女子達から見た温人と海斗
女子側の文化祭。
紅葉のクラスでのドタバタ劇です。
友達のギャル2人からの視点っぽくなってます
「ちょっと、壁のメニュー剥がれかけてんだけど貼り直して!」
「私の身長だと椅子使わなきゃ無理だよ!」
「ほっときゃいーじゃん!どうせ机にもメニュー置いてんでしょ?」
「ねぇ!追加の食材届いたんだけど取りに行くの手伝って!」
「無理無理!今誰も手離せないから1人でガンバ!」
「えーっ!?」
そんな慌ただしい会話が繰り広げられてるのは、文化祭で喫茶店をやっている紅葉のクラスの裏方だ。
「私手伝おっか?」
「ちょっと紅葉!ウチの看板娘が何言ってんの!!」
「アンタは接客!はい戻って!!」
大人気ウェイトレス紅葉は友達の美人ギャル2人に引っ張られて強制的に店内に戻される。
因みに紅葉が天然素顔美人ならばギャル2人は作った美人だ。
美人は作れる!
「お待たせしました、オムライスです」
「あ…ありがとう」
ご飯を届けてもらった男性客が赤面しながらお礼を言う。
ニコリと笑う紅葉に店内の客は皆んなメロメロだ。
「ふふふ、好調好調。こりゃウチのクラス優勝間違いなしね!」
「紅葉には一日中働いてもらいましょ」
「ちょっと!無茶言わないで!」
とんだブラック体制に抗議する紅葉。
因みにお客様の前なので3人とも笑顔のまま小声で会話している。
「あーはいはい。デートの時間くらい作ったげるわよ」
「紅葉のカレ来るんだっけ?」
「うん、もうそろそろ来ると思う」
「この美少女を射止めた男とか普通に気になるわぁ」
「ね。どんな男なんだろ」
ワクワクしながら紅葉と共に待ち侘びるギャル2人。
そんな期待値爆上がり状態になっているとは露知らず、温人は喫茶店へと顔を出した。
「あ、紅葉」
「温人くん!」
パァっと表情を明るくして「いらっしゃいませ!」と言いながら入り口へ駆けていく紅葉。
そんな紅葉とは対照的にスンとなるギャル2人。
温人は紅葉を間近で見てからそっと視線を逸らした。
「あれ?海斗くんは?」
「夢菜ちゃんとこ行くって」
「あ、そっか!…ていうか、何で目逸らしてるの温人くん」
「いや…制服似合い過ぎてて…か、可愛いなって」
「!」
メイド服に近いウェイトレス姿の紅葉はカァっと頬を染めた。
そんな2人の何とも言えない甘い空気に他の客が気付いては堪ったものではない。
売り上げ死守のためにギャル達は突撃した。
「おっ、お客様!お好きな席にどうぞ!」
「ご注文決まったらお呼びくださーい」
そう言いながら慌てて紅葉を引き離して窓際まで戻る。
「ふー。いい仕事したわぁ」
「てか紅葉、アレがカレシなの?」
「あ、アレって言わないで!」
「や、だぁってさー」
再び温人を確認するギャル2人。
「「フツーーー。」」
「ちょっと!」
そんな風に言われている事になど気付きもせず、温人は剥げかけた壁のメニュー表を貼り直して廊下側の席に座った。
((ん?))
その時点でギャル2人は温人の行動に違和感を覚える。
すると今度は、何かに気付いたように席を立ち廊下を走っていった。
少しすると重そうなダンボールを抱えてクラスメイトの女子と戻ってくる。
「置くのここで良い?」
「は、はい!ありがとうございます!」
そして、何事も無かったかのようにまた席に着いた。
助けた女子への興味なども微塵も感じられず、本当に善意のみで手伝ったのが伺える。
「…ゴメン紅葉」
「あんたのカレシ、やっぱイイ男だわ」
「ん…んぅ」
「褒めてやったのに何よその複雑そうな顔は」
「さてはわかってもらえて嬉しい反面知られたくなかったって思ってんでしょ。束縛激しいと捨てられるわよ?」
「あうっ(図星)」
3人がそんな会話を繰り広げていると、今度は男女カップルが入店してきた。
真っ直ぐ温人のいる席に向かっていく。
「あ、夢ちゃん」
紅葉が手を振り、それに笑顔で振り返したのは夢菜。
隣にいるのは勿論海斗だ。
「あの子って別のクラスの紅葉が仲良くしてる子でしょ?」
「えーこっち呼ぼうよ」
そう言って夢菜に向かって手招きするギャル。
夢菜は一度キョロキョロしてから自分を指差して呼ばれたのか確認する。
半分怯えた様子で近づいてきた。
「やっほー。えーっと、夢ちゃん?アタシは凛」
「あたし絵里瑠。ヨロシクー」
「と…遠坂夢菜です。よろしくお願いします…」
「ちょっとビビんないでよ〜」
「取って食ったりしないわよ」
2人は何とも思っていないが、夢菜からしたらカースト上位の人間と下位の人間の異世界交流だ。
「で、あの人が夢ちゃんのカレシ?」
「は、はひっ」
「へ〜、結構背高いじゃん♪」
「見た目だけなら紅葉のカレシよりタイプだわ」
温人も海斗も成長期で、1年の頃から比べメキメキと身長が伸びている。
特に両親共に背の高い海斗の成長は目覚ましく、現時点で181 cmほどある。
夢菜は152cmなので既に身長差カップル状態だ。
でもってそんな事を言われた夢菜は動転していた。
相手は美人ギャルでこちらは眼鏡におさげの地味な女子。
勝ち目があるとは思えず、非常に慌てふためいた。
「と、取っちゃダメですからね!!」
必死に立ち向かうように言い放つ夢菜に、ポカンとするギャル2人。
思わず頬をほころばせる。
「「カーワーイーイー♡」」
「ねぇ私と反応違くない!?」
扱いの差に思わずツッコミを入れる紅葉。
そんな紅葉を無視して夢菜を抱きしめる凛と絵里瑠。
「よしよし、ゴメンねぇ夢ちゃん。狙ったりしないから安心して?」
「あ〜ちっちゃくて可愛くて巨乳とか最強だわぁ。アタシが男でも彼女にしてる」
「え?え?ふへぇ!?」
状況について行けず再び大混乱する夢菜。
取り敢えずこのギャル達が思っていたより怖くないという事だけは理解した。
「それで?夢ちゃんはカレシのどこが好きなの?」
その質問を受けてピクリと反応する夢菜。
「見た目ですね」
「あれ!?」
「ズバリ言ったわよこの子」
「ひとえでちょっと吊り目のキツネ顔に眼鏡がすごい似合ってて…!長すぎず短すぎずのサラサラなストレートヘアもツボなんです!」
「急に饒舌になったわ」
「カレシ大好きね」
「知り合った頃は普通だったけど、今は背まで高くなってしまって…!何だかんだで気遣いも出来るし強くて頼りになるし敵に立ち向かう時の後ろ姿なんか最高で…!!」
「待って待ってもうわかったわ!」
「ていうか最後はわからなかったわ!」
あまりの勢いに慌ててストップをかける2人。
暴走した事に気付いた夢菜は「あ、すみません…」と謝りながら赤面して小さくなった。
「ふぅ。まさかここまでカレシ大好きっ子だったとは」
「こんだけ愛されたら幸せだわぁ。ありがとね夢ちゃん。これからウチらとも仲良くしてね♪」
「はっ、はい…!」
ペコリと頭を下げて海斗の元へ戻っていく夢菜。
辿り着いた所で「消毒!」と言いながら海斗に抱きしめられ「ひやぁぁあ!」と悲鳴を上げていた。
「で、紅葉の方はカレシのどこー…やっぱ良いわ」
「そうね。聞かなくても大体わかるわ」
「2人とも私に冷たくない!?」
「美少女虐めんのって興奮すんのよ」
「それは別の意味で怖い…!」
涙目の紅葉を揶揄って遊ぶギャル達。
「それより紅葉、アンタはアンタで気をつけなよ?」
「え?」
「さっき荷物運んでもらった子、アンタの彼チラチラ見てるわよ?」
「にゃー!」
自分の彼氏を狙われて慌てふためく紅葉。
そんな反応を見て2人はケタケタ笑う。
しかし、そんな楽しい空気は突然壊された。
「ふーん、ここか」
「そうっス!イイ女ばっかりらしいっすよ」
そう言いながら入ってきたのは見るからにガラの悪い3人の男だ。
1人がリーダー的な男で、残り2人は舎弟のように見える。
目を合わせないよう、店内の客達もそっと視線を逸らす。
3人は紅葉達に一番近い席にドカッと座った。
それぞれをジロジロと舐めるように見る。
「へー。悪くねぇな」
それから紅葉に狙いを定めた。
「オマエ、俺の女になれ」
逆らったら何をするか分からなそうな相手だが、紅葉は表情のない笑顔を作った。
「いらっしゃいませお客様。ご注文決まりましたらお呼びください」
「オイ!狂牙さんが話しかけてんだろうが!」
「メニュー表はこちらになります」
「無視かコラ!」
全く怯む様子の無い紅葉は騒がしい舎弟2人を完全スルーする。
狂牙と呼ばれたリーダーの男だけは面白そうな顔をしていた。
「おーい紅葉。注文良いか?」
と、店内の雰囲気を悪くしないよう気を遣いつつ温人達が助け舟を出す。
「はーい」と応えながらそちらへ駆けていく紅葉。
そして注文を受けている紅葉の表情を見て狂牙は勘付く。
「ふぅん。アレがあの女の男か」
「え?アイツが?冴えない男っスよ?」
「狂牙さんのが100倍良い男じゃないすか。あの女見る目無いんじゃないすか?」
舎弟2人は信じられないといった顔をし、狂牙は確信したようにニヤニヤしている。
嫌な予感を覚える凛と絵里瑠。
「ねぇ…コイツ何する気?」
「わかんないけどヤバそう…。タカちん(担任)呼んでくる?」
そう2人が相談している間に、注文を受けた紅葉がテーブルから離れる。
そして温人の姿が完全に露わになった瞬間、狂牙はテーブルに置いてあったオムライス用のケチャップを手に取った。
「!!」
凛と絵里瑠が止める隙もなく、思い切り振りかぶって投げつける。
真っ直ぐ飛んでいくそれを見て、皆驚き息を呑んだ。
だが、更に驚く事になる。
「おっと」
「せいっ」
まるで予め投げられる事がわかっていたかの様に余裕を持ってヒョイと温人が避け、見越して待ち構えていた海斗が手刀で叩き落とした。
中身を撒き散らしながら転がるケチャップ。
店内のお客が皆ポカーンとなり、当の温人と海斗だけが慌てだした。
「やべ!ついクセで攻撃しちまった!」
「バッカ!そこはキャッチしろよ!」
「お前だって避けただろうが!」
そんなふざけたやり取りでワタワタと掃除を始める2人。
ゲーム中、小型のモンスターなどが突然襲いかかってくるなんて事は日常茶飯事だ。
その為、2人は不意打ち攻撃には非常に慣れていた。
「チッ」
そして、面白くないのは狂牙だ。
紅葉の前で恥でもかかせてやろうと思ったのにとんだ誤算である。
苛立ちながら立ち上がる狂牙。
「仕方ねぇ。直接遊んでやるか」
そう呟いて、明らかに殴り掛かりそうな姿勢で温人に近づいていく。
店内中の人間が青褪めた。
「! 危ない!」
が、なぜか一番の窮地にいる筈の温人がそう叫んだ。
意味が分からず皆が混乱する中、攻撃態勢だった狂牙が床のケチャップによって足を滑らせた。
「!」
体勢を崩し、完全に立て直せない状態になる。
だが転ばないよう支えたのもまた、温人だった。
「大丈夫ですか!?」
「なっ、テメ…!」
苛立ちと羞恥心で再び殴ろうと身を捩る。
「あ、待った!危ないから動かないで!」
そう言って狂牙の身体を支えながら靴裏に付いたケチャップを素早く拭ってやる温人。
「よし、これで大丈夫です!ご迷惑お掛けしてすみません」
あくまで自分達が散らかしたせいだと、真摯に温人は謝る。
それから笑顔を作る温人を見て、狂牙は戦意を喪失した。
「……興が削がれた。お前ら行くぞ」
「え!?あ、はい!」
「まっ、待ってくださいっス!」
耳を赤くして教室を出ていく狂牙を慌てて舎弟2人が追いかけて行く。
一連の流れを見ていた他の客達はただただポカンとするばかりだ。
そんな中、ギャル2人はスススと紅葉に近づいた。
「ヤバいわねぇ紅葉」
「どうやらライバルが増えたみたいよ?」
「にゃー!?」
自分を狙っていた男がいつの間にかライバルになるという謎の展開に悲鳴を上げる紅葉。
その後みんなで文化祭を楽しんでいる間も、紅葉は温人からひと時も離れなかったという。