ヴィーナスとナルシスの名の下に
初投稿です。よろしくお願いします。
「あぁ!100年ぶりに目覚めてもやっぱ俺ってば超超超超綺麗じゃん!美しいじゃん!ビューティフォーじゃんっ!!」
微睡の中で聴こえてしまったよく知っている声で最悪の目覚めになってしまった。
声の主は自分の兄。
そして彼はナルシスト。
私たちは吸血鬼らしいし、事実、綺麗な顔立ちではあるのだけれど。
ゴトッと重いベットの蓋を開け、長い間疎遠になっていた光を浴びてみる。
まあ、夜中なので光といってもささやかなものだけれども。
「お、イルアも起きたじゃん。久しぶりじゃん!相変わらず綺麗な顔してるじゃん」
「おはよう。相変わらずうざい語尾」
大きく伸びをして蜘蛛の巣がかかっている鏡を見た。
自分の顔だけ確認したかったのだけれど、兄は鏡の前から動く気はないらしい。
仕方なく兄の顔と自分の顔を見る。よく似ている。
それもそのはず。私たちは双子だ。
長い間眠っていても、その事実はどうしても変えてもらえないらしい。
溜息をつきながら寝癖を直す。
「お腹すいたな」
ボソッとこぼしたと同時、ギギィ…と、扉が開いた。
「お目覚めですね!アイル様!イルア様!」
中に入ってきたのはこれまた綺麗な顔立ちの…誰?
「失礼しました!申し遅れました!
私、この家でアイル様とイルア様のお世話をさせていただくことになりました、
ダイバと申します!用事があればなんなりとお申し付けください!」
執事かな。100年前には家にいなかったけど。眠ってる間に何があったんだか。
若くて元気があるのはいいけど…使えなさそう。
「よろしくじゃん。さっそくだけど、イルアが腹減ったらしいから、適当に用意して欲しいじゃん」
「畏まりました!ご希望があればなんなりと。
あ、ちょうど近くに若い男女が迷い込んでいるようです!
問題なければすぐに手配します!」
華麗に身を翻す執事に、咄嗟にストップをかける。
「問題大有り。執事のくせに知らないわけ?
あたしもアイルも、人の血は苦手なの。適当に神聖じゃない赤いものを用意して」
「そ、それは失礼しました!すぐにご用意いたします!」
今度こそ去っていく執事を見送って、もう一度鏡を見る。
「イルア、ちょっと言い方きついじゃん」
「執事が使えないのが悪いのよ。私たちを誰だと思ってるの」
自分と顔を見合わせて、目を細める。
「そりゃあ、
母さんはヴィーナス、父さんはナルシス。
2人の美を掛け合わせた完璧な双子、じゃん」
「そうよ、その通り。ヴィーナスとナルシスの名の下に、
私たちはすべての美を体現してる。
完璧な美しさに触れられるだけで名誉なことだと思わなくちゃ」
せっかく目覚めてしまったのだから、またこの世を楽しまなくては。