この世界の全て1
静かだ。だがとても冷たい。
それでも眠っていたいとミズハは思ってしまう。
全然地面は心地良くないのに、ずっと縋っていたいと思うのだ。不思議で仕方がなかった。
「バシャン!!」
「!!」
それは突然だった。
何か大きな音がし、頭に重さを感じる。
研ぎ澄まされた冷たさが広がって行く。
その瞬間的な感覚に体の神経は飛び跳ねた。
そして、刺激によって自然と目が開き、色のついた世界が見えた。
「ーーうゔ」
明るい世界が視界に痛く入り、目を押さえる。
耳に入ってくるのは、波の音と鳥の鳴き声だ。
眩しさに耐えながら、ゆっくり目を開けようとする。
「さっさと起きろ、小娘。」
ふと頭上から、低い声が聞こえた。
ミズハは驚き、即座に顔を上げた。
「竜、人……」
なんで。その一言がミズハの頭を埋め尽くした。
暗い赤毛の髪に赤い瞳、違った耳と牙があった。
顔つきからして男のようだ。
だが他の竜人と違って、黒服に口にはマスクをつけている。
そして、尖った爪から覗いているのは黒い槍だった。
見た目は悪魔そのものだ。
放心状態の間に何やら頭からポタポタと雫が流れてくる。現状からこの目の前の竜人が水をかけたのだと予想がついた。
ミズハは焦りを隠さず、すぐさま逃げようと動くが、腰が抜けて起き上がれない。
その行動を竜人が許すはずもなく、すかさず首元に刃を当てられた。
「ひっ!!」
「そう恐るな、殺しはしない。」
(いや、発言と行動があってないんだよ!)
信用のしの字もないミズハは、顔を背けて逃げようとする。だが行動が気に食わなかったのか、男の竜人はミズハの腹を蹴り上げた。
「うゔ、うっ」
「動くな。話を聞け、人間。」
倒れたミズハの前髪を掴み、竜人は容赦なく顔を上げさせた。その痛みにミズハは唸り声をあげる。
「俺の名はカインだ。お前は?」
誰が答えるかと、目を逸らす。
だがその抵抗は意味もなく、鋭い刃が再び首元に現れる。
「ミッ、ミズ、ハ」
「で、何でお前だけ生きてる?報告によれば島民全ての抹殺は完了しているはずだ。しかも、混血種。生かされるはずがない。」
その言葉を聞いて、一気にミズハの心に火がついた。
(そうだ、頭を真っ白にしている場合ではない。
何があったか思い出せ)
歯を食いしばり、過去の記憶を思い出す。
そう、みんな死んだのだ。そう、母は死んだのだと。
その瞬間にミズハは顔に力を入れ、相手を睨み返した。
「そんなの知るか!訳の分からない話をするな!!お前らのせいだろうが!!」
怒りが抑えきれず、ミズハは首元にある刃を掴み取った。刃が食い込み、ダラダラと血が溢れてくる。
ミズハの言葉に竜人はただ見つめ、立ち上がった。
相変わらず、死んだ目は変わらないままだった。
「やっぱりお前、何も知らないんだな。」
「はぁ!?」
思わずミズハは反抗するが、竜人は呆れた目でミズハを見ると近づいてくる。
「まぁ、しょうがないか。こんな所に混血種、訳あり以外の他は無いな。」
そのままミズハの首根っこを掴むと、ズルズルと引きずって行く。
「クソ!!触るな化け物!!」
「いいから黙って着いてこい。この世界の常識を教えてやる。」