虚ろ
「はぁ、はぁ……はぁ」
息が消えるかのような吐息を吐き続ける。
痛みが体に染みながら、ミズハは刀を引きずり、歩き続ける。その瞳に覇気はなかった。
「誰か、居ないの。……生きてる人、は。」
雨上がりの寒さに耐えながらも、視界だけ動かして周りを見る。だが誰も居ないのだ、生きた人間は。
その度にミズハの心は死んでいく。
瞳の明かりを消していくのだ。
もう何人の死を通り過ぎたのだろうか。
地面にあるのは、血の水溜まりと屍だけだった。
山を降り、村を抜け、海に行く。
辿った道を遡るように終わった世界を見ていく。
そして砂浜まで出ると、竜人と出会った最初の場所で足を止めた。
あの時は森に隠れていたため、海沿いはあまり見ていなかった。
ふとそこに立つと砂浜は血で染まっていた。
血の気が引きながらも、動かない村人の横を通り抜ける。
大体の村人はここで殺されたのだろう。死体の数が尋常では無かった。
死体の中には顔見知りや、近所の人もいた。
それだけでも、ミズハを苦しめるには十分だった。
そのまま歩き続け、一人一人通り過ぎながら生存者を探す。
だが、ある程度歩き回り、次に行こうとした時だった。
ミズハの時間は強制的に止められる。
「ハッ……」
反射的にだった。
転がった体を見てすぐに分かったのだ。
何せ、この島に子供は三人しか居ないのだから。
「リリ、ユウト……。」
そこには、いつも遊んでいたリリとユウトの二人の体が転がっていた。
息もない冷えた体、背中から溢れ出た血が砂に広がっていた。
二人共背中に刀傷があった。よく見ると、手が繋がれている。恐らく二人で逃げたのだろう。ユウトがリリの手を引く形で地面に転がっていた。
その周りには、二人の家族であろう体が倒れていた。
「おかしいな、涙すら出ないや。」
この感情をどう表せばいいのか分からないのだ。
私もそっちに行きたい。
思ってしまった言葉はそれだった。
まるで自分だけ取り残された感じだ。
あまりの衝撃にミズハは倒れ込んだ。
やがて頭痛がしだし、視界が歪みながら目を閉じた。
最後に残ったのは、静かな波の音だった。
「匂いがすると思えば、生き残りがいたか。」
波の世界に、ふと砂を踏む音がミズハの前で止まった。