浴衣デートは苦行の先に
男子達の知らないところで準備に勤しむ女子達のお話。
デートまでの段階に焦点を当ててるので、つまらないかもですがそれでも良ければどうぞ!
「夢菜!アンタ彼氏出来たって本当なの!?」
「きゅっ、急に何お姉ちゃん!」
「どうなの!?」
「で…出来た…けど」
「あぁ…!神よありがとう!」
夢菜の姉は喜びのあまり神に感謝を伝えた。
「ちょっ、大袈裟だよ!」
「全然大袈裟じゃないわよ!夢菜ってば女子校行ってるうえに家でゲームばっかりやってるし、一生彼氏できないんじゃないかってこっちはずっと心配してたんだから!」
因みに夢菜の姉は大学生で、何人目かの彼氏がいる。
「で?どこで知り合ったの?」
「え…と、初めて会ったのは前やってたゲームでだけど…」
「え。ゲームで?それって大丈夫なの?」
「もうっ!お姉ちゃんそういう偏見良くないよ!」
ゲームを一切やらない姉は不安を覚えたようだが、それに対して夢菜はプンスカ怒る。
海斗の事を誤解されては堪らない。
「ゴメンゴメン。あ、写真とか無いの?」
姉は謝りつつも、やはり不安を拭いきれないらしい。
「一応あるけど…」
夢菜は渋々スマホを取り出し海斗の写真を見せる。
すると、姉の反応がコロッと変わった。
「あら、なかなか良いわね。アンタが惚れたのわかるわ」
「エヘヘ、でしょ?」
海斗はイケメンではないのだが、この姉妹の好みは一緒だったらしい。
彼氏を褒められ夢菜の機嫌も戻る。
「なるほどねぇ。じゃあこの彼と夏祭りデートする為に浴衣の用意をしてた訳ね?」
「ま、まぁ…」
「そういう事なら任せなさい!お姉ちゃんが目一杯可愛くしてあげる!」
「ホント!?ありがとうお姉ちゃん!」
夢菜は普段化粧をしたりオシャレしたりなどしない分、こういう時の姉の存在はありがたかった。
なんなら浴衣もどうやって着たら良いかと悩んでいたところだ。
「あ、一緒に行く友達もこれから来るんだけど、その友達の着付けもお願いできる?」
「オッケーオッケー!ふふ、腕が鳴るわぁ。夢菜素材は悪くないんだから、きっと変身しちゃうわよ?」
「え、ぇえっ!そ、そうかなぁ…」
姉からの嬉しい言葉に頬を染める夢菜。
と、そこでピンポーンとインターホンが鳴った。
紅葉が来たのだと気付き、慌ててドアへ走る。
「いらっしゃい紅葉ちゃん」
「ありがとう夢ちゃん。お邪魔します」
そうして入ってきた紅葉を見て、姉は驚愕した。
「ゴメン夢菜」
「え?」
「アンタ素材良いって言ったけど…本物には勝てないわ」
「お姉ちゃん!?」
ショックを受ける夢菜の声が廊下にこだました。
「ふぅ、こんなもんかな?」
夢菜に化粧を施し、額の汗を拭うような仕草をする姉。
「わぁ、夢ちゃん可愛い!」
「ゆめねぇかわいいー」
「かわいいー」
テンション高々な紅葉の隣で幼い双子の男女が同じように喜ぶ。
勿論夢菜の弟と妹だ。
因みに独り立ちしている兄もいるので5人きょうだいだったりする。
「夢菜は元々タレ目だから、敢えてそれを強調して庇護欲を誘う感じにしてみたわ!どう?」
夢菜は鏡をジーっと眺めてから、おもむろに眼鏡をかけた。
「あ、ホントだ可愛い」
「…できれば隠れないようコンタクトにして欲しいんだけどね」
「それは…ごめんなさい」
オバケは怖くないが目に何か入れるのは怖いようだ。
因みに紅葉には既にナチュラルメイクを施してある。
「さて、次はヘアセットね!紅葉ちゃんここ座って」
「はい」
言われるがままに座った紅葉の髪を下ろして手を付け始める姉。
「うわ、美少女な上に髪までサラサラじゃない。サラサラ過ぎて逆に纏まんないわ」
「えっ」
その言葉に不安を覚える紅葉。
美少女といえども、紅葉だって温人に可愛いと思われたい。
「紅葉ちゃんは普段も1つに結んでるの?」
「あ、はい」
「なら、敢えてハーフアップにしましょうか。いつもと違う感じにしたらきっと彼氏もドキドキしちゃうわよ♪」
「そう…でしょうか」
((照れる美少女とか眼福すぎる…!))
顔を赤くする紅葉を見てシンクロする夢菜と姉。
やはり姉妹だ。
「落ちないようにスプレーで固めちゃうけど良い?」
「はい、お願いします」
何とかなりそうな口振りにホッとする紅葉。
姉は手早く纏め、案外すんなり紅葉のヘアセットを終わらせた。
続いては夢菜だ。
「夢菜の髪は若干天パだからアレンジはしやすいんだけど、量が多いのよねぇ」
「うっ」
紅葉と違い、うねりがあって量も多い髪は夢菜のコンプレックスの1つだ。
普段三つ編みをしている理由でもある。
「まぁでも、編み込みまくって良い感じに可愛くしてあげるから任せなさい!」
「お姉ちゃん神…!」
「やだ、今度から自分に祈らないといけないじゃない」
そんな微笑ましい会話をしつつ、慣れた様子で髪が編み込まれていく。
最終的には当初のボリュームが分からないほどに可愛くまとめられた。
「お姉ちゃん神…!?」と呟いた夢菜の本気度は凄かった。
「さて、残すは着付けね!ちょっと夢菜は大変そうだから紅葉ちゃんから着ましょうか」
「「?」」
姉の言葉に首を傾げる夢菜と紅葉。
暫く後に、その言葉の意味を理解する事になる。
「お…お姉ちゃん…苦しい…っ」
「アンタが無駄にデカいのがいけないのよ!浴衣は胸をしっかり潰さないとだらしなく見えるんだから頑張りなさい!」
ギチギチと晒を巻く姉と苦しむ妹。
姉妹だけに容赦が無い。
胸は晒で押し潰しウエストはタオルでかさ増しするという、夢菜はなんともけしからん体をしている。
「ほら!頑張れ!浴衣美人は我慢が大事よ!」
「がまん…だい…じ…」
もう夢菜の声はカスカスだ。
そんな夢菜を近くで見守る紅葉はというと
(別に…無いわけじゃない…もん)
自分もウエストはかさ増ししているし苦しいが、夢菜ほどに苦しみを伴わずに着られた分複雑な心境だった。
「よし完璧!」
そんなこんなで苦行を乗り越え、無事に2人の着付けが完了する。
今回頑張ったMVPである姉は出来栄えに非常に満足そうだ。
「おねえちゃんたちかわいいー♪」
「かわいいー♪」
双子達も2人を見て喜んでいる。
「お姉ちゃんありがとう!私達だけじゃ着れなかったよ!」
「本当に助かりました!ありがとうございます」
「いいのよ。私も楽しかったわ♪ほら、遅れないように早く行きなさい」
姉達に見送られ、夢菜と紅葉は折角着た浴衣が崩れないよう必死に小股で神社へと向かいだした。
締め付けられて苦しいし、タオルなど巻いてる分暑いが、それでも見せたい人がいるのではやる気持ちを抑えられない。
ドキドキとした気持ちで、2人は歩を進めたのだった。
******
「リアルの夏祭りって久しぶりだな」
「あー確かに。ゲームの夏イベにばっか参加してたもんな」
海斗の言葉に頷く温人。
待ち合わせ時間には少し早いが、彼女との夏祭りデートに胸を踊らせて早めに神社へ向かっていた。
同じように夏祭りに行くであろう人達が多くおり、度々浴衣姿の人を見かける。
次第にソワソワする2人。
「…紅葉達も、浴衣かな」
「見たいな。浴衣」
彼女の浴衣姿を想像してテンションが上がる。
「紅葉はゲームでも和服っぽいの着てるし、確実に似合うな」
「まぁそうだろうな。けどそれでいうと、夢菜の方が新鮮味があって良いだろうな」
カチン
「いやいや、和服似合うのは絶対紅葉の方だろ」
カチン
「あ?喧嘩売ってんのか?」
「そっちこそ」
彼女が好き過ぎて一触即発状態になる2人。
だが、次の瞬間にそれは吹っ飛んだ。
「温人くん!」
「海斗さん!」
声のした方を向き、温人と海斗は雷に打たれたような衝撃を受けた。
二人同時に動き出し、彼女の手を取って素早く人の居ない方へ移動し始める。
「え!?温人くん!?」
「ど、どうしたんですか海斗さん!?」
急な2人の行動に驚きながらも小走りでついて行く紅葉と夢菜。
人の目に付きにくい所まで来て、温人と海斗は足を止めた。
「っっわかってた!似合うっていうのはわかってた!でもこれは反則…!可愛過ぎる…!!」
「!!」
温人の言葉にカァっと顔を赤くする紅葉。
もちろん海斗も止まらない。
「可愛過ぎてマジで別人かと思った…!あ〜っ、俺より先に見た奴がいっぱい居たとか許しがたい…!!くそっ!」
「海斗さん…」
夢菜も顔が真っ赤になる。
支度に時間が掛かったし色々苦労したけれど、それを補って余りある2人の反応に紅葉と夢菜は目を合わせて嬉しそうに笑い合った。
着てきて良かったと心から思う。
そしてそんな2人の笑顔を見て、海斗と温人はテレパシーを飛ばした。
『よし、別行動しよう温人』
『是!』
2人の華麗なるコンビネーションによって、紅葉と夢菜もよく分からない内にあっという間に二手に分かれる。
その日は無事、お互いに楽しい浴衣デートが出来たのだった。
夢菜も家族にはタメ口です。
浴衣を脱いだ時の開放感は封印を解かれた魔王気分。