薔薇が咲くのは我らの為
鏡と睨めっこを始めて30分。
ダイバも食事の用意ができたようだし、
そろそろ準備をしなくては。
「っていうかアイル、なんで起きたの」
「なんでって、高校生をやってみたくなったじゃん」
「前にもやったことあるよね」
「最近の高校は制服がイカシテルらしいじゃん」
「どこの情報よそれ」
「夢の中で見たじゃん。俺が着たらもうさいっこうにカッコいいに決まってるじゃん」
「ふーん…がんばって」
前回高校に通ったときには
授業が日中に行われるせいで結局挫折していたことは黙っておこう。
きっと覚えてないのだ。バカだから。
自分を褒めることしかできないバカだから。
「アイル様、イルア様!お食事のご用意はできております!
他にも何かあればなんなりとお申し付けください!」
ダイニングルームに入り、テーブルの上を目にした私たちは
そのまま席には着かず、テーブルの中央に行って、まったく同じことをした。
―――ガシャーンッ
花瓶が大きな音をたてて床に落ち、ダイバは慌てふためいた。
「な、なななななっ…!」
「うちはいったいどうしちゃったわけ?」
「うちに飾っていいのは薔薇だけじゃん」
ダイバが破片と花を拾い集めたのを確認して、席につく。
「明日までに薔薇用意しとかないと殺すわよ」
「は、はははい!失礼いたしました!!」
逃げるように部屋をでていくのを見送って、食事に目を落とす。
赤ワインにトマトスープ…。まずまずか。
「はぁー、びっくりしたじゃん」
「ほんと。あんなに使えなくて大丈夫なのかしら」
「薔薇しか飾っちゃいけないなんてもはや常識じゃん」
「あたしもそう思ってた。薔薇は私たちのために咲いているわけだし」
「何もかも完璧な俺らには完璧な薔薇がぴったりじゃん」
「むしろ薔薇以外は認めない」
一通り言い合ったところで、お腹が鳴った。
「ま、今日のところは空腹に免じてお咎めなしね。
でもそのうちいろいろ教えてあげなくちゃ。
というか誰の推薦で執事なんかやってるのかしら」
「まあまあ、頑張る気はあるみたいだしそんなかっかしなくていいじゃん
俺は自分の顔がいつでも見れるように鏡さえ綺麗にしといてくれればいいじゃん」
今までの執事が完璧だった分、
できなさ加減が目立っているだけかもしれない。
これから薔薇のように、美しさと棘をもって指導してあげなくては。