顔に傷?医師を呼べ!
「鏡の数が足りないじゃん…」
私が投げた薔薇を華麗に避けた後、部屋でため息をつくバカ。もとい兄。
視線の先に自分の顔がなかったのが不満らしい。
「ダイバに持ってこさせれば?」
私が言えば、「天才じゃん!!」と絶賛された。
やはりこいつはバカなのだ。
早速ダイバを呼び出し、
家中の鏡をこの部屋に持ってくるよう言いつけていた。
しばらくしてダイバが家の中で一番大きい鏡を慌てて運び込んできた。
置くのを待てなかったバカはダイバに不必要に近づいて鏡に見とれていたところ
突然バカに近づかれたダイバはバランスを崩してしまい、
ガシャン!と嫌な音とともに大きな鏡が割れてしまった。
「も、もももももももも申し訳ありません!!!!!」
床に散らばる破片を気にすることもなくその場で平伏すダイバに対し、
鏡が割れた拍子に顔に傷がついたらしいバカはもはやそれどころではなかった。
「お、俺の顔に傷がついてるじゃん!!!医師を呼ぶじゃん!!!!」
部屋にある割れていない鏡すべてを回り逐一自分の顔を確認し、
絶叫しながら騒ぎまくっていた。
部屋を一周したバカに向かい、一言だけ言う。
「もう傷、治ってるわよ」
私の言うことを理解できたらしいバカは
ハッとした様子で再度落ち着いて鏡を覗き込んだ。
吸血鬼の治癒力で、傷自体はすぐにふさがっていたのだ。
「はぁ。やっぱり俺の顔はキレイじゃん。血も滴るいい男じゃん」
先ほどとは打って変わってうっとりとした表情で鏡を見つめるバカはとても幸せそうな顔をしていた。
そのまましばらく血を拭こうともしないバカを見ながら、
何か忘れている気がしながらも、このまま寝ようと棺桶に手をかけた時
「このお屋敷の中にお医者様はいらっしゃいませんかーーーー!!!」
と、遠くでダイバの声が聞こえた気がした。