き返す。
「竜人要?」
「竜英国の階級の一つだ。要の役は、幹部クラスに相当する。つまり、シユリ島襲撃任務の指揮官だ。」
今聞いた真実にミズハは目を見開き、言葉を失った。一瞬で心の中がざわめいた。
(指揮官だと…。)
ゆっくり呼吸をし、何とか平静を保とうとする。だが、今のミズハには難しことだった。
「それで、その火の使い手がエリスという奴の力なのか?」
カインはどこか落ち着かないミズハを見ても、冷静に話を続けた。
もうこの光景には慣れてしまっているのだろう。
「そうだ。この世には、魔術というものが存在する。魔術とは、己の生命力が源であり、自然と繋がることで形を表している。」
魔術。深くは知らないが、母や竜人が使っていた不思議な技のことだと見当ができる。
昔、母の水魔術を見て、教えてほしいとせがんだことがあるが母は首を振って断った。
危ないものだからダメ。それが口癖だった。
「つまり、命と自然で魔術は使えるってこと?」
ミズハがまとめると、カインは頷いた。
「そうだ。自分の体と相性のいい、自然の力が魔術を生んでいる。」
つまり、人によって個人差があり、使える魔術も違うという事だろう。
ミズハは、頭の中で考えをまとめていく。
「魔術は大きく六つの属性に分かれている。火、水、風、土、光、闇だ。この六つが基本になるため、基本魔法と呼んでいる。」
「魔法と魔術は違うの?」
ミズハの鋭い質問にカインは、説明を続けていく。
「違うな、魔法は今言った属性その物を操るだけだが、応用技や、術式を使うときは魔術と定めている。」
その言葉に、ミズハは納得した。
(だから、魔法には基本とつくのか。)
魔術の属性と聞き、今までミズハが戦いで見てきた魔術を思い出す。
母は水、海からの追っ手の連中は光、ということになるが、ここまではいいが、竜人要のエリスの黒い火や、氷使いの竜人は、少し特殊な気がした。
「竜人要のエリスが使っていたのは、闇と火の混合術式、黒炎という魔術を使っている。他にも、島の周りの海や天気を操っている竜人もいた。このように魔術とは、自然の力と自身の体力(生命力)を使って実現化させる融合現象ということだ。」
どうやら魔術とは不思議だけでは片づけることはできない、理屈があるらしい。
(ならあの氷使いの竜人も、水魔術からの応用で能力を作っているのかもしれない。)
一つ一つの謎が解けていき、ミズハは魔術を現実のものとして認識し始める。
説明が終えたのか、カインは少しミズハから距離をとって告げた。
「それでは、特訓を始める。」